青年期 125
…その後、お姉さんが連れて来た治安部隊の人達に男の身柄を引き渡して俺らは観光を再開する。
「いやー、まさかならず者に囲まれるなんて思いもしなかった」
「全くですね。裏路地とか危なそうな場所には近づいてないのに絡まれるとは…」
「この国は意外と治安が良くないのかも…」
表通りに戻った後に俺が笑い話のように言うとお姉さんも賛同しながら返し、俺は今後の事を見据えながら考えを改めるように呟く。
「もしかしたらこの町だけかもしれませんよ?」
「だといいんだけど。まあ、用心するに越した事はないし」
お姉さんのフォローするような発言に俺は適当に流すように返した。
その夜。
「ん?」
夕飯を食べ終えて片付けをしていると部屋のドアがノックされる。
「はいはい」
俺がドアを開けると令嬢を誘拐しようとしていた刺客の一人であるおじさんが立っていて…
「こんばんは。今お時間よろしいですか?」
シルクハットのような帽子を取りながら挨拶すると確認を取ってきた。
「何か用?」
「少々お時間をいただきたいのですが…」
「分かった。ちょっと出かけてくるから片付けお願いしていい?」
「分かりました」
俺の問いにおじさんは場所を移すような目配せをしながら言うので俺はお姉さんに後片付けをお願いして部屋から出る。
「夜分遅く、急にすみません。昼間になにやら揉め事があったそうで」
「ああ。なに?逆恨みでの敵討ち?」
外に出るとおじさんが断りを入れるように謝って不穏な事を言い出し、俺はソレで察して確認するように聞く。
「まさか。お仕事ですよ。貴方とは一度戦ってみたかった事もあり、丁度良かったのでね」
「仕事、ねぇ…今の内に言っとくけど先生を誘拐とかしたら傭兵団を動かすからタダじゃ済まないよ?」
「『先生』?同室にいたあのお嬢さんの事ですか?ならば心配いりません。私が受けた依頼は貴方を痛めつけて倒す事で、誘拐は関与しておりませんので」
私の仲間達も関与していませんよ。と、おじさんは他の4人への疑いも晴らすように告げた。
「そう?でもやるとしても今は気軽に外に出れる状況じゃないし…」
「はっはっは。貴方もやろうと思えば気軽に往き来できるでしょう?町の南側に行きましょう。そこならば兵士達の邪魔も入らない」
俺が安心しながら戦う場所について悩むとおじさんは笑って強引な提案をする。
「分かった。町の南側ね」
「ではお先に」
俺の了承に、おじさんは挨拶するように言って指定した場所へと走り出す。
「…俺がすっぽかしたらどうするつもりなんだ…?まあいいや」
俺は微妙な顔で呟きつつも気を取り直して一旦部屋の中へと戻った。
「お帰りなさい。早かったですね、何の用だったんですか?」
「なんか昼間のならず者から俺を倒すよう依頼を受けてこれから戦いたいんだと」
「え。坊ちゃんと…?」
お姉さんの問いに俺がおじさんの用件を教えるとお姉さんは驚いたように信じられない感じで呟く。
「…それはまた命知らずというか、なんというか…」
「…んじゃ、頼んだ」
「おう。頼んだぞ」
お姉さんが微妙な顔で呆れたようにまたしても呟くのをスルーして…
俺は変化魔法を使って分身し、分身の俺をおじさんの所へと向かわせる。
「…来ましたね」
分身の俺が南側の壁を乗り越えて歩いているとおじさんが声をかけてきた。
「ごめんごめん、待った?」
「いえ、全然」
分身の俺の気軽な感じでの待ち合わせ的な確認におじさんは帽子のツバを摘みながら否定する。
「念のためもう少し離れようか」
「ええ、分かりました。邪魔が入ると面倒ですから」
分身の俺が指差しながら提案するとおじさんも快諾するので町から更に離れた場所へと移動した。
「…これぐらい離れてれば邪魔は入らないでしょ…とりあえず確認するけど、一人でいいの?」
「ええ、そうです。みんな乗り気ではなく、 断っていたので…貴方の強さに興味が湧きました」
「俺も是非戦ってみたいと思っていたところだよ。丁度良かった」
分身の俺の確認におじさんは肯定して依頼を受けた理由を話し、分身の俺もおじさんの気持ちに賛同するように余裕を見せながら返す。
「ふ、ふふふ…お互い様、といったところですか…」
「…興味本位で聞くけど…依頼の報酬はいくらだったの?」
「共通金貨10枚でございます」
「…約100万って…やっす」
不敵に笑うおじさんにふとした疑問を尋ねると普通に教えてくれ、分身の俺は値段にガッカリしながら呟く。
「依頼を受けるだけで5枚、成功報酬の後払いで5枚なので妥当では?暗殺や殺害では無く、あくまで痛めつける事が目的ですし」
「そう?それでも安いと思うんだけどな…」
おじさんはフォローしてくれるように言うも分身の俺はあんまり納得できずに微妙な顔で呟いた。
「勝てずとも挑むだけで5枚は破格だと思いますが」
「うーん…まあそれもそうか。治療費だと考えればそんなものかな」
「ははは、これはなんともまた強気な」
おじさんの更なるフォローに分身の俺がギリギリでなんとか気持ちの帳尻を合わせるように納得するとおじさんは楽しそうに笑う。
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