青年期 75

…翌日。



今日は週一の修行の日なので傭兵団のみんなには村に滞在して休養するよう指示を出し、お姉さんと共に近くのダンジョンへと向かう。



「…おおー、流石に国が違うと生息してる魔物もちょっと違うなぁ…」



…中級者向けのダンジョンを進み、第四階層まで下りると初見の魔物を見つけ…



俺は嬉しさと楽しさを感じながら呟く。



「アレは『ゴーレム』ですね。魔石を核に土や砂、石が集まって出来たとされる魔物です。私も初めて見ました」


「ゴーレムか…確か物理攻撃に強くて魔法に弱いっていう魔法生物だったっけ?」


「はい。ですが火や土の属性魔法なんかはゴーレムに使うと逆に強化されてしまうようです」



お姉さんの軽い説明に俺が本で見た知識を尋ねると少し訂正するように返す。



「…まあ土や石の塊だから…水をかけた後に火で燃やすとレンガになりそうだし…」


「あー…その発想はありませんでした。なるほど…」



俺がゴーレムの性質と化学の知識を合わせて呟くとお姉さんは意外そうに納得する。



「逆に火で燃やして高温にした後に水をかけると割れるだろうね。温度差には弱いだろうから」


「…確かに。お皿とかを火に直接かけて直ぐに水で冷ますと割れますもんね…流石は坊ちゃん。日常における生活の知恵を魔物攻略に活かすなんて…!」



続く俺の予想に、お姉さんが目から鱗といった様子で褒めてきた。



「まあ、ソレを知ったところで俺には無意味なんだけど」


「…そうですね」



俺が軽い感じで今までの話の内容を台無しにするような事を言うとお姉さんは困ったように笑う。



「とりあえず。どんなものか…」


「気をつけて下さいね」



初めて見る魔物がどの程度の強さなのかを確かめるために俺はゴーレムへと近づく。



「オォォォ…!」


「おっと。動きは鈍いが力は強い…か」



俺に気づいた2m半ほどのゴーレムが勢い良く腕を振りかぶって振り下ろしてくるが、俺は軽く回避して魔物の情報を思い出すように呟いた。



「坊ちゃん!技にも気をつけて下さい!」


「オッケー!大丈夫!」



お姉さんが離れた場所から注意を促すので俺は安心させるように返す。



「オォォォ…!」


「…う…まあこんなもんか」



ゴーレムの上半身を駒のように回転させながら勢いをつけたパンチを俺はあえて避けずに右腕でガードし、どの程度の威力かを体験する。



「オォォォ…!」


「…『力が強い』と言っても瞬間的にグリーズベアーに並ぶぐらいか…」



一発ガードして大体の力は把握出来たので俺はもはやノーガードでゴーレムの攻撃を受けながら分析した。



「…よし」


「…オ…ォォ…」


「どうでした?」



俺が抜き手でゴーレムの核を抜き取ると風の音のような悲鳴を上げて身体が崩れ落ち、お姉さんが駆け寄ってくる。



「所詮中級だね。強さで言えばダチョウと同じぐらいかな」


「…なるほど…魔石もなんかレンガみたいですね」


「うん。延べ棒とレンガの中間…って感じ。はい」


「ありがとうございます!…ゴーレムの魔石なんて初めて見た…!」



俺の評価にお姉さんは俺が手に持っている魔石から目を離さずに返すのでその魔石を渡すと上に掲げながら喜んだ。



…その後もダンジョンを進んで行くもゴーレム以外には初見の魔物が見つからないまま最下層へと到達した。



「結局ゴーレムだけかぁ…」


「みたいですね」



最下層にはキマイラが居たので俺がガッカリしながら呟くとお姉さんは若干困ったように笑う。



「ギュアア!!」


「…まあでもゴーレムだけでも…うるさい」


「あ」



人が気を取り直そうとしてるのに吠えながら襲いかかってきたキマイラに、俺はつい一撃で心臓抜きをして倒してしまった。



「あ。しまった…いきなり襲いかかってくるから、つい…」


「いや、いきなりではなかったですけど…」


「…まあいいか。はい」


「ありがとうございます」



俺が言い訳するように呟くとお姉さんはやっぱり困ったように笑って否定するように呟き、俺は改めて気を取り直してお姉さんに魔石を渡す。




「…お?あれ…?」


「アレって…もしかして…」



ダンジョンの最下層を進んでいるとミノタウロスのような大きな魔物を発見したが、明らかに見た目が違う。



「えーと…なんだっけ?タイタンじゃなくて…イエティ…じゃなくて…トロール…でもない…」


「えーと……あ!思い出しました!『サイクロプス』です!」


「そう、それ!」



俺が魔物の名前を思い出そうとして呟いているとお姉さんも考えながら呟き、声を上げて一つ目巨人の魔物の名前を言うので俺は指を差して賛同する。



「あ」


「気づかれちゃいましたね」



流石に騒いだせいで魔物に見つかり、ドスドス!と大きな音を立てて大きな棍棒を手にコッチに向かって走ってきた。



「ウオオオ!!」



俺も歩いて近づくとサイクロプスは叫びながら力任せに大きな棍棒を振り下ろし…



「おうっ!」


「大丈夫ですか?」


「なんとかね」



俺が右腕を上げてガードすると地面にヒビが入り、俺の足下に軽いクレーターみたいなのができる。

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