青年期 200

…翌日。



作業が始まる前に先ずは猟兵隊の団員達を集めて褒美…報酬の話をするとめちゃくちゃ喜んで大騒ぎ状態になり…



その後に解散させ、今度は各領地から来てる兵達を集めて報奨金の話をするとやっぱりめちゃくちゃ喜んでくれた。



「…おおー…昨日までとやる気が全然違う」


「やっぱり報酬が貰える…となると、みんな『頑張ろう』って気になりますからね」



…宿屋に戻る前に国境の方に様子を見に行くとみんなが張り切って作業しているので分身の俺が意外に思いながら呟くとお姉さんは理由を話す。



「まあ張り切り過ぎて怪我しないといいんだけど」


「そうですね。私の出番が来るような事態にならなければいいんですが…」


「流石に医療部隊だけで十分でしょ。そんな大怪我するような危険な作業なんて少ないんだから先生の出番なんて無いよ」


「ですね」



分身の俺の心配に思いながらの発言にお姉さんがフラグを立てるかのように言い、すぐさまフラグをへし折るとお姉さんは賛同するように笑う。



「…外側の塹壕は坊ちゃんが?」


「いや、塹壕は掘らない。敵を迎え撃つ地点はココじゃないから往来がしづらくなると面倒だし」


「国境の守りを薄くするんですか?」


「どうせしばらくは休戦期間だから敵は攻めてないじゃん?それに…結局戦うのは国境よりも外側になるだろうからね」


「なるほど」



お姉さんは作業を見て確認するように疑問を尋ね、分身の俺が否定したら意外そうに返されるので理由を話すと納得する。



「まあ俺ら猟兵隊の恐ろしさは骨身に沁みるほどに感じたハズだからそう簡単には攻めて来れないと思うけど」


「四万余りの大軍が千余りの部隊と正面からぶつかって逆に蹴散らされるなんてトラウマものですよ」


「ははは。セイレーンの技のおかげだね」


「強歌と弱歌ってホント反則レベルの技ですね。…問題は使用者本人には一切恩恵が無く…地力が無いと真っ先に狙われて落とされる事と、使用者が死ぬと効果が解除される点ですが」



分身の俺の楽観的な発言にお姉さんも同意し、分身の俺が笑って返すと…



お姉さんはセイレーンの技の性能を褒めた後に何故か釈迦に説法のようにサポート技の問題点を指摘し始めた。



「でも一度使うだけで半日ほど効果が維持されるなんてありがたいじゃん?持続的に使い続けなくてもいいわけだから魔力の消費も少なくて済むし」


「そこも良く分からないんですよね…使用者、つまり魔物が死ぬと効果が切れるのに、生きてる間はずっと効果が持続してるなんて…」


「まあ、一番ヤバいのは重ねがけが可能な点だよね。流石に二重までしか効果無いけど、セイレーンが二体以上近くに居るだけでマスタークラスのハンターでさえ逃げないといけないレベルになるみたいだし」



メリットがデメリットを超えて余りある…的な説明をするとお姉さんが首を傾げながら不思議そうに呟き、分身の俺は笑いながらセイレーンの脅威を話す。



「…あっ!坊ちゃんもしかしてあの時、弱歌を重ねがけしてたんですか!?」


「うん。流石に強歌の重ねがけは強化魔法を使う人の負担が増すから一度しか使ってないけど」



するとお姉さんが思い出したように確認して来て、分身の俺は肯定して補足するように教える。



…それから一月後。



隊長達への騎士の叙任と町の管理権の委任、団員達の土地の引き渡しと兵達への報酬の支払いがようやく終わり、国境の防備も予定よりかなり堅固な造りにする事ができた。



なので兵達は自領へと帰還させ…



猟兵隊の団員達は分け与えた町や土地の確認や管理があるし、ソレで金も必要になるだろう…と思い、半年分の給料を前借りとして渡してから一旦解散させる事に。



「…半年分も給料を先に渡すなんて大丈夫ですか?一旦解散してるので猟兵隊としてはほとんど機能せずに仕事なんて出来ませんよ?」


「別に大丈夫でしょ。ライツは協定があるから二年は攻めて来れないし」


「…仕事は出来ないのに給料は出る、だなんて素晴らしい職場だねぇ…あんたの私兵団は」



分身の俺がドラゴンに変身しての移動中にお姉さんが確認してくるのでそう肯定すると、何故か女性は嫌味だか皮肉だかを含めた感じで言う。



「そりゃライツとの戦争で命をかけて頑張ってもらったんだからこれぐらいの見返りはあって然るべきだよ。みんなそれだけの働きはしたんだから」


「…それもそうか」


「普通ならあんな無茶な作戦について来ませんもんね」



分身の俺の反論に女性が納得するとついでにお姉さんも納得する。



「それに…猟兵隊の仕事は基本的に戦闘と鍛錬だからね。みんなもそれぞれ個人鍛錬は欠かさないだろうから最低限の仕事はしてくれてると思うよ」


「普段の依頼は暇つぶしのついで扱いですからねぇ…そう考えると坊ちゃんの言う通りかもしれません」



…そうこう話してる内に王都と近くの拠点が見えて来た。



「…じゃあ降りるよ」


「はい」


「分かった」



分身の俺は確認を取ってからドラゴンの変身を解いてスライム化し、お姉さんと女性もスライム化させてから拠点内の本部の建物の近くに落下して帰還する。

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