青年期 159
その一週間後。
俺は傭兵団の団員を全員集め、みんなに私兵団について話す事にした。
「やあみんなお疲れ。もう既に聞いてると思うけど…色々考えて話し合った結果、今の傭兵団『猟兵隊』は解散する事にした」
俺が労いの言葉から入って報告をするとちょっとザワついたものの直ぐに静かになる。
「それで新しく私兵団を立ち上げようと思う。まあ私設軍とか私設兵団みたいなものだね」
「団長。傭兵団が解散って事は…その…」
「俺達はどうすれば…?」
俺の報告を聞いて団員の一部が不安そうにザワつき始めた。
「傭兵団を解散するのは一週間後。その後は自由だけど…俺としてはみんなには新しく立ち上げる私兵団『猟兵隊』へと移籍して欲しいと思ってる」
まあ強制じゃないからどうするかはあくまで個人の自由って事で。と、俺は傭兵団を解散した後と私兵団を立ち上げた後の事を話す。
「…団長、その私設兵団に入ったらどうなるんだ?今とどう違う?」
「活動内容とかはあまり変わらないけど、収入の面が大幅に変わってくる」
「収入が…?」
「どういう事だ?」
「どういう感じになる?」
団員の質問に俺が答えると他の団員達が不安や心配するように聞いてくる。
「今までは依頼を受けて、成功報酬を分配する…っていう傭兵の基本形式だったわけじゃん?でも私兵団になると俺が給料を出す事になる」
「団長が…?」
「だから傭兵稼業の常識である『稼げる時と稼げない時の不安定な波』ってのが無くなって、安定収入に変わる代わりに稼げる時のドカンと大量収入…ってのも無くなる」
「…つまり、どういう事だ?」
「安定収入に変わるって事は正規兵みたいなもんか?」
「でも収入が保証されてるんなら生活が楽になるんじゃないか?」
俺の説明に団員達の一部が理解し切れずに不思議そうな顔で呟くが、他の理解し切れた団員達が解説するように教えてくれた。
「…で、その収入はいくらぐらいなんだ?」
「そりゃココにいる団員達は優秀な精鋭達なんだから年収で300万…共通金貨30枚分だよ」
「「「「うおおおー!!!」」」」
「共金貨30枚だってよ!」
「しかも毎年だろう!」
「月だと2枚ぐらいか…!」
「田舎に仕送りをしても十分に食べていける!」
団員が気になる疑問を聞いて来たので一般の下っ端に払う額を告げると団員達はみんな喜んではしゃぎ始める。
「まあ今の傭兵団と新しい私兵団の違いは雇い主の差、だね。それ以外は変わらないからやる事もいつも通りで『依頼』が『任務』や『仕事』に変わるだけだし」
「…だったら私兵団の方が良いんじゃないか?」
「『安定した生活』ってのは俺らには無縁だと思ってたのに…!」
俺の要約を聞いて団員達は嬉しそうに乗り気になって話し合う。
「…なあ団長。私兵団に入ったらハンターの仕事とか団長の呼び名とかはどうなるんだ?」
「今まで通りで良いと思うよ」
「隊長達とか隊の編成とかもか?」
「そう。ぶっちゃけると傭兵団から私兵団に変えるのは俺が持ってる領内の兵達と連携が取れるように…って理由だから移籍しても収入以外何も変わらないんだよね」
団員達が疑問を聞いてくるので俺は答えるのが面倒になって私兵団に変える理由を話した。
「領内の兵と…?」
「傭兵だったら侮られて指示を聞かなかったり、逆に嫌がらせとかをされる可能性も出て来るけど…領主である貴族の私兵にそんな事出来るわけないじゃん?」
「…確かに」
「なるほど…」
「それもそうだ」
団員の不思議そうな呟きに最悪の事態を想定して対応してる事を告げるとみんな納得しながら返す。
「数は力になるし、兵数が多いとみんなの負担も減らせるわけだから協力するとお互いに助かるでしょ?」
「そうだな!」
「そうだそうだ!」
俺がメリットを話すと団員は賛同するように声を上げる。
「じゃあまあそういうわけで…他に質問は無い?」
「…なんかあるか?」
「いや…お前は?」
「ない…な」
俺の話を終えるように言っての問いにみんなは団員同士で確認し合うと徐々に静かになっていった。
「…もう質問が無いんなら話はこれで終わるよ。移籍の手続きとかはみんな一斉にやると事務員が大変だから、隊ごとに行うよう隊長には伝えてあるから」
んじゃ、解散。と、俺は報告や話が終わったのでみんなに合図をして自室へと戻る。
「…ふー…」
「お疲れ様でした」
「ありがと」
俺が本部の建物に入って息を吐くと後ろからついて来ていたお姉さんが労いの言葉をかけてくれ、俺はお礼を言う。
「…いよいよコレで坊ちゃんも『ただの傭兵』ではいられなくなりましたね」
「…エーデルが卒業するまでまだ時間あるし、予定や想定よりもかなり早いけど区切りは付けとかないといけないからね」
お姉さんの意地悪な笑みからのプレッシャーをかけるような発言に俺は笑いながら余裕を見せて返す。
「しかし私兵団に変える本当の理由は『気持ちの整理や区切りを付けるため』なのに、あれほどの正当な…みんなを納得させられる理由を即座に思いつくのは凄いと思います」
「いや、どちらかと言えば先生に伝えたのが建前でみんなに話したのが本音だよ」
「あ、そうでしたか」
お姉さんが思い出して感心するように褒めるので俺は否定しながら訂正するように言うと、お姉さんは恥ずかしがる様子もなく普通に流すような感じで笑う。
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