青年期 38
…そんなこんな王都で色々と準備しての翌日。
「坊ちゃん、どうやら来客のようですね」
「来客?誰?」
実家には帰らず宿屋で国に申請する書類を準備していると…
お姉さんが来客を告げて来るので俺は書類から目を離さずに尋ねた。
「失礼する。君がリデック・ゼルハイトで間違いないな?」
「そうですけど…見ての通り忙しいんで、用件は手短にお願いします」
するとお姉さんが相手の事を話す前に男性が勝手に部屋の中に入って来て確認するように尋ねてくるので、俺は来客に目を向けずに答える。
「そうか。ではコレを渡しておく」
「あ、はい」
「…確かに渡したぞ。ではな」
男性はお姉さんに何かを渡すと部屋から出て行った。
「…封筒みたいですけど…」
「封筒?」
お姉さんが俺に受け取った物を言いながら渡してきて俺は書類から目を離して受け取る。
「……わお…」
「なにが書かれてるんですか?」
…封筒の中に入ってた書類に目を通し、その内容に俺が驚きながら呟くとお姉さんが興味津々といった様子で聞いてくるので…
「国境を防衛したからその功績の報酬として騎士の爵位をくれるんだって。ほら」
俺は軽く内容を教えてお姉さんに書類を渡す。
「え!?………ほ、ほんとだ…!」
「なんか今日の夜7時から叙任式があるって書いてあるけど…馬鹿じゃない?」
「いくらなんでも早すぎやしません?」
お姉さんも書類を読みながら驚き、俺が愚痴ると困ったように笑いながら同意した。
「軍服とか持ってないんだけどなぁ…まあ簡易式だから多分鎧とかでも良いんだろうけど…」
「でもこの叙任式って国王が直々に行うらしいので、公爵とかの有力貴族も集まるのでは?」
「…よし!じゃあもういっそこのまま行って馬鹿にされてくるか」
「ええっ!?大丈夫なんですか!?」
俺の呟きにお姉さんが心配そうに聞くので逆張りの精神で返すと驚きながら確認してくる。
…その夜。
「…ぼ、坊ちゃん…ほ、本当にその格好で…?」
「『悪名は無名に勝る』って言葉があるからね。どうせなら盛大に馬鹿にされた方が面白いって」
「…ですが…式典でフルプレートメイルというのは、流石に……知りませんよ、どうなっても…」
城門の前でお姉さんが止めるように確認してきたが…俺が中途半端な悪あがきよりも評価を最低まで落とす事を選択したらお姉さんは呆れたように返す。
「…リデック…あなた本気だったのね…」
「いやだって昨日の今日で叙任式っておかしくない?どう考えたって準備が間に合うわけないじゃん」
ガチャガチャと鎧の音を立てながら城の中を歩いていると両親に遭遇し、母親が呆れたような目を向けながら呟くので俺は言い訳するように愚痴った。
「…まあ、普段着に比べればフルプレートメイルの方がまだ幾分かは良いかもしれんが…しかしこのような式典で、とは…」
父親も微妙な顔をしながらさっきのお姉さんと同じような事を呟く。
ーーーーーー
「はー、終わった終わった…」
貴族達にめちゃくちゃ馬鹿にされながらの叙任式は簡易式だったので30分ほどで終わり、俺は退室して直ぐに鎧を脱ぎながら呟く。
「リデック、この後どうするの?」
「普通に宿屋に戻る予定だけど。まだ申請の書類が残ってるからね」
「良ければ夕食一緒にどうだ?」
「えー…じゃあまあ先生もどう?」
「え、良いんですか?じゃあ…」
母親の問いに予定を話すと父親が飯に誘い、俺がお姉さんを巻き込むと遠慮がちに了承した。
「ゼルハイト…いや、リデック卿か…久しいな。辺境伯の所での活躍は聞いたぞ」
「あ、お久しぶりです」
みんなで家に帰ろうとしてると…城から中庭に出る前に後ろから南の国境を守ってる侯爵のおっさんが話しかけてくるので、俺は振り向いた後に軽く頭を下げて挨拶をする。
「これはコンテスティ侯爵…いらしておられたのですね」
「うむ。ちょうど報告でこの王都に滞在していたのでな」
父親が頭を下げて挨拶するとおっさんは手で制するようなポーズを取りながら返す。
「しかし噂とは本当にアテにならんものだな。長男は『無能がゆえに孤児院に捨てられた』と聞いておったが実際はその逆、秘密兵器のように機が熟すまで隠していた…というわけだ」
次男を後継者に指名したのも…と、おっさんは父親を見て勘違いしながら評価するような感じで言う。
「いえ、まさか…『隠す』だなんてとんでもない…」
「まあなんでもいい。しかしあの格好だけはなんとかならんかったのか?」
「えーと…なにぶん急でして…」
「アレならばまだ戦場の時と同じく今の普段着のままの方が良かったのではないか?」
父親が否定するように呟くと話題を変えて呆れたように突っ込んでくるので俺が呟きながら言い訳をすると…
おっさんは予想外に意外な事を言ってきた。
「まあいい、面白いものを見せてもらったのだからな。では失礼する」
…やっぱり色々と忙しいのかおっさんは適当に話を打ち切ると挨拶をして去って行く。
「うーん…やっぱ普段着でも良かったのか…」
「みたいですね。意外でした」
「でも次回からは辞退した方がいいかも。一応今回ので前例としての断る理由が出来たわけだし」
俺の呟きにお姉さんが意外そうに返し、俺は他の選択肢も挙げる。
「あらあら。次回も考えてるなんて凄いわね…普通は一生に一度の機会があれば十分なのよ?」
「…確かに。じゃあ心配するだけ無駄だったかも」
母親が笑って弄るように言うので俺は前言撤回するように返した。
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