青年期 167
ーーー
「…ちょっといいかい?」
話が終わった後、隊長達みんなが部屋から出て行くと女性が戻ってくる。
「なに?」
「今まで変化魔法を使って無かったってのは…本当なのかい?」
「ああ、アレは嘘。本当は必要になる機会がある度にちょいちょい使ってたよ」
俺の問いに女性はさっきは周りに配慮して聞けなかったんであろう疑問を尋ねてくるので俺は正直に答えた。
「…それでも気づかれなかったのかい?」
「俺の使い方は他の魔法使いと違ってるからね」
「他の魔法使いは部分変化や並行変化なんてやりませんもんね。出来るかどうかも分からないですし」
女性が軽く驚いたような確認に俺が笑いながら理由を話すとお姉さんも笑って補足のような事を言う。
「部分…変化?並行変化ってのは魔法の並行使用みたいな感じなのか?」
「うーん…見せた方が早いではあるけど…その前に『変化魔法』についてどれだけ知ってる?」
女性の不思議そうな問いに俺は少し考えながら呟き、確認するように聞き返す。
「魔物に変身する魔法だろう?失敗したら魔物そのものになるとか」
「まあ簡単に言えばその通り。だから通常…普通の魔法使いは魔物化しないように精神鍛錬や魔力量を増やす鍛錬をする」
「…でもあんたのは違うんだろう?」
女性が変化魔法についての認識や知識を話すので肯定しながら常識である一般的な鍛錬方法を教えると、女性はその先を促すように聞く。
「まあ。でもやってる事は一緒。ただ使い方がちょっと他と違うってだけで」
「え!?」
俺は肯定するように言いながら変化魔法を使って右手をゴブリンの手に変化させるとその様子を見た女性が驚いた。
「コレが『部分変化』って言う身体の一部を魔物に変化させる技術」
「…そんなことが…?」
「…ソッチに分かりやすいよう感覚的に伝えるなら…強化魔法で身体の一部だけを強化させるようなものだね。右腕のみ、右手のみ、人差し指のみ…みたいな」
「…意味が分からない。そんな無意味な使い方をするなんて考えた事も無かったよ」
「でしょうね」
俺の説明に女性が不思議そうにゴブリンの手に変化させた右手を凝視しながら呟くので、強化魔法に例えて解説すると女性は困惑したように呟いてお姉さんが賛同する。
「並行変化ってのは違う場所を違う魔物に同時に変化させる事。こんな感じで」
「え…!?」
俺は説明を続けて視覚的に分かりやすくするため左腕をグリーズベアーに変化させると女性がまたしても驚く。
「…コレを強化魔法に例えて感覚的に説明するのは難しいな…攻撃、速度、防御の強化に分けたとして腕を攻撃、脚を速度に割り振る…みたいな感じだし…」
でも強化魔法はオール強化でそんな細かい分類がないからなぁ…と、俺は女性にどう伝えたものか…と考えながら呟いた。
「…つまりは魔法の並行使用です」
「…並行使用…」
「ほら、ロムニアの刺客のおじさんがやってたじゃん?無詠唱と詠唱の並行使用での攻撃」
「…ああ!なるほど!…って事は、あんたもそのレベルの使い手って事かい…!?」
お姉さんが助け船を出してくれるも女性はイマイチ理解出来てないように呟くので…
俺は前に戦った凄腕のおじさんの戦法を持ち出して言うと女性が理解して納得したような反応をした後に驚きながら俺を見る。
「まあそうなる」
「坊ちゃん強化魔法と変化魔法の並行使用も出来ますもんね」
俺が微妙な顔で肯定するとお姉さんはイタズラでもするかのように意地悪な笑顔で俺の奥の手をバラす。
「だって今でもそうだけど…厄災の龍と戦うには変化魔法だけじゃ勝つので精一杯で、出力が足りないじゃん?」
「…『厄災の龍』…アレを軽々と倒せるってのはやっぱ本当だったんだ…」
「いやいやいやいや。『軽々と』?コッチは毎回毎回死ぬ気で死ぬ思いでギリギリいっぱいいっぱいの状態で戦ってるのにそんな簡単に倒せるみたいに思われてんの?」
強化魔法を習得した理由を話すと女性が呆然とした様子で魔法協会で聞いたんであろう噂の真偽を呟き、俺は勘違いや誤解を解くようにめいいっぱい否定した。
「やっぱり魔石を取れるからじゃないですか?」
「…いや成功率低いでしょ。今で15回中3個なんだからそんなんで簡単に倒せると思われてもね」
「!あんたあの厄災の龍を15回も倒してるのかい!?」
「一応は」
「…は、ははは…マスターランクでも勝ち目が無いとまで言われる魔物をそんなに…」
お姉さんの予想に俺が反論すると女性が驚愕しながら確認し、肯定すると呆然としたように笑って呟く。
「あ、ココには嫁しか居ないから話したんであって、周りには絶対に言わないでよ?」
「…こんな事言っても盲目な信者の噂ぐらいにしか思われずに信じてもらえるわけがないよ…」
「それでも。今日の事は絶対に誰にも言わない事を約束して欲しい」
「…分かった。そこまで言うんなら約束する。誓うよ、今聞いた事は絶対に誰にも話さない」
「ありがと」
俺が口止めすると女性は微妙な顔で呟くが俺の真剣な顔での念押しに了承して真剣な顔で頷いてくれる。
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