青年期 72

その後、隊長達と話し合って援軍と防衛の半々に分かれる。



「んじゃ、行って来るわ」


「おう、頼んだ」



俺は分身した後に援軍の方を任せ、仮面やフードを深く被っての軽い変装姿で見送った。



「私は行かなくて良かったんですか?」


「拠点防衛の方が優先度は高いからね。なんせこの都市を守るのが俺らに依頼された仕事だし」


「なるほど」



お姉さんの不思議そうな顔での確認に俺が理由を話したら納得しながら返す。



「一応アッチにも俺がついてるから大丈夫でしょ。馬改造した『改造馬』で突っ込むだけで陣形を崩せるんだから」


「確かに。でも…分身を代わりに行かせる度に変装しないといけないのは大変そうですね」


「…仕方ないよ。混乱や困惑されたら余計面倒だし」


俺が医療部隊を留まらせた理由を更に続けて話すとお姉さんは話題を変えるように俺の格好について言及するので…



俺は肩を竦めて諦めるような感じでおどけるように言う。






ーーーーー





「アレか。一旦止まって!」


「進軍停止!」


「一旦止まれ!」



…馬に乗って拠点を出て将軍の所に向かう事約一時間半後。



遠くの方に敵か味方か分からない軍勢のようなものが目に入り、分身の俺が指示を出してみんなを止める。



「作戦通り敵の後ろから突っ込んで一撃離脱を繰り返す!」


「了解だ」


「突撃準備!」


「これから敵に突っ込むぞ!準備をしろ!」



分身の俺の指示に隊長達が団員に命令を出した。



「…行くぞ!突撃ー!」


「突撃開始!」


「突撃だ!」



みんなの準備が出来るまで少し待った後に分身の俺は号令を出して真っ先に馬を走らせておそらく敵であろう軍勢に突撃をかける。



「な、なんだ!?後ろから敵の援軍が!?」


「なんだって!」


「都市の方は公爵が抑えてるハズじゃ…!」


「…よし、離脱!」


「右に進路を取れ!」


「右だ!」



…どうやら俺らが後方から襲いかかった軍勢はちゃんと敵だったようで、混乱する敵兵達と10分ぐらい戦って態勢を立て直す前に離脱した。



そして挟み撃ちしてるもう一つの軍勢の後方へと回る。



「行くぞ!突撃ー!」


「なんだ!?後方から敵が…!」


「なんだって!?」


「うろたえるな!敵は寡兵、陣形を変える!」



さっきと同じく敵兵達が混乱するも…有能な指揮官の一喝と冷静な判断で直ぐに兵達が立ち直って行動し始めた。



「…離脱!」


「左に進路を取れ!」


「左に移動する!」



これはヤバイ…!と、分身の俺は5分も経たない内に離脱の判断を下してその場を離れる。



「…あらー…」


「追って来たか…どうする?」


「俺達の部隊で足止めするか?」



離脱する俺らの後ろを今さっき襲った部隊が追いかけて来ていて、隊長達が俺に指示を仰いできた。



「…俺が食い止める。多分もう撹乱は無理だ。まさか後方にも有能な指揮官を配置してたとは…」



どうせなら最後にさっき最初に襲った方の軍勢にもう一度バックアタックを仕掛けて撤退しよう…と、再び向かうも…



この短時間でガッチリ防衛陣形を取って待ち構えられていたので分身の俺は即座に諦めて隊長達に撤退を指示する。



「…分かった」


「言う必要は無いと思うが…気をつけてな」


「俺について来い!撤退する!」


「戦果は十分!撤退だ!」



隊長達はすぐに分身の俺一人を残して団員達と城塞都市へ撤退して行った。



「ははは!見ろ!一人だけ置いて行かれてるぞ!」


「命令違反でもしたのか?」


「貴様ら気を引き締めろ!」



コッチに迫って来ている部隊の数人が一人その場に残った分身の俺を見て笑うが、直ぐに叱られる。



「…よろしく。行こうか」



分身の俺は馬に変化魔法を使って馬改造すると敵に向かって突っ込んだ。



「なっ…!?正気か!?」


「…たった一人で何が出来る!」



逃げずに逆に突っ込んで来た分身の俺に敵部隊の兵達が驚きながらも武器を構えた。



「…がっ…!」


「…は…!?」


「なっ…!」



改造馬に乗った分身の俺と敵部隊が衝突すると分身の俺の正面にいた騎兵達が弾き飛ばされていく。



「はっはっは!アデュー!」



分身の俺は笑いながら挑発するように手を振りながら別れの挨拶を言い、そのまま将軍を挟み撃ちしてる敵の軍勢へと向かう。




「うわっ!」


「ぐっ…!」


「がはっ!」


「ぐぅ…!」


「奴をとめろ!」


「ははは」



改造馬が敵陣に突っ込むと敵兵達が次々と弾き飛ばされ、指揮官達がなんとか対策を取ろうとするもその頃には分身の俺は通り抜けた後である。



「ぐわっ!」


「くそっ!ぐはっ!」


「逃げろ!あの馬はばけも…うぐっ!」



反対側の敵陣に突っ込むと十数人撥ねられたところで敵兵達が道を開けるように避け始めた。



「やっほー」


「また来たぞ!逃げろ!」


「早く下がれ!」


「早くしろ!」


「貴様ら!持ち場を離れるんじゃない!」



二度目の突入に敵兵達は抵抗をやめたらしく必死になって馬を避けようと混乱状態になり、指揮官が慌てて命令を告げるも敵兵達は右往左往逃げに徹する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る