青年期 73

…そんなこんな右側左側と時計回りに突っ込んで敵陣をかき乱していると…



「ん?アレは…」



おそらく将軍が率いてる騎士団であろう騎士達と戦っている魔物の姿が見えた。



「魔物?なんでこんな所に……あ」



あの騎士団を相手に優勢なリザードマンを見て分身の俺は不思議そうに呟き、少しして理由に思い至る。



「へー…老師以外で初めて見た…」



…どうやらあの変化魔法の使い手が騎士団を足止めしてるせいで敵軍が混乱していても逃げ切れていないらしい。



「…なるほど。戦場では強化魔法の使い手が一強だと思ってたが…変化魔法の使い手もやるもんだな」



分身の俺は認識を改めるように呟き、将軍達の帰還を援護するためリザードマンに変身してる使い手の所へと向かった。



「なっ…!なんだコイツは…!」


「おおー、すげぇ。耐えるか」



スレイプニルとカースホースの部分変化と並行変化した改造馬が、横から不意打ち気味に変化魔法の使い手に突っ込むも…



普通の兵とは違い魔法使いは弾き飛ばされずにガードしたままズサササ!とすり足の状態で強引に押されながら困惑したように呟き、分身の俺が意外に思いながら褒める。



「コイツの相手は俺が引き受ける!今の内に進んで!」


「ぐっ…!この…!…ただの馬ではない…!」



分身の俺が騎士団に指示を出すと魔法使いが改造馬を止めようと踏ん張るが、速度が少し落ちたぐらいで一向に止まる気配が無いので驚愕しながら呟いた。



「ちぃっ!」


「おっと。逃がさないよ」



そして戦場から少し離れた場所まで運ぶと魔法使いは横に飛んで転がるように抜け出し、俺は馬を止めてから飛び降りる。



「変化魔法の使い手と戦うなんて初めてだからね。後学のために少し俺に付き合ってもらうよ」


「邪魔をするな!」


「おっと」



分身の俺の余裕の発言に魔法使いは振り切って逃げるような真似はせず、爪で貫手のように突いてくるが軽く回避した。



「…!貴様、できるな!」


「ははは、これでも俺ハンターよ?魔物との戦いならお手の物だし」


「ならば…!」



魔法使いはたった一回避けられただけで分身の俺の実力を見抜いたような反応をするので分身の俺が笑って挑発すると一歩後ろに下がる。



「…まさかコレを使う事になるとはな!貴様もこれまでよ!」


「はー…グリーズベアーか」


「くはは!この国でこの魔物に自由に変化出来るのは俺だけだ。相手が悪かったな」



魔法使いが変化魔法を使ってグリーズベアーに変化すると余裕が出た態度で勝ち誇るように笑う。



「おっ…とっ、と…」



魔法使いは四足ダッシュで突進してきて分身の俺が避けると転がるように体勢を立て直して立ち上がり、両手をブンブン振るう。



「…なにっ…!?」



…グリーズベアーごときの攻撃なら当たっても傷一つ付かずに挨拶で軽く叩かれた程度の衝撃でしかないのだが、一応噛みつきを含めた全ての攻撃を避けると魔法使いが驚愕する。



「貴様…!まさか、そのレベルのハンターだったのか…!しからば…使いたくは無かったが出し惜しみしてる場合では…!」



魔法使いは分身の俺を恐れたように呟くとすぐさま仕方なさそうに…嫌そうな感じで呟いた。



すると魔法使いの姿が人狼…ベオウルフに変わる。



「フウウ…チカラ…力が…溢れレ…こ、コノ姿ハ長クハ保タナイ…ソクザニ…シネ!」



魔法使いは狼となった顔を両手で押さえると明らかに異常な様子で呟き、バッと両手を広げて天を仰ぎながら吠えるかのようなポーズを取って叫ぶ。



「やっべ!」



分身の俺がポーチから武器を取る間も無く素早い動きで距離を詰めて攻めかかってくるので、分身の俺は焦りながら素手で応戦した。



「そのレベルの使い手だったのか!せめてミノタウロスだろ!」


「ウオォー!!」



分身の俺はなんとか魔法使いの攻撃を素手で捌きつつ愚痴るように言うと、魔法使いが少し距離を取るように下がった後に天に向かって隙だらけの遠吠えをする。



「…はー、コレが精神汚染か。なるほどね」



多分誘ってるであろう行動に分身の俺は踏み込まずに距離を保ったまま老師の昔の言葉を思い出しながら確認するように呟いた。



「分身の俺が魔物化した時にはこんな兆候無かったと思うが…個人差か?おっと。まあいいや」



分身の俺が考えるように呟くと魔法使いがまた襲いかかってきたので初撃を軽く避けて続く爪での攻撃を素手で捌く。



「ハハハ!ドウダ!コレガキワメシモノノチカラダ!」



…それから5分ぐらい魔法使いの攻撃を素手で捌きながら確認と観察をしてると…



魔法使いが優勢だと勘違いしたのか、調子に乗って大それた大言を抜かし始める。



「『極めし者』、ねぇ…この程度でか?あっさいし、やっすい技術だなぁ…まあいいか。十分に見たし」



分身の俺は呆れながらこき下ろすように呟き、変化魔法の極技その3を使って魔法使いの変化魔法を強制的に解除した。



「…は…?」



元の人間の姿に戻った魔法使いが何が起きたか理解出来てないような顔で分身の俺を見るので…



「付き合ってくれてありがとうございます。おかげで良い勉強と経験になりました…では」


「ぐっ…!?」



分身の俺はお礼を言って軽く頭を下げた後に笑顔で別れの挨拶を告げ、心臓を殴って気絶させる。

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