青年期 209

…その後。



アッチでの出来事を前線司令官に報告し、作業中の兵士達に話を聞いた結果…



とりあえず進める…戻れる所まで戻り、そこに再度設営を開始する事に決まる。



「しかし恐れいる働き振りだな。足止め役を買って出ただけではなく、よもや敵を撤退させる事まで出来たとは」


「…ありがとうございます」



…みんなで移動中に前線司令官の男性が上機嫌で賞賛の言葉をかけてくるが、分身の俺は受け流すようにお礼を言う。



「だがなぜ一騎打ちで勝利した後に敵を殺さなかった?いや、殺す必要は無くとも人質として捕える事は出来たはずだが?」


「約束を守らせるため、ですよ。部下のいる前で一騎打ちを受けた以上、負けた後の約束を反故するようではその後の士気に関わってきますので」



男性の疑問に分身の俺はそんなん俺の勝手だろ、と思いながらも一応理由を説明した。



「それならば人質にして敵に撤退を迫る交渉をするか、殺して我らの士気を上げて奴らの戦力を削いで次戦に繋げた方が遥かに効率的のように思えるが…」


「この戦いに勝つだけ、であればその通りだと思います」


「…なに?」


「いえ、なんでもありません。出過ぎた真似を…」



嫌味のような感じで言う男性に分身の俺は反論するように返すも多分理解されないだろうと悟り、面倒になって引き下がる。



…それから夜になるまで進み、斥候の兵達と合流して報告を聞いた結果…



その場で設営を開始して陣を敷く事に決まった。



「…敵は意外と結構な距離を撤退してたんだな…」


「まあこういう場合は正確な距離とか場所とか決めませんからね」


「一旦下がった分、時間をロスした気分だけど…結果的には戦わずに前線を押し戻せて良かったかもね」



テントの中で分身の俺がありがたく思いながら言うと分身のお姉さんはふんわりと曖昧な事を返し、分身の女性が今日の一日を振り返って結果オーライ的な事を言い出す。



…翌朝。



「…おお。起きたか」



日が昇って周りが明るくなった時間帯に起きてテントから出ると近くに立っていた男性が分身の俺に気づいて声をかけてくる。



「おはようございます」


「さきほどの軍議で貴殿らに一万五千の兵を預ける事が決まった。我らの勝利に貢献してくれる事を期待しているぞ」


「…え…?」



分身の俺が挨拶をすると男性は報告してどこかに歩いて行き、分身の俺はわざわざソレを伝えるために起きるのを待ってたの…?と驚きながら呟く。



「おはようございます」


「おはよう」


「おはよう。なんか俺ら一万五千の兵を率いて良いんだって」


「「え…!?」」



直ぐに分身のお姉さんと女性も起きて来たので男性からの報告をそのまま伝えると分身の二人は同時に驚いた。



「約半数近くの兵を俺らに任せてくれるなんてありがたい事だ」


「それだけ期待されてるって事ですよ。流石は坊ちゃん」



分身の俺の心のこもってない適当な言い方に分身のお姉さんはプレッシャーでもかけるかのように言って褒めてくる。



「ま、これだけいれば余裕だな。で、兵の振り分けはどうする?半々で分ける?」


「あたしは5000いれば十分。ちょっと多すぎる気もするけどね」


「んじゃ俺が残り一万って事で」



分身の俺が分身の女性に率いる兵の数を尋ねると嬉しそうに笑って必要な兵数を答え、直ぐに決まった。



「さて、朝食を食べたら確認しに行こうか」


「ああ」


「頑張って下さい」



分身の俺は予定を立てて告げた後に空間魔法の施されたポーチから魔物の肉を使ったツイス…ブリトーを取り出し、分身のお姉さんと女性に渡す。



…そして朝食後。



テントの外に出て分身の俺らの指揮下に入る兵達を全員招集させ、分身のお姉さんと分身の俺とで兵を振り分ける。



「…さて…行くぞ!俺について来い!」


「「「おおー!!」」」



分身の俺が出撃のための号令をかけると一万の兵達が呼応して声を上げるので、分身の俺は最前線である戦場へと向かった。



「…どうしようかな…」



…戦場に着いたはいいが軍議に参加していないので味方の作戦や動きが分からず、一旦様子を見る事に。



「…よし。これより中央に突撃をかける!俺の合図と共について来てくれ!」



敵味方の動きはある程度分かったところで、分身の俺は号令をかけて前線司令官が居る中央へと移動する。



「…やーやー!我こそはラスタの私兵団、猟兵隊の団長である!誰ぞ一騎打ちを受ける者はおらんか!」


「なっ…!」


「来たか…!」



…分身の俺が兵達をかき分けて進み、敵味方の兵が交戦している場所で名乗りを上げると敵味方の兵達が驚いた。



敵も味方も動揺したように思えたが…敵は若干腰が引けたような感じで、味方の兵は若干困惑したような感じになって少し味方側が有利な状況になる。



すると指揮下の兵が男性に突撃の事をちゃんと伝えたようで、味方の兵達が道を譲るように少しずつ左右に分かれていく。



「…よし。行くぞ!我らが突撃の威力!思い知れ!突撃だ!」


「「「「うおー!!」」」」



そして完全に突撃が出来る状況になったので、分身の俺は指揮下の兵達に合図を出して真っ先に敵の軍勢へと突っ込んだ。

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