青年期 165
その翌日。
またしても父親に呼び出しを食らったので実家へと向かう。
すると昨日と同じく応接室に通され…昨日と同じく部屋の中には父親と、伯爵であるおじさんの姿が。
「借用書の確認をお願いします」
「分かりました」
おじさんがテーブルの上に三枚の紙を出して促し、俺は内容を確認する。
「…問題はありませんね」
「……では…!」
既におじさんのサインや印鑑が押されてる紙を確認した後に俺もサインして印鑑を押すと、おじさんが再確認した後に嬉しそうに呟く。
「……こちらが援助の共通金貨100枚、こちらが貸付の700枚になります」
「おお…!ありがとうございます!大変助かります!」
俺がテーブルの上に空間魔法の施されたポーチから取り出した金貨を置きながら説明するとおじさんはお礼を言って頭を下げる。
「…では私はこれで失礼します。ゼルハイト子爵、ローズナー男爵、この度は本当に心より感謝申し上げます。では…」
おじさんは立ち上がってドアの所に行くと振り向くように俺と父親に向かってお礼を言って頭を下げると部屋から出て行く。
「…貴族にしては珍しく腰の低い人だったな…」
「伯爵はあの人柄ゆえに周りから慕われている」
「だろうね。俺もあの後ちょろっと調べたけど金を貸すには足る人物のようだし」
「それでいて領地の経営手腕もかなりのもの…見習いたいものだな」
「全くだ」
俺の呟きに父親がおじさんを褒めるように言うので俺も賛同すると社交辞令なのか本音なのか判断に困る事を言い出し、俺は適当に相槌を打つ。
…更に翌日。
「…坊ちゃん、報告があるのですが…」
「報告?」
朝食が終わったタイミングでお姉さんがソワソワした様子で話を切り出し、俺は不思議に思いながら尋ねた。
「…私達…デキたみたいです」
「マジで?おめでた?…って『私達』?」
お姉さんの突然の報告に俺は驚きながら確認してふと疑問に思った事を聞く。
「はい…二人とも少し日付はズレていると思いますが昨日調べて発覚しました」
「へー!おめでとう!良かったじゃん!」
「ありがとうございます」
どうやらあの女性も妊娠しているようなので俺が喜びながら祝福するとお姉さんは嬉しそうに笑う。
「じゃああのお姉さんにも『おめでとう』って言って来ないと…」
「あ、片付けは私がやっておきますよ」
「ほんと?ありがと」
俺が女性にもお祝いの言葉をかけに行こうとするとお姉さんは気を使ってくれるので、俺は好意に甘えて自室を出る。
「お、いた」
「団長?どうかしたのかい?」
外に出るとたまたま女性が歩いていたので俺が駆け寄ると女性は不思議そうな顔をしながら尋ねてきた。
「先生から聞いたけどデキたんだって?おめでとう」
「ああ、 なるほど。本当ならあたしの口から直接言うべきだったのに遅れてすまないね。ありがとう」
俺の言葉を聞いて女性は少し気まずそうな感じで返す。
「いやいや、妊娠ともなるとこれから大変になるだろうから身体を大事にするのを優先する事」
「分かってるよ。でもソレもたった半年の我慢さ」
「…半年?10月10日だから一年近くじゃないの?」
「…え。大魔導…アーシェから聞いてないのかい?」
俺は否定的に返しながら指示を出すように言うと女性が変な事を言い出し…
俺が訂正するように聞くと逆に女性は不思議そうに確認してくる。
「え?」
「…新しい魔法で成長を促進させるから妊娠期間は約半年、身重の期間は二週間で済むんだって」
「ええ…ソレって大丈夫なやつ?早産ってヤバい気がするけど…」
女性の説明に俺は嘘だろ…とちょっとヒきながら呟き、赤子の生命の危険性について言及した。
「なんでも栄養をいっぱい摂らないといけないみたいだから…一日に今までの倍以上の量の食事を取るように、って言われた」
「…なるほど。じゃあ…慣れないと思うけど今日から食事は先生と三人で食べよう。俺が居ない時は二人で一緒に食べるようにして」
「…分かった」
女性がお姉さんから言われた注意みたいな事を話すので…俺は万が一の最悪の事態が起きないよう今の内に対策を取る事にして提案すると、女性は微妙な顔をしながらも了承する。
「じゃ、そういう事で」
「ああ」
俺の念を押すような確認に女性が頷いてどこかに歩いて行き、俺も自室へと戻った。
「お帰りなさい」
「ただいま。…なんか新しい魔法の事を聞いたんだけど…」
「ああ!言うの忘れてました…すみません」
部屋に入るとお姉さんが出迎えるので俺が女性から聞いた話を尋ねると、お姉さんは思い出したかのように声を上げた後に呟いて謝る。
「いや。とりあえずあのお姉さんがちゃんと食事してるか確認するために今日から一緒に食事をする事にしたからさ」
「そうですね。その方が良いと思います」
「俺が居ない時はちゃんと食べてるか確認お願いね」
「分かりました。しっかり食べさせます」
俺はお姉さんの謝罪を拒否するように返してから一方的に報告を言うもお姉さんは笑顔で受け入れ、俺の指示にも嫌がる事なく普通に了承してくれた。
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