青年期 138

…更に翌日。



「…団長、ちょうど良かった…少し面倒な事になりそうだ」



朝食後に観光に行こうと俺とお姉さんが建物から出ると団員が声をかけてくる。



「何かあった?」


「ダッカルとかの兵が人探しをしてる」


「人探し?って事は…」


「コレが奴らが渡してきた人相書きだ」



俺の問いに団員は周りの誰に聞かれても良い言葉で報告してきて、俺がうげっ…と思いながら呟くと人の顔が描かれた樹皮を渡してきた。



「へー、木の皮を紙の代わりに使ってるんだ」


「紙の生産が追いつかないのか、それとも高価なのか…樹皮をそのまま紙の代用品として使うなんて珍しいですね」



俺とお姉さんは人相書きの絵よりも厚紙のような薄い木の皮を紙の代用品にしてる事に注目して驚きながら話す。



「どうする?」


「人探しの依頼があれば受けるか、って事?面倒だからパスで」


「…分かった。みんなにはそう伝えておく」



団員が指示を仰ぐように聞くので俺が誰に聞かれても良いように『敵に怪しまれないよう特に対策も対応もしない』という意味を込めて返すと、団員は察して了承する。



「ありがとう。よろしくね」


「ああ」


「またなんかあったらいつでも来て」


「分かった。じゃ」



俺はお礼を言って任せた後に軽い感じで警戒を促すように告げて別れた。



「…どうやら昨日の兵士達は過激派だったみたいですね」


「みたいだね。しっかし似てない似顔絵だ」


「あまり特徴を捉えてるとは言えませんし、横に思いっきり『少女』『女』って書いてますよ?性別を書かないと分からない人相書きというのは…ちょっと…」



お姉さんの発言に俺が似てるとも似てないとも言えない微妙な似顔絵を見ながら周りにも聞こえるように言うと、お姉さんも同意するように酷評する。



「こんなんで見つかるとでも思ってんのかね?コレじゃあ俺らが探しても無理だよ」


「確かに」



俺は笑って馬鹿にするように言い、木の皮を丸めて近くにたまたまあったゴミ箱に捨てるとお姉さんも同意しながら笑う。



「…でも見習い達は大丈夫でしょうか?」


「団員達が周りを囲んでるから大丈夫じゃない?多分外に出る仕事は極力やらせないだろうし」



お姉さんがあの少女達が下手に動いてボロを出さないか…と心配したように尋ね、俺はみんながフォローするだろう…と思いながら軽いノリで返す。



「…そうですね」


「なんかあれば傭兵団総出でカバーなりフォローなりすれば大丈夫でしょ。ヤバくなれば俺が出ないといけなくなるけど」


「その時は私も動かないといけないかな…?」



俺の過激派との戦いを見越した発言にお姉さんも心の準備をするかのように呟いた。






ーーーーー







「よう。待たせたか?」


「お。やっと来た?」



…お姉さんと観光スポットを回っていると昼過ぎに差し掛かったところで令嬢を誘拐しようとした刺客の男が声をかけてきて、俺はちょっと意地悪をするように返す。



「とりあえず俺だけな。仲間達とはそれぞれ追手を受け持って途中でバラけたから…まああいつらの事だ、一週間以内にはココに来るだろう」


「そう?」


「あと…引き渡しはあと二人揃うまで待ってくれ。頼む…俺一人で二人の面倒は見切れん」



男の報告に俺が適当に相槌を打つように返すと、男は手を合わせながら引き渡しの期間を延長してくる。



「別に構わないけど…延長料金ね」


「くっ…!そこをなんとか…!…基本の15%上乗せだけで勘弁してくれ!」


「あ、一応ちゃんと払うんですね」


「そりゃ今回の依頼は難易度も報酬の額も高いんだ。それなりに多少の出費は覚悟している」



俺が笑いながら冗談で言うと男は両手を合わせたままボケを重ねるように焦った顔で返し、お姉さんがツッコミを入れるように言うと普通の対応で返した。



「…というか…大丈夫なんですか?」


「?何がだ?」



お姉さんの話を戻すような確認に男が不思議そうな顔で聞き返す。



「追われてるのなら無事でいる保証は無いんじゃ…」


「あいつらがあの程度の相手に遅れを取るわけ無いだろう。数が多くて時間がかかって面倒だからバラけただけだ」


「あ、そうでしたか」



お姉さんが心配するような感じで言うと男は何言ってんだコイツ…?みたいな顔で仲間の実力を断言し、お姉さんは察したように引き下がる。



「…でもよく考えたら、よくこの場所が分かったね。周りの人達に聞いた?」


「ああ。傭兵団の移動は隠せるものじゃないからな…追いかけるのは楽だったぞ」


「まあ俺ら別に何にも悪い事してないからコソコソ隠れて移動する必要が無いし」


「堂々としてくれた方が助かる。だから仲間達も直ぐにココに集まって来るだろう」



俺の問いに男は肯定しながら答え、俺がそう返すと男が皮肉なのか冗談なのか分からない事を言って予定を話す。



「じゃあ…とりあえず俺らの泊まってる宿屋の場所と部屋の番号を教えとくから準備が出来たら来て」


「…分かった」



俺が小さなメモ帳を取り出して書きながら言い、一枚破って渡すと男は受け取って了承した。



「なるべくなら起きてる時間にお願い。あと朝食後は大体こうして観光してるからさ」


「観光…そういえばお前らは旅の傭兵団だったな」



俺の釘を刺すような注意と説明に男が微妙な顔で呟くとこの前話した事を思い出すように納得する。



「旅行が出来て周辺諸国の情勢も知れる上に稼げる。こんな良い事尽くめなんだからやらないと損でしょ」


「…ははは!面白い!戦場を渡り歩いても生き残れるというその自信…それがそのまま傭兵団の実力に繋がっているわけか」


「そうだよ?なんせウチはハンターの集まりだからね。集団戦はお手のものだよ」



俺が肯定しながら理由を話すと男は笑いながら警戒するように言い、俺はソレも肯定して自慢するように返す。

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