壮年期 5
…その10日後。
ライツの王女が拠点へとやって来た。
「おや、久しぶりですね」
「そうですね。突然の申し出にも関わらず受け入れて下さり、感謝申し上げます」
本部の建物の前に豪華な馬車が停まり、中から姫が降りて来るので俺が挨拶すると姫が笑顔で返して軽く頭を下げながらお礼を言う。
「いえいえ。ただ遊びに来るだけであればいつだって歓迎しますよ」
「え?」
「…え?」
俺の返答に姫が驚いたような感じで返すので俺は不思議に思いながら確認するように返す。
「あの…滞在の件は…」
「…滞在?」
「調印式までの二日間、この拠点に滞在させていただく…という話になっているはずなのですが…」
「…まじ?」
姫は困ったように呟き、俺がなんだそりゃ?と思いながら尋ねると初耳の情報を今話すので俺は驚きながら呟く。
「…もしかして、何も聞いていないのですか?」
「えーと…はい。別に滞在する事自体は問題無いのですが、なにぶん何の準備も出来ていないので…もてなしや歓迎は期待しないで下さい」
「一昨日に『クライン辺境伯から許可を頂いた』と返事がありましたが……まさか…虚報…?」
姫の確認に俺は記憶を探って思い出すように呟くも一切思い当たる節が無く、肯定しながらも不安にさせないようその場で滞在の許可を出して断りを入れると姫は考えるように呟いて怪訝そうな顔をする。
「自分は今初めて聞きました。もし団員や代行達…あと家族にそのような話があれば自分に手紙や報告書、口頭での報告が必ずあるはずなんですけどね」
「…そうですか…少々お待ち下さい。今ガリル…護衛騎士へと確認してきますので」
俺がこの件について全く何も聞いてない事を告げると姫は考えながら呟いて馬車に乗り、今おそらく手続きの最中であろう護衛達の下へと向かった。
「…さて、俺も先生達に話を通しに行くか」
俺は一旦建物の中に入って変化魔法を使って分身し、魔法協会の支部にいるであろうお姉さんに姫の滞在について伝えに行く事に。
ーーーー
「…やはり『許可は取れた』と。この手紙を見て下さい」
「……あ、本当だ。『貴殿の要求に対しクライン辺境伯からは快諾の返事を頂き許可を得た』って書いてある」
エントランスで報告書を読んでいると姫が戻って来て手紙を差し出し、中身を確認すると確かに許可が出たという文面が書かれている。
「んん~?そうなると多分俺に話を通さずに勝手に話を進めた奴がいるな…この件はライツ側の手違いじゃなくて非は一切無いからコッチ…ラスタ側の落ち度だね、コレは」
「そうでしたか。私共の勘違いでなくて一安心です」
俺は疑問に思いながらどっかの貴族の嫌がらせか…?と予想しつつ、とりあえずフォローして返すと姫が安心したように返す。
「とりあえず部屋に案内します。あ、そうだ…護衛の人達は兵舎の方に泊まってもらう事になりますが、大丈夫ですか?」
「はい。問題ありません。指示に従わせます」
「じゃあこっちです」
俺が本部一階の居住スペースに案内しようとしてふと思いついた確認を取ると姫は了承してくれ、普段は使う事の無いいつもとは反対側の場所へと案内した。
「どこの部屋を使ってもいいので。朝食は6時、昼食は12時、夕食は大体18時ぐらいだね、一応呼びには来るようにします」
「分かりました。よろしくお願いします」
俺は姫に複数ある部屋の内どこでも自由に使用しても良い事と食事の時間を告げ、案内が完了したので姫を置いて自室へと戻る。
「…おっと、団長。今ドルフ男爵と名乗る貴族が来てるんだが…」
「ドルフ男爵?」
報告書や手紙を全部読み終えたので暇潰しに団員達と手合わせでもするか…と本部から出て訓練場へと向かっていると団員の一人が駆け寄って来て来客の報告をしてきた。
「…誰だ?聞いた事無い名前だな…新興貴族の誰かか?」
「なんでも団長に早急な話がある、って言ってたらしいがどうする?」
「うーん…まあとりあえず会うだけあってみるか。本部に連れて来て」
「分かった」
俺は不思議に思いながら予想すると団員が用件を告げて確認し、少し悩んで会う事にして指示を出す。
そして来た道を戻って自室にて来客を待つ事に。
「…団長、連れて来たぞ」
「ご苦労さん」
「初めまして、クライン辺境伯。早速ですがコレを」
…ドアがノックされた後に団員が報告するので俺が労いの言葉をかけると50代ぐらいのおじさんが入って来て、頭を下げながら挨拶すると直ぐに書簡のようなものを差し出してくる。
「…封筒?」
「ダリーヌ公爵からでございます」
「ダリーヌ公爵?」
俺が不思議に思いながら受け取るとおじさんが差し出し人の身分を告げ、俺は確か外交関係のお偉いさんだっけ?と思い出しながら呟いて封筒を開けた。
「……ちょっと確認したい事があるんですが」
「なんでしょうか?」
「この『ライツの王女の滞在を受け入れて欲しい』ってのは断ったらどうなるんですか?」
「そ、それは…」
俺は手紙の内容を読んだ後に仕返し的な嫌味のようなイタズラで確認するとおじさんが露骨に狼狽える。
「いくら公爵だからといって当人に了解も得ず…というか話すらせずに勝手に『許可を得た』と嘘を吐いて騙すのはいかがなものか、と思うのですが。事情が察せるのであれば、ある程度なら受け入れはしますけども…今回のは流石に相手側にも失礼ですし」
どんな事情があったのかお聞かせ願えますか?と、俺は二度目を防ぐために責めるように言った後に尋ねた。
「わ、私の方ではなんとも…」
「では今の言葉を手紙に書きますので公爵に渡してもらえますか?それであれば受け入れについては『とりあえず』了承いたしますが」
「わ、分かりました」
おじさんの困りながらの返答に俺が脅すように要求するとおじさんは頷いて了承する。
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