壮年期 6

その後、おじさんは手紙を受け取って直ぐに『仕事に戻る』と逃げるように王都へと戻って行った。



「…さて、夕飯の準備でもするか…」



もう訓練場に行く気分じゃなくなったので俺は少し早いが夕飯の準備を始める。




ーーー




「ただいまー」


「お腹空きました…」


「今日の夕飯はなんだ?」


「楽しみですね」



…夕飯の時間になると嫁二人と魔法協会の新旧代表者二人が自室に入って来た。



「おっ、今日は来たんだ」


「今は二人で作業してますので比較的早く終わるようになりました」


「でも昔に比べてなんか色々とややこしくなってるね。慣れるまでにもう少しかかりそうだ」



俺が意外に思いながら聞くと少女が理由を話し女は地味に苦戦してるかのような事を言う。



「あと、昼も話した通り今日から少し間一人増える事になってるから。ちょっと呼んで来る」


「ああ、いいよ。あたしが行く」


「良い?じゃあお願い」


「あいよ」



俺は断りを入れるように報告して迎えに行こうとすると女性が代わりに行ってくれるようなので、任せた後に皿や食器を準備する。



「夕飯はなんですか?」


「魚の唐揚げとパン粉焼き。後は何がいいか…」


「アレはないのか?あの生肉のやつ」



お姉さんも飲み物を入れるコップを用意したりと手伝いながら尋ね、俺が決まってるメニューを告げると女が確認してきた。



「ああ、肉の刺身?じゃあお通しとして最初にだそうか。食べたい肉のリクエストある?」


「なんでもいいです。なんでも美味しいので」


「私も同じ意見です」


「私は分からないから任せるよ」



俺は一品埋まったラッキー、と思いながら一応確認したが誰も特に希望は無いらしい。




「連れて来たよ」


「この度はお食事にお招きいただき感謝申し上げます」


「あー、別に挨拶はいらな…必要ありませんのでとりあえずどうぞ。次からは特に畏まった挨拶などはしなくても大丈夫ですので」


「分かりました」



女性が戻って来ると姫は会釈するように軽く頭を下げながら感謝の意を述べて入って来るので俺が拒否るように言うと姫が了承して女性の隣のソファに座る。



「えーと…自己紹介とかいる?」


「ライツの王女だろう?それだけで十分だ。誰であろうと私は協会員じゃない奴の名前は聞いても覚えないよ」


「非礼をすみません。私は魔法協会の当代代表者を務めておりまして、彼女は昔の前代表者です」


「…ま、魔法協会の、代表者…!!??ほ、本当ですか!?」



俺は魔物の肉の刺身盛り合わせが入った小鉢のような皿をテーブルに置きながら配慮するように聞くと女が横柄な態度で答え、少女が謝った後に身分を明かすと姫は驚愕して俺に確認して来た。



「ああ」「うん」「はい」


「こ、これは大変失礼しました!自分から名乗らずに先に名乗らせてしまうとは…!」


「いいって。今は立場関係ない無礼講さ、そんな事より食事だ」



俺らの肯定の返事が被ると姫は焦ったように慌てて立ち上がって非礼を詫びると何故か女がどうでも良さそうに返して刺身を食べ始める。



「そういう事ですので、変に畏まらずともよろしいかと」


「そ、そうですか…分かりました」



少女が笑顔で女の発言に賛同すると刺身を食べ出し、姫が了承するように返して座った。



「…まさか魔法協会の代表者と食事を共に出来るなんて…ラスタに滞在しているのは帝国による大公国への侵攻の影響ですか?」


「表向きの理由はそうです。本当の理由はゼルハイト様の作るこの料理、ですけども」



姫は紅茶を一口飲んで一息吐くと信じられないといった様子で呟き、疑問を尋ねると少女は肯定しながら裏の理由も話す。



「…料理…?そういえばクライン辺境伯が自ら料理を?」


「自分で作った方が美味いので。流石に外出時には飲食店で済ませたりもしますけど」


「一口でも食べてみれば分かると思います」



姫の不思議そうな顔での確認に俺が理由を話すと少女は何故か得意気な顔で食事を勧める。



「では…いただきます。…っ!この肉は…!しっとりとした食感ながら非常に柔らかく脂の甘味や肉の旨みが今まで食べてきたのとは全然違う…!」


「喜んでいただけたようでなによりです」


「この魔物の肉を食べて喜ばないのは肉食禁止の教えを厳格に守ってる僧ぐらいだと思います」


「でもこんなのを一度でも食べたら掟や教えなんて直ぐに破りそうだけどね」



姫が刺身を食べて驚きながら食レポを言うが俺は慣れてるので適当な反応で流すように返すとお姉さんがやんわりとツッコミを入れるように言い、女性が笑って予想を話す。



「じゃあ次、フグの唐揚げ…じゃなかった。魚の唐揚げ」


「からあげ?」



姫は夢中になった様子でパクパクと食べ進め、他の人達は食べ終わっていたので俺が次の料理を出すと姫が不思議そうに聞く。



「ただの魚の揚げ物」


「コレ美味しいのよねぇ…鳥や豚と違ってプリッとした食感がまた」


「ジューシーな鶏唐揚げも好きですが、コレもまた癖になる美味しさです」



俺の簡潔な説明に女が嬉しそうに感想を呟いて一口で一つ食べると少女も賛同するような感想を言い、ナイフとフォークで半分に切り分けて食べた。

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