壮年期 37
…翌日。
朝から戦場を見渡せる場所へと移動して動向を確認したが…
やはり状況はほぼ変わっておらずこちら側が若干押され気味な状態での形勢不利なままだった。
「やっぱり一日で変わるもんじゃないか」
「そうだね。一気に押し込まれてなくて良かったよ」
分身の俺が予想通りだという事を告げると分身の女性は賛同して悪い結果じゃない事に安心するかのように返す。
「まあなんにせよ、夕方まで暇つぶしだな」
「そうですね」
「そうだね」
分身の俺は瞑想しようと座り込みながら言うと分身のお姉さんが本を取り出して同意し、分身の女性も木刀を取り出して素振りを始める。
ーーーー
「…クライン辺境伯、昨日はどちらへ?いつもの場所に姿が見えないと兵から聞きましたが…」
「ちょっとダンジョンに。どうせ一日離れたところで戦況に変化は無いと思ってね」
夕方になって宿営地に戻ると青年が話しかけて来てストレートに動向を探ってくるので分身の俺は隠す事も誤魔化す事もせずに普通に答える。
「なるほど、そうでしたか。すっかり退屈させてしまったようで…」
「あー、まあやる事が無いから。かといって俺らの力が必要になるのは危ない時だろうし…そうならない事が一番なんだけど」
「…もうしばらくお待ちください。どうか…」
納得した後に申し訳なさそうな顔で呟く青年に分身の俺が微妙な感じで返すと…
青年は何か言いたそうな顔をするも堪えたように頭を下げてお願いしてきた。
「一応俺ら援軍として来てるわけだから勝ち負けがはっきりするまでは帰らな…帰れないからね」
「…分かりました。いざという時はお力添えをお願いします…では」
分身の俺がフォローするように言い方を変えると青年は少しホッとしたような顔で会釈して去っていく。
「…何か策があるかもしれませんね。でもまだ今は言えない…と」
「まあ情報なんてどこから漏れるか分かったもんじゃないし」
…テントに入ると分身のお姉さんが周りを気にしながら青年の考えを察するように呟き、分身の俺は青年のその考えに肯定の意を示す。
「って事は敵側にバレたらマズイ作戦…って事だね」
「作戦や計画なんてどれも敵に知られたらヤバくない?そういうのは不意や隙を突くためのものだから事前に対策されると意味がなくなるでしょ」
「…確かに。今のはちょっと考えが足りなかったかもしれない…忘れてくれ」
分身の女性の発言に分身の俺がツッコミを入れるように反論すると恥ずかしそうな顔で前言撤回する。
…その翌日も状況は変わらず、翌々日も当然状況は変わらない。
分身の俺らがこの戦場に移動して来て一週間も経つ頃には防衛線が結構押し込まれ、敵に警戒させて意識を割かせる役割をしていた森は既に敵軍の後方だ。
「…ん?」
「どうかしたのかい?」
…いつも通り戦場を見渡せる場所で静観しながら暇つぶしをしていると…
ちょうど敵軍の動きを見ている時に視界の端にチラッと小さな影が動くように感じ、分身の俺が不思議に思いながらその方向を見ると分身の女性も不思議そうに同じ方向を見た。
「ほお…なるほど。そういう事か」
「…ああ!なるほど!」
ジーっとその方向を注視しているとやはり小さな人影が動いているので、分身の俺がソレの正体に気づいて理解しながら呟くと分身の女性も遅れて気づいたかのような反応をする。
「どうかしたんですか?」
「どうやら味方の援軍が後方に回り込んでるみたいだ」
「…という事は…挟み撃ちになるんですか?」
「まあ。でも挟み撃ちにするには少ないから多分囮や陽動だろうね。あと森の中に伏兵を仕掛けてる」
分身のお姉さんの問いに分身の女性が軽く説明すると意外そうに確認し、分身の俺は微妙な感じで肯定しつつ青年の計画や策の内容を予想して話した。
「伏兵を?今のタイミングで、なら敵の退却時に合わせて奇襲を行う予定なんですかね?」
「『退却時』というより『後退時』に、だと思う。流石に挟み撃ちは警戒していても森の伏兵まで警戒は…してるかな?」
分身のお姉さんが予想を尋ね、分身の俺は少し訂正した後に断言は避けて曖昧な感じで言う。
「警戒していたとしても後方に意識を取られながら前面の大軍を相手するのは大変だよ。コレを狙ってたんなら中々の策士だね」
「…確かに俺らにも話せないのは納得だなぁ…あの森の近くに哨戒部隊とかを置かれたら作戦の成功率が一桁まで下がるだろうし」
分身の女性の青年を評価するような発言に分身の俺は計画を秘密裏に進めていた事について納得する。
「あとはいつ実行するか…」
「ここぞという時の奇襲のタイミングも重要になってくるからねぇ…これは一気に面白くなってきたな」
「後方の撹乱と同時に今まで受けに回ってた大軍が攻めに転ずるわけですか…上手くいけば私達が何もしなくともヴェルヘルムの軍を追い払えそうですね」
分身の女性が考えながら呟き、分身の俺も肯定しつつ楽しくなりながら返すと分身のお姉さんも分析した後に嬉しそうに最善の想定を話した。
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