青年期 109

…それから数時間後の朝。



お嬢さんの護衛は女性に任せて俺は宿屋へとお姉さんを呼びに行く。



「お。もう起きてたんだ」


「あれ?お帰りなさい。坊ちゃん、令嬢の護衛中なのでは?」



部屋に入ると既に起きていたので俺が意外に思いながら声をかけるとお姉さんは不思議そうに尋ねる。



「それが昨日…日付的には今日か。刺客と戦って怪我をしてね…あの護衛のお姉さんと一緒に治して貰おうと思って」


「…坊ちゃんでも怪我をしたんですか?」


「うん。朝食は俺が作るからお願い」


「やった!ありがとうございます!」



俺の話を聞いてお姉さんが意外そうに驚きながら聞き、俺が肯定しながら見返りを先払いするように言うとお姉さんは喜ぶ。






ーーーーー







「おお…!痛みが消えた…!流石は大魔導師様だ。感謝するよ、ありがとう!」


「…見た感じ怪我してるようには見えませんでしたが…」



朝食後に令嬢の家へと戻って女性と俺に回復魔法を使った後にお姉さんが不思議そうに呟く。



「ああ、俺が応急処置したから」


「なるほど」



俺が理由を話すとお姉さんは納得したように笑顔で返す。



「…でも坊ちゃんですら怪我するほどの相手って事は、かなりの使い手だったのでは?」


「まあ間違い無く強者の部類だね。俺でも素では相手にならなかったし」


「ええっ!?じゃあもう化物じゃないですか!」



建物から出て庭を歩きながらお姉さんが予想しながら尋ねて来て、俺がそう答えるとお姉さんは足を止めて驚愕した。



「実際精霊ってのは化物だったよ。物理攻撃は通じないし、高位の魔法を無詠唱なのに威力そのままで連発するし、動きは速いし…」


「ち、ちょっと待って下さい…精霊?なに言ってるんですか…?」



俺が肯定しながら思い出すように話してると途中でお姉さんが割り込んできて止め、困惑したように聞く。



「ああ、ごめんごめん。主語が抜けてた…戦った相手が精霊術師だった」


「精霊…術師…?…え!存在してたんですか!?実際に!?」



俺の謝りながら説明にお姉さんは理解がワンテンポ遅れたように驚きながら確認してくる。



「あの、この前の魔導書にも載ってたやつですよね?魔法協会の古文書にも記述が少ない、あの…」


「そうそう。もしかしたら知られてないだけで世界中にあと何人かはいるかもね」



お姉さんが念を押すように確認してきて、俺は肯定して予想しながら返した。



「…確かに。可能性は無いとは言い切れませんが…」


「おっと、そうだ…それで思い出した…もしかしたら分身の俺はもう動いてるかな?出遅れたかもしれん…」



お姉さんの考えるような呟きに俺はドラゴンの魔石集めを思い出して拠点にいる分身の事を考えながら呟く。



「どうかしたんですか?」


「精霊達と契約した後にドラゴンの魔石で延長するって言っちゃってね…アッチの国ではもう動いてるかも。コッチではドラゴンが居るダンジョンは確か二つだったっけ…」


「…えーと……精霊と契約したとは?ドラゴンの魔石?確かにこの国にはドラゴンがボスのダンジョンは二つ存在しますが…」



お姉さんが不思議そうに尋ねるので俺が理由を話しながら思い出すように呟くと、お姉さんは理解が追いつかないような反応をしながら返す。



「…んじゃ、頼む」


「おう」



俺は周りの目が無い事を確認した後に変化魔法を使って分身し、軽く変装させた後に風呂敷を数枚渡して魔石集めをお願いする。



「あ」


「修行と魔石集めも兼ねて多分昼過ぎには戻って来るでしょ」


「…坊ちゃん。私の頭が悪く、先程の説明では全く理解できなかったので…もう一度もう少し詳しくお願いしてもいいですか?」



分身の俺が走って行く様子を見送って呟いたお姉さんに俺が帰還する時間を予想しながら言うと、お姉さんは困惑した様子で聞いてきた。



「まあ簡単に言うなら相手の精霊に対抗するために契約の取引を持ちかけた」


「ええっ!?それで成功したんですか!?」


「いや、今の俺じゃ魔力の量が足りないから…って事で失敗した」


「…は、半分とはいえ、今の坊ちゃんでも一般の魔法使いの5倍はあるのに…」


「細かいけど今は更に半分だから二倍半だね」



俺の要約にお姉さんが驚きながら確認し、否定して理由を話すと更に驚きながら呆然としたように呟くので俺は笑いながら訂正する。



「まあそんな事より、とりあえずその精霊の引き抜きに失敗したから他の精霊と契約した」



お姉さんが微妙な顔をするので俺は話題を戻して続きを話した。



「坊ちゃん精霊術とか使えないですよね?降霊とか召喚ってどうやったんですか?試練とかどうしたんですか?」


「妖精にゴブリンの魔石を差し出して契約してから他の精霊を呼んでもらった」


「ええ…妖精…?」



お姉さんの矢継ぎ早の質問に俺が実際やった事を教えるとお姉さんはヒいたように呟いて不思議そうな顔をする。



「そうそう。元は相手の精霊が使役してたみたいだけど…魔石を見せたら喜んでコッチ側についた」


「…精霊の引き抜きには失敗しても妖精の引き抜きには成功したんですね……それにしても紹介や仲介で契約って…本来の方法や手順を全て無視して省略する形になったのによく成功しましたね」



俺が更に話を続けるとお姉さんは呆れと驚きが混じったように呟きながら返した。

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