青年期 110
「…ちょっといいかい?これから外出するそうなんだが…」
「おっと仕事だ。じゃあまた後で」
「分かりました。頑張って下さい」
俺とお姉さんが話している最中に女性が遠慮がちに割り込んできて仕事の話をしてくるので、俺が手を上げて挨拶するとお姉さんは大人しく引き下がって笑顔で返して宿屋へと戻る。
「…なんの話をしてたんだい?あの大魔導師様がえらく驚いてたようだけど」
「精霊術師と精霊、妖精の話をちょっとね」
「ははは!なるほど!そりゃ驚くわけだ」
お嬢さんの護衛として街中を歩いてる最中の女性の疑問に俺がそう答えると女性は声を上げて笑いながら納得した。
「そりゃ誰だって驚くよ。信じてくれるだけまだマシってもんだ」
「確かにね、あたしだって最初は信じられなかったよ。あんたからじゃなかったら変な噂程度で聞き流してたさ」
俺が適当な感じで言うと女性も同意するように笑いながら返す。
「俺だって実際見なかったら信じられたかどうか…」
「でも実際に存在するってんだから驚きだね。本当に世界は広い」
俺の呟きに女性は腕を組んで目を瞑りながら言う。
「全くだ。ロムニアにはまだ居るのか、アイツ一人だったのか…今度はロムニアにでも行ってみるかな」
「お、いいねぇ…だったら次会った時にどうだったか聞かせておくれよ」
「分かった」
俺も同意して次の行き先の候補に入れると女性が羨ましそうにお願いし、俺は了承する。
…その翌日。
の、夜。
「…じゃああたしは行ってくる」
「死なない程度に頑張って」
「もしもの時は頼んだよ」
「任せといて」
女性が気合いを入れたように待ち合わせ場所へと行こうとするので俺が応援すると後を託すような事を言い、俺は親指を立てて返す。
「あの…ヘレネーさんはどこへ?」
「ああ、刺客のおじさんとの決着をつけに行くらしいです」
「…一昨日に馬車を襲撃した人…ですか?」
「そうですね。今回も引き分けに終わったり彼女が負けた場合は自分が相手をする事になります」
女性が居なくなるとお嬢さんが不思議そうに尋ねて来て、俺が答えると不安そうに確認するので俺は肯定しながらその後の事を話す。
「…よろしくお願いします」
「はい」
お嬢さんは心配そうな顔で仕事を任せるかのように言い、俺が返事をすると寝室へと向かった。
ーーーーー
「…お」
「…はあ…はあ…」
俺が屋根の上で見張りのついでに瞑想をしているとお姉さんがおじさんを担ぎながら戻って来る。
「お帰り。勝ったようで何よりだよ」
「…結構…しんどかった、けどね…」
屋根から飛び降りて近づくと女性は疲れたようにおじさんを肩から下ろしてその場に座り込む。
「俺もそのおじさんとは戦ってみたかったけど…ま、次の機会があるか。はい」
「…ありがと」
俺は残念そうに呟いて女性に回復薬を渡し、おじさんをロープで拘束した。
「…ふう。流石にあの辺境伯の令嬢を狙う刺客ともなればどいつもこいつも粒揃いだね、あたしに依頼が来るワケだ」
「俺らじゃなかったら確実に拐われてただろうね。コイツらがロムニアでも屈指の実力者達なら良いんだけど…」
「この刺客達でも中堅ならロムニアはまるで魔窟のような国だね」
回復薬を飲んで一息ついたお姉さんが敵を評価するように言い、俺が予想を告げながら国の戦力を測るように呟くとお姉さんは笑って返す。
「『精霊術師』なんてのが居る時点で魔窟じゃない?」
「違いない」
俺の笑いながらの問いにお姉さんも笑いながら賛同する。
…そして数時間後の朝。
俺は刺客であるおじさんを治安部隊に引き渡してからお嬢さんの家へと戻った。
「残りあと三日、刺客は全員捕まえたんだからこれ以上何も起こらないといいんだけどねぇ」
「全くだ」
「ま、誰が来ようが返り討ちにしていけばいいか」
「そりゃそうだ」
お嬢さんの部屋の中で女性がソファに座りながらそう言うので俺が同意すると好戦的に笑いながら返し、俺も賛同する。
「あの…団長さんは本当に強いんですか?…全然そうは見えませんけど…」
「ははは!分かる分かる。でもあたしなら苦戦するであろう相手を無傷で倒せるぐらいには強いよ」
お嬢さんが疑問を尋ねると女性が声を上げて笑いながら同意し、俺の強さを保証するように返す。
「…本当に?」
「まあ疑う気持ちも分かるよ。けどあれから危ない目には遭ってないだろう?それが答えさ」
今回は流石にあたし一人だけではどうにもならなかったからね。と、女性は疑うようなお嬢さんを諭すように言う。
「ちょっと刺客の数が多かったね。俺でも一人だったら怪しかったかも…ま、そんな時は団員達を呼べばいいんだけど」
「団長の強みだね。でも今回のはあんたんトコの団員でも厳しいんじゃないかい?」
「確かに1対1だと運が絡むかもしれないけど…複数対1なら余裕でしょ」
「確かにそうだ」
俺がフォローするように適当な感じで言うと女性は予想しながら若干否定的に返すも俺の返答に納得して笑う。
「…人は見た目では分からないものですね」
「そうさ。だから戦場では人を見かけで判断すると痛い目を見る」
「ソレは戦場だけじゃなくて貴族の社交界でも同じじゃない?」
「ははは!あたしには縁遠い話だね」
お嬢さんの反省するような言葉に女性が賛同し、俺が訂正するように言うが笑い飛ばされてしまった。
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