青年期 114

…それから更に一週間後。



王都の滞在期間が一月になり、新年も迎えたので俺らはロムニアに向けて出発する事に。



「ん?はいはーい」



北門を通過中に馬車のドアがノックされるので俺はドアを開けて用件を尋ねる。



「なあ、あたしも連れて行ってくれないか?」


「え?いやでも…」



馬に乗った女性が馬車と並走して同行を申し出てくるので、俺は王様の護衛は?と思いながら困惑しながら返す。



「陛下からの依頼でね。ロムニアの動向を探るついでにあんたがこの国に戻って来たら直ぐに報告して欲しいんだと」


「…見張りってこと?」


「ソレに近いかな?帰りに王都に寄るよう説得してくれ、とも言われたし…まあ、強制ってわけじゃないから無理に…とは言わないよ。断られたらあたしはそのまま陛下の側に戻るだけさ」



女性は理由を話した後に俺の確認に肯定しながら同行を拒否られた場合の対応を告げた。



「…うーん…傭兵団に加入するならいいけど…今護衛として同行してる令嬢や商人達みたいな客員扱いはなぁ…」


「分かった、じゃあ猟兵隊に加入する。あたしもこう見えて昔はハンターだったからね」



俺が困りながら呟くと女性はスッパリと決断してハンターのライセンスを取り出して見せてくる。



「へー、ハンターだったんだ。じゃあ次の村でみんなに紹介するからこれからは猟兵隊の一員としてよろしくね」


「ああ。あたしはこれでも腕に自信があるから存分に頼ってくれ」



俺はライセンスを見て意外に思いながら返し、加入を受け入れて挨拶すると女性がガッツポーズするように力強く拳を握って笑う。



「…だったら早速で悪いけど令嬢の護衛をお願いしていい?顔見知りがいると安心するだろうし」


「任せときな」


「あ。ちょっと待って…コレ」


「バッジ?」


「団長である俺の。もし他の団員達に疑われて何か言われたらソレ見せて」


「分かった。ありがとう」



俺が指示を出した後に空間魔法の施されたポーチから取り出したバッジを渡すと女性は受け取った後にお礼を言って令嬢の下へと移動した。






ーーーーーー







「団長。村に着いた」


「お。ありがと」



辺りが暗くなり始めると馬車のドアがノックされて団員の一人が報告し、俺はお礼を言いながら馬車から降りる。



「みんな集合!」



そして馬車の屋根に乗って大声で団員達に集まるよう呼びかけた。



「もう知ってる人もいると思うけど、まだ知らない人のために報告がある!団員が一人、増える事になった!まあ詳しくはまた後で、って事で以上!隊長達以外は一旦解散!」



今回は急に加入したので手続きも後回しになる…という例外だったので、俺は団員全員に簡単な報告をして馬車の屋根から降りる。



「まあそういう事だから」


「そういえば令嬢の護衛の方に見ない顔がいたな…」


「なんでも国王陛下の護衛をしてたんだって」



集まってきた隊長達に俺がそう告げると隊長の一人が思い出すように呟き、令嬢の護衛を担当していた隊長は事前に聞いていたんであろう事を話す。



「国王の護衛!って事は近衛兵じゃないの!?なんでそんな人が傭兵団に…?」


「あー…いや、雇われの護衛で近衛兵とかではなかったんだけど…」



他の隊長が驚くと女性が気まずそうに訂正した。



「とりあえずココに居るのが団員達100名からなる部隊を指揮する隊長達。まあ厳密には100人以上いるんだけど…」


「そういや猟兵隊って何人いるんだい?1000名を超すとは聞いたけど、正確な数字までは知らないからさ」


「君を入れて今は1209名だね」



俺のザックリした簡単な説明に女性がふとした疑問を聞き、隊長の一人が答える。



「1200!結構な大所帯なんだね」


「そうそう。だから部隊には副隊長や補佐とか軍みたいな感じで運用してる」


「へえ…まあ人数が多くなれば纏めるのも大変だし…うん、理に適ってると思うよ」



驚く女性に更に説明を続けると意外そうに呟いた後に考えるように納得しながら理解を示した。



「ウチはハンターの集まりだから多分他の傭兵団とは色々と勝手が違うと思う。だからしばらくの間は適当な部隊に入って雰囲気とかに慣れてもらうよ」


「ああ、問題無いよ。新人らしく頑張るさ」


「一応実力は申し分無いから…後は人を纏める能力さえあればまた部隊を新設して隊長を任せたいと思ってる」


「!?本当かい!?」



俺が一定期間下積みしてもらう事を告げると女性は笑って受け入れるので先の予定を話すと嬉しそうに驚きながら確認してくる。



「…国王の護衛ともなれば腕も相当なものだろう…今度俺と手合わせをしないか?」


「望むところだ」


「ならば俺も頼む」


「じゃあ僕も」


「僕も僕も!」



隊長の一人が申し出て女性が笑顔で快諾すると他の隊長も乗って来て試合の予約を取り付け始めた。



「…まあ後の詳しい事は周りから聞いて。みんなちゃんと答えてくれるはずだから」


「分かった。団長、これからよろしく頼んだよ」


「じゃあ話は済んだところで飯行こうか」



俺は腹が減ってきたので話を切り上げた後に車のドアをノックしてお姉さんを呼んだ。



「話は終わりました?」


「うん。みんなで夕飯食いに行こう」


「分かりました。…あ、私も隊長の一人で、他人を回復出来るレベルの回復魔法が使える人達を集めた医療部隊の隊長を任されてます」


「え!?」



これからよろしくお願いします。と、車の中で話を全部聞いてたんであろうお姉さんが女性に自己紹介するように説明する。



「…大魔導師様がいればもはや怖い物なんて何も無いね」


「でも死なない程度にね。後から聞くと思うけど、ウチは使い捨てや使い潰すようなやり方は認めてないから」



女性の安心したような発言に俺はちょっと強い口調で釘を刺すように注意しながら返した。

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