青年期 277
…その後、兵士達を拠点の外で待機させてガストン子爵を本部へと案内し…
そこらにいた団員にトーリン子爵を連れて来るよう指示を出して応接室で待つ事に。
「…お待たせしました」
「お。じゃあ席にどうぞ」
…椅子に座って待つ事5分ぐらいでおじさんが来たので俺は椅子から立ち上がって男性の対面に座るよう促した。
「…失礼します」
「早速だがトーリン子爵、即座に降伏してもらいたい。もはや勝ち目が無い事は誰の目から見ても明らかだ」
「条件次第ですね。貴方の統治方法では領民が苦しむだけ…私の領土に一切手を出さないのならば降伏しましょう」
「…話にならんな。これは土地を巡った戦いだ。目的である土地を諦めるなどそんな条件が通るとでも思っているのか?」
おじさんが椅子に座ると男性は直ぐに話し合いを始め、おじさんの駆け引きするような返答に呆れたように返す。
「『土地を巡った戦い』?まるで私達がガストン領を欲しがっているかのような言い方ですね。我々はただ領地を防衛をしていたに過ぎません」
「なんだと?そもそもそちらが我々の領民を苦しめるような真似をしなければ強硬手段を取らなくて済んだのだぞ」
「苦しめるとは大袈裟な。ガストン領から来た人々は賊や犯罪者になって領民に危害を加えてばかりじゃないですか。そちらに何度改善要求の書簡を送った事か…それを全て無視されたからこちらは対策を取らざるを得なくなったのですよ」
「だからといって流通や通行の全面禁止などをされては無辜の民が生きてはいけぬ。せめて最低限の緩和をするようこちらも何度働きかけた事か…それを全て無視されては残す手段は強行しかない」
「あー、はいはい。ストップストップ…ちょっと落ち着いて」
おじさんと男性の話し合いがどんどんヒートアップしてお互いに立ち上がり、俺は仲裁するように間に入る。
「とりあえず状況を整理しようか。ガストン子爵は土地の切り取り以外でトーリン子爵に何を望んでるの?」
「…無論、我がガストン領からの流通や通行等の全面禁止を撤廃する事だ」
俺が場を仕切るように尋ねると男性は気持ちを落ち着かせるように深呼吸しながら答えた。
「オッケー。んじゃトーリン子爵は領地を取られなければガストン子爵の要求を呑める?」
「…はい」
俺の確認におじさんは納得いかなそうな顔をしながらも頷いて了承する。
「よし、じゃあそれにトーリン子爵側はガストン子爵に賠償金を払うって条件で講和するって事で良い?」
「問題ありません」
「…賠償金の額にもよります」
俺が調停するように話をまとめて確認すると男性は了承するもおじさんは悪あがきのような事を言い出す。
「流石に無茶な額は吹っ掛けないだろうし…分割で数年かけて支払うってやり方もあるから大丈夫でしょ」
「確実に払っていただけるのであれば何年かかろうとも問題ありません」
「…分かりました、ソレでトーリン領が守れるのであれば…」
俺の楽観的な発言に男性は賛同するように言うとおじさんは折れたように了承した。
「…コレで講和成立って事で…とりあえず約束を反故されないよう書面を作成しないとね。一応細かいところのすり合わせはこれから決めていこうか」
「はい」
「…分かりました」
「念の為言っとくけど…この約束を破ったらどうなるか分かってるよね?お互いに」
「それはもう」
「クライン辺境伯の顔に泥を塗るような真似はいたしません」
俺が紙とペンを取り出してそう告げると男性とおじさんが了承し、一応釘を刺すように確認すると二人は真剣な顔で頷く。
…そんなこんな三人で書類を作成し…なんとか昼前にはお互いが合意の上で書面にサインし、ガストン子爵が兵を引き連れて帰って行った。
「…あれ?子爵達は昼食を食べて行かなかったんですか?」
魔法協会の支部から戻ってきたお姉さんがノックもせずにドアを少し開けて様子を窺うように見た…と思えば不思議そうに尋ねる。
「一応誘いはしたんだけど後始末とかがあるから早く帰りたいんだって」
「あー…なるほど。でもせっかくの機会を捨てるなんてもったいない…」
「まあしょうがない」
俺の返答にお姉さんは納得したように呟いた後に嘆くように呟き、俺は男性の考えに理解を示しながら返す。
「『千載一遇』…でしたっけ?奇跡のようなチャンスをモノに出来ずに棒に振る判断力の人が統治している領の人達は大変そうですね、色々と」
「…そこまでいう?」
「そこまでの事です」
お姉さんは何故か俺がダンジョン内で良く使うことわざを引き合いに出して男性をボロクソにディスり始め、俺が微妙な感じで笑いながら聞くとキッパリと断言した。
「今までの偉い立場の人達は坊ちゃんの食事の誘いを断らなかったでしょう?」
「…確かに」
「つまり判断力が優れてる人なら絶対に断らない…断るはずのない機会を台無しにするなんて馬鹿げてる。愚行もいいとこですよ」
「…良く分からんけど…先生は意外としっかり人を見極めてるんだね」
「…坊ちゃんはその必要がありませんもんね…」
お姉さんの確認に俺が思い返すように呟くと更に男性に追い討ちをかけ、適当に話を切り上げるとお姉さんは微妙な顔をしながら呟く。
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