青年期 276

…そして翌日。



「…団長、どうやらガストン子爵の兵が近くまで来てるようだ」


「マジ?」


「王都で知り合いから聞いた。村から王都に来る途中で兵隊を見たと言っていてな…紋章の特徴からガストン子爵の可能性が高いと思う」



団員の一人が部屋に来て報告し、俺が真偽を確認するように聞くと団員は詳細を話す。



「マジか…」


「どうする?」


「…一旦放置で。目視出来る距離まで近づいて来るようなら俺が直接話をつけに行くよ」


「分かった」



俺の面倒くせぇ…と思いながら呟きを聞いて団員が対応を確認するので指示を出すと団員は了承して部屋から出ていく。



「…狙いはトーリン子爵でしょうね」


「だろうね。まあ流石にコッチの話も聞かずに攻撃するとかはしないだろうから、平和的交渉で済むよう働きかけてみるかぁ…」


「昨日じゃなくて良かったです。魔法協会の代表者が来てる中で内戦が始まると大変な事になるので」


「いやいや、昨日来てたら普通に脅迫して追い返してたよ」



お姉さんが予想を言うので俺は肯定した後に考えながら呟き、お姉さんのホッとしたような感じで発言に否定するように万が一の事態に備えた手段を告げる。



更に翌日。



朝早くから団員がガストン子爵の兵達がこの拠点に接近している事を報告しに来た。



なので俺は朝食前だったが、とりあえず拠点から出て兵達の所へと用件を聞きに行く事に。



「やーやーみなさんお揃いで何の用?」


「…辺境伯の私兵団『猟兵隊』の者だな?団長であるクライン辺境伯に会わせてもらいたい。我々も不要な誤解を招きたくない、急ぎ取り次ぎをお願いしたい」



俺が軽い感じで挨拶をして用件を尋ねると兵士の一人が近づいて来て確認を取ると急かすように俺への面会を求めてくる。



「ああ、俺がその団長だけど?」


「「「「なっ…!!?」」」」


「大変失礼致しましたクライン辺境伯様!高い身分のお方がわざわざこのような場所までお越し下さるとは…何卒非礼をお許しください!」



俺の返事に兵士達は驚愕した後にバッと一斉に敬礼のポーズを取り…



俺と話していた兵は即座に地面に片膝を着いて頭を下げながら謝った後に言い訳をして、また謝罪の言葉を口にした。



「はいはい、俺としても穏便に済ませたいとは思ってるよ。で?結局何の用なの?」


「ただいまガストン子爵をお連れします。少々お待ち下さい」



俺が適当な感じで面倒くせー…と思いながら返して再度尋ねると兵は立ち上がって貴族を呼びに兵達の中へと紛れて行く。



「…初めまして、クライン辺境伯。わざわざこのような場所までご足労いただき感謝申し上げます」


「うん」


「早速ですが…トーリン子爵は辺境伯が匿っておられるのですか?」



…少し待ったぐらいでやって来た30代半ばのように見える壮年の男性は頭を下げて挨拶と感謝の言葉を述べると直ぐに本題に入り、俺に鋭い目を向けながら直球で確認して来る。



「そうだけど」


「…ではこちらにトーリン子爵を引き渡してもらえないでしょうか?我々とて戦いを長引かせる事は本意では無く、辺境伯と敵対する事はなんとしても避けたいところなので」



俺の肯定に男性はまたしても頭を下げ、おじさんの身柄の引き渡し要求をすると暗に脅しをかけるかのような事を言い出す。



「うーん…理由次第かな。こっちとしても自国民同士で争うのは避けたいし」


「『理由次第』とは?」



俺が少し考えて返すと男性は不思議そうながらも警戒した感じで意図や意味を探るように聞き返した。



「殺したり痛めつける目的なら拒否する。意外かもしれないけど俺はこう見えて平和主義でね」


「…トーリン子爵が逃げ込んだ時点で勝敗は明らかだと理解しているはずです。クライン辺境伯ほどの切れ者が負けた相手を庇い立てする理由が分かりませんな」


「もしかして耳が聞こえない?それとも自分に都合の良い事しか聞こえてないの?理由はたった今話したばっかなのに…」



俺の返答に男性が理解出来ない…といった感じで呆れたように言うので俺は煽るようにジェスチャーして呆れながら呟く。



「…とても『平和主義者』とは思えない発言ですが?」


「理由を話した直後に理由が分からないって返すのは喧嘩売ってるとしか思えなくない?話し合いで解決出来ないなら武力をもって解決するしかないけど?」


「…それは困りましたな…一先ず辺境伯へ働いた私の非礼は謝りましょう、申し訳ありませんでした」



男性は煽り返すように言い、俺が脅すように返すと流石に戦うのは避けたいのか直ぐに謝罪する。



「…とりあえず、争いの落とし所をお互いに話し合って決めるってんなら直ぐにでも場を設けるよ」


「それは……分かりました」



俺が少し考えて和解のための話し合いを勧めると男性は渋るような反応を見せるも少し考え、困ったような顔で受け入れた。



「一応話し合いには俺も同席するよ。ガストン子爵が勝った前提だから交渉は有利に進むと思うけど…あまりに無茶過ぎる要求は俺が却下するから、そのつもりで」


「…分かりました」



俺は案内するように踵を返して拠点へと歩きながら両者の仲裁に入るような事を言った後に釘を刺す。

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