ドードル遠征編
青年期 57
…それから遠出の準備をする事、三日後。
「よーし。じゃあドードルに向けて出発するぞー!」
「「「おおー!!」」」
俺がみんなの前で号令をかけると全団員が返事をして傭兵団の移動が始まる。
「…国外での活動は初めてだからちょっと緊張するなぁ」
「罠の可能性もありますもんね」
…特注の馬車の中にあるシングルベッドで寝っ転がりながら言うとお姉さんは椅子に腰掛けて本を取り出しながら返す。
「まあ罠の方がかえって辺境伯に恩を売れるからありがたいんだけど」
「辺境伯に?…逆じゃないですか?助けてもらう立場になるような…」
俺の発言にお姉さんが不思議そうな顔で聞いてくる。
「いやいや。ほら、俺らが逃げ帰るついでに国境付近を荒らしておけば守りが薄くなるでしょ?」
「ああー…なるほど。するとドードルに侵攻しやすくなると」
「そう。俺らを罠にかけた事を逆に利用するってわけ」
俺が説明するとお姉さんが納得するので俺はニヤリと悪そうに笑って肯定した。
そんなこんな進むこと三日も経つと辺境伯の城塞に到着し…
何事もなく国境を通過出来て順調にドードルの地へと入る。
「…坊ちゃん。村に着いたようですよ」
「…ん?ああ。意外と早かったな…」
…拠点を出てから4日目の昼前にはドードル国内の国境から一番近い村に到着した。
「この村に案内役がいるそうですけど…」
「とりあえずそろそろ昼だし、昼飯食べてから探そうか」
「そうですね」
「これから昼食の時間とする!一時間後にココに集合!」
村の入口でお姉さんが馬車のドアを開けながら呟くので俺は時間を見て返し、みんなに指示を出す。
「んじゃ、俺らも行こうか」
「はい」
馬の見張りをする部隊だけ残り、他の団員達が離れて行くので俺らも適当な飲食店を探す事に。
ーーーーーー
「…流石に本場の味は美味いもんだ」
「このポテトフライや冷製スープも坊ちゃんのと作り方がちょっと違いますもんね」
「まあ俺のは色んな国の料理本を読み漁ったせいで料理、調理法がごちゃ混ぜになってるし」
エーデルやリーゼもそうだけど…と、俺はお姉さんの疑問に理由を答える。
「美味しければなんでもいいのでは?」
「そりゃそうだ。でも同じ料理でも凄い美味い味より故郷の味の方が食べたくなる時もあるじゃん?」
「…確かに…」
お姉さんが適当な感じで言い、俺が同意しながら反論すると納得するように呟く。
「…団長、今いいか?」
…昼飯のデザートを食べていると店に団員が誰かを探すように入ってきたと思えば俺に声をかけてきた。
「ん。何かあった?」
「『案内役』と言う男が団長に会わせろって」
「初めまして。貴殿がラスタの傭兵団『猟兵隊』を率いている団長であられるか?」
俺の問いに団員が用件を告げ、後ろに居た男が話しかけてきた。
「そうだけど?」
「…予定よりもだいぶ早い到着であられるな。ココに来るまで二週間はかかるものだと思っていたのだが…」
俺が認めると男は驚いたように返して呟く。
「団員が全員騎兵だからね」
「…なるほど。では早速将軍の下へと案内してもよろしいか?」
「だめ。今人と馬の休憩中だからあと一時間半待って」
「承知した。気が急いて配慮を疎かにしてしまい、誠に申し訳ない」
男の確認に俺が拒否って理由を話すと男は軽く頭を下げて謝り始める。
「じゃあそのお詫びとして待ってる間に聞きたい事があるんだけど…今この国内の状況ってどんな感じ?」
「派閥争いによる内戦が半年ほど続いている。最初はただの小競り合いで済んでいたのだが…」
俺が交渉するように尋ねると男は簡単に状況を説明した。
「へー…結構大変なんだねぇ」
「我々の敵対派閥であるアンヘレナ公爵は何かあれば直ぐに武力をちらつかせて問題を力づくで解決しようとする。この内戦のキッカケや発端も公爵が考え無しに兵を動かしたからなのだ」
俺の人事のような適当な相槌に男が更に詳細を話してくれるので…
「ははっ。そういや子供の頃に老師が『身に余る力は身を滅ぼす結果に繋がる』って言ってたなぁ…『強い力を持つとソレを使いたくなるのが人間の性』って」
「周りへの配慮を一切せずにただやみくもに力をふりかざす、という点ではまるで『魔物化』ですね」
家庭教師から変化魔法を教わってた時の事を思い出して懐かしむように言うと、お姉さんも同意するように変化魔法のデメリットに例える。
「…なるほど、『魔物化』かぁ…」
「…面白い例えだな」
「全くだね」
「いやはや、素晴らしい例えだ」
俺が納得して感心しながら呟くと一緒に食事をしていた隊長達も同じ反応をした。
「『魔物化』…ですか…?」
「あ。俺らはちょうどハンターの集まりだから魔物の討伐なら任せてよ。専門分野だし」
「…なるほど。その公爵とやらをボスに見立てて道中をダンジョンに…というワケか」
「だけどボスまでの道のりが厳しいね。敵の兵をダンジョン内の魔物とするならいささか数が多すぎるんじゃない?」
不思議そうに聞く男に俺がハンタージョークをかますと隊長達が笑いながら返す。
「いえ、流石に貴殿らにそこまで頼むわけには…それに『他国の傭兵を雇って公爵暗殺を目論んだ』などと噂が流れてしまうと将軍の今後にも影響が…」
「そう?じゃあ普通に傭兵としての仕事を全うすればいいわけだ」
「残念だな…1000人規模のパーティでダンジョンに挑むというのも面白そうだったのだが」
「ははは!それはもうパーティじゃないでしょ」
「いくらなんでも多すぎるな」
男がまじめに拒否して理由を話し、俺がアッサリと引き下がると隊長の一人がジョークを言って他の隊長達が笑う。
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