青年期 41

ーーーーーー






「おおっと…そろそろ昼飯の時間か」



弟や妹から学校の話を聞いたり、父親と社会情勢の話をしたり、母親から社交界だかの話を聞いてたりしていると…



いつの間にか昼飯の時間に近くなっていた。



「もうそんな時間?」


「お兄様、早く昼食にしましょう」


「はいはい」



弟が驚きながら時計を見て時間を確認すると妹が催促してくるので、俺は空間魔法の施されたポーチから紙皿と馬肉の入った大きめの容器を取り出す。



「…これはリーゼの分、これはエーデル…これは…」


「ありがとうございます」


「ありがと」



そしてその場で生肉を薄くスライスして紙皿に盛って妹、弟、母親、父親と順番に渡していき…



みんなが食べ始めるのを見て俺は次のしゃぶしゃぶを作るために厨房へと移動する。



「…おーわり」



昆布と鰹節に似た味の干物を削ったもので出汁を取った後に猪の肉を入れて軽くしゃぶしゃぶした後に紙皿に移し…



残った出汁に赤ワインや調味料を混ぜてソースを作り、茹でた肉の上にかけた。



「はい。猪のサクラ…ボタンだっけ?…まあいいや、とりあえず肉の水炊き」


「…水炊き?」


「言い方を変えただけで『しゃぶしゃぶ』だな、お前らに教えたのは。ただ父さん達にはそれじゃ伝わらないだろうし」


「なるほど」



俺がみんなの前に紙皿を置きながら料理名を言うと弟が不思議そうに聞き、俺の軽い説明に妹が納得しながら呟く。



「…お兄様の料理は相変わらず絶品ですこと」


「これぐらいならお前らも同じのが作れるだろ」


「材料があれば、ね」



妹の感想に俺も昼飯を食べながら返すと弟がなにやら反論するかのような感じで返してくる。



「お兄様みたく私達も魔物を倒した時に肉を残せるようになればいいんですけど…」


「…そういえばリデックはどうやって魔物の肉をこんなに取れるの?」


「魔物の核を一突きで倒してるから。そうすると魔物素材が全部落ちるんだ」



妹が残念そうに呟くと母親が今更ながら疑問を尋ねてくるので俺は方法を教えた。



「魔物の核…人間でいう心臓にあたる部分か。簡単に言ってくれる…」


「なんでもそこ以外に攻撃を当てたらダメなんだって」


「なんだと…?」


「ダメじゃないけど肉が落ちるかは運次第になるよ。まあある程度ダメージを与え過ぎると肉を落とさなくなるんだけど」



父親の困ったように笑いながらの呟きに弟が補足するので俺は勘違いさせないように理由とかを解説する。



「…そうなのか?」


「ハンターの常識。『肉が欲しければ魔物には一切の傷を負わせず一撃で仕留めよ』…と言っても全ての魔物が肉を落とすワケじゃない上にソレを実行出来るのは現状俺だけ、なんだけど」


「ハンターの常識って言うけど兄さんソレ知る前に自力で気づいたんでしょ?」


「おう。正確には気づいたのは家庭教師の師匠だが」



父親に分かりやすく説明すると弟が訂正するように言うので俺は更に訂正するように返す。



「ちなみに魔石を取る方法もほぼ一緒。魔物の核である魔石…心臓を傷付けずに一撃で倒す」


「いや、兄さん以外にソレ出来る人居ないんだから別に言わなくてもいいんじゃない?」


「『オーバーキルせず魔物の体力ぴったしのダメージを一撃で与えて倒す』ってそんなに難しいか?…いや難しいわ。もはや奇跡だな」



俺の補足説明に弟が笑ってツッコミを入れ、俺は妹や両親にも分かりやすく言い換えた後に自分には至難だと悟って即座に前言撤回した。



「…そんな奇跡を起こさないと手に入らない物だったなんて…」


「あれ?リーゼには話してなかったの?」


「まだ早いかと思って」


「あー…」



驚く妹を見て弟が不思議そうに問うので理由を話すと弟は妹を見ながら納得したように呟く。



「…ごちそうさま」


「ごちそうさまでした」


「じゃあ食後のデザートに…コレ」


「あ!それって…!」



母親と妹が食事を終えて挨拶するので俺が空間魔法の施されたポーチからケーキの入った半透明の容器を取り出すと、弟が驚きながら指差す。



「この前お前が作ったケーキの残り。コレが最後だけど」


「…空間魔法っていいなぁ…熱い物は熱いまま、冷たい物は冷たいまま。腐らず熟せず解凍せず、入れた時の状態のまま取り出せるって羨ましい…!」



俺が話しながら紙皿に移すと弟は物欲しそうな目で俺のポーチを見ながら呟いた。



「…何度も言うようだが、流石にコレはやれんぞ。俺だって貰いもんなんだからな」


「分かってるって。僕は自分で手に入れるよ!」


「頑張れよ」



俺の先手を取っての拒否発言に弟は男らしく自分でなんとかするような事を言う。



「…やっぱり兄様のケーキは美味しいですわね…早く追いつかないと…!」


「ふふふ、どっちが先に兄さんを追い越すかな?」



妹がケーキを食べながら弟に嫉妬したように睨むと弟は余裕の態度で笑って俺を引き合いに出す。



「無理無理。追いつく事は出来ても追い越す事はできねぇよ。時間の関係上な」


「来年までに追いつけば卒業までには間に合うでしょ?」


「追いつけるか?」


「ふふん。私は兄様よりも時間があるのでお兄様を追い越してみせますわ」



俺らはお互いに表面上は余裕の態度を取りながらもバチバチに挑発しながらの言い合いを始める。

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