壮年期 15
その三日後。
ライツの王女と俺の婚姻が破談になりかけている現状を招いた責任を取ってダリーヌ公爵が辞任する事になった、らしい。
ーー
「…団長さん。今いいですか?」
「なに?」
「コンテスティ侯爵がお見えになっていますが…」
「オッケー、ありがとう」
俺が拠点の自室で報告書を読んでいるとドアがノックされ、協会員の人が来客の報告をしてくるので俺はお礼を言って出迎えに行く事に。
「…お久しぶりです」
「おお。ゼルハイト卿、この度は大変だったようだな」
「何かありましたっけ?」
「ダリーヌ公の件だ。何も知らされていなかったと聞いたが?」
俺の出迎えにおっさんは嬉しそうに挨拶すると労いっぽい言葉をかけ、俺がとぼけたように返すと確認するように聞く。
「ああ…そうですね。下っ端が雑な仕事をしたせいで大変な事になってるとか」
「…教会の仕業、だな」
「教会の?」
「ああ。流石におかしいと思って調べさせた…結果は教会側がねじ込んだ新興貴族達がゼルハイト卿への伝達を担っていた。そして新興貴族と教会側の繋がりは巧妙に隠されていたと聞く…おそらくダリーヌ公は何も知らない可能性が高い」
俺のどうでも良さげな人事のような言い方におっさんは何かを知ってるかのように返し、俺が不思議に思いながら聞くと既に動いていた事を告げて調査結果を教えてくれる。
「…どうりで。聞き覚えの無い貴族が来てたので怪しいとは思ってましたが、まさか教会側の仕込みとは…流石ですね」
「なに、教会側は最近怪しい動きが多いのでな。特にゼルハイト卿を敵視しているようだからもしや、と思ったまでだ」
俺が納得して称賛するように言うとおっさんは得意気にニヤリと笑いながら返す。
「…そうなると王女誘拐も教会が関与して…?いや、流石にそこまでは無理か…おそらく国内の内輪揉めの可能性が高い、か…」
「しかし教会も思い切った事をしたものだ。下手をすれば国自体が危機に晒される危険性が高いというのに…」
「全くですね。このやらかしでライツが同盟の話を白紙に戻すとか考えなかったんですかね?」
俺は考えながら小声でブツブツと呟くもおっさんには聞こえなかったらしく、呆れたようにため息を吐いて教会側の行動を批判する感じで言うので俺も同意して批判的に返した。
「そこまで考えが及ばなかったか、それともライツと共謀して事を起こしたか…」
「ライツとの共謀の線は薄そうです。王女自身は俺との結婚に納得してる感じがしましたし」
「ふむ…まあ教会は権力争いや政争に首を突っ込みたがり、戦争の現場である戦場にはほとんど参加していないからな…おそらく自分には関係ない、と考えが及ばないのであろう」
おっさんの予想に俺が選択肢の一つを潰すと少し考えて教会を蔑んで馬鹿にするように話す。
…それから一月後。
何故か急に俺がライツとの同盟による婚姻を強く拒否した…という事になり、意味不明に教会からの異端審問にかけられる事態になってしまった。
それだけならまだいい…いや、全然よくはないが裁判の場で直接否定すれば良いだけだ。
が、まさかの張本人である俺が呼ばれる事なく本人不在のまま異端審問が開かれた挙句に速攻で『異端者』認定されて処刑に決定する…という始末。
…異端審問が開かれ、俺の処遇が決まるまで僅か一時間、というその驚愕のスピード感に俺だけじゃなく周りのみんなも驚きや呆れを隠せない。
もはや手段を選ばず、形振り構わずに俺を殺したいという思惑を一切隠さず…最低限取り繕おうともしない教会側の姿勢はある意味凄いと思う。
「ふざけやがって!教会の奴ら…!そこまでして団長を消したいのか!」
「こうなりゃ教会と全面戦争だ!このまま黙っていられるか!」
「あまりに横暴過ぎる!権力の悪用など到底許せたものじゃない!」
…教会からの公式な発表が出回ると当然猟兵隊のみんなは憤慨しながら交戦も辞さないような様子を見せる。
その三日後には辺境伯の青年や侯爵のおっさんの下へと伝わり、当然反発して反教会の流れが出来て国内の様子が荒れに荒れ始めた。
「…国内が大変な事になってますね」
「そりゃそうだ。俺の敵はせいぜい二割から三割といったところ…味方が半分なんだからどう考えてもアッチの分が悪過ぎるでしょ」
「でも処刑を受ける気なんだろう?」
「ん。このままだと大規模な内乱に発展しそうでマジで国の危機だし、同時に腐った教会をぶっ潰すチャンスでもある。まあ俺に喧嘩を売った事を後悔させてやらないと」
自室でのお姉さんの呟きに俺が肯定しながら返すと女性が微妙そうな顔で確認するので、 俺はソレにも肯定してニヤリと笑う。
「まあ分身だったら死んでも問題無いですし…というかそもそも普通の処刑方法で今の坊ちゃんを殺せます?」
「あたしは無理だと思う」
「ソコを利用しない手はないね。処刑が失敗したと見せかけて『神の加護は我に有り』…って叫べば一発よ」
「…教会の上の方達も余計な事をしなければまだ延命出来たでしょうに…よりにもよって坊ちゃんを…敵に回す相手を間違えるとは…」
お姉さんが若干困ったように笑いながら聞くと女性は笑って否定し、俺が策の一部を軽く話すとお姉さんは腐った上層部に同情するかのように呟いた。
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