青年期 176

その後。



国境の砦にいた侯爵の兵達に敵から奪った大量の馬を渡して俺らは宿営地へと帰還する。



「よし、今日の仕事はお終い。明日は右翼の方に行こうか。馬を奪ったから本陣から援軍を出すのも遅れるだろうし」


「そうだな」


「分かった」


「了解」



分身の俺が宿営地で隊長達を集めて予定を話すと隊長達みんなは了承した後に団員達に伝えるため解散していく。



「…ちょっといいかい?」


「ん?」



みんなが居なくなった後に女性が一人戻って来て確認を取った。



「…正直なところ、あんな技が使えるんならあんた一人でソバルツの軍勢なんて簡単に蹴散らせるだろう?」


「まあね」


「じゃあなんでわざわざ猟兵隊を連れてきた?というかなんで傭兵団や私兵団を結成したんだい?」



女性の確認に分身の俺が肯定すると微妙そうな顔で疑問を尋ねてくる。



「ははは。分からない?」


「うん」


「人は一人では生きていけないじゃん?当然人間が一人で出来る事なんてたかがしれてる。俺一人だけ強くても、世の中にはどうにもならない事が溢れてるでしょ?」



分身の俺の笑いながらの確認に女性は微妙な顔のまま返すので…



分身の俺は猟兵隊を連れて来た意味と、猟兵隊を結成した意味を教えた。



「…それは…答えになってないんじゃないか?」


「例えば俺一人で今回の敵を退けたとして、次は相手もそれなりの対策を取るだろうし…相手が本気になってガチガチに対策を立てられたらいくら俺だってどうしようもないよ」


「本当かい?あんたなら敵の策なんて簡単にぶち壊せそうな気がするけど」



女性の納得いかないような返事に分身の俺が説明するも否定的に返される。



「…出来ない事は無いと思うけど…もし敵に俺みたいに強い奴がいたとしても、一人だけならどうとでも対処は出来ると思わない?」


「あ…」


「足止め、隔離、誘導…どんなに強くても一人だけなら時間を稼ぐ方法はいっぱいあるし、多面攻撃をされたらお手上げじゃん」


「…確かに」



分身の俺の視点を変えての解説に女性は理解したように呟き、更に攻略法を話すと納得したように呟く。



「戦場以外でもみんなが居ないと一人では手が回らない事だらけだし」


「…うん。変な事聞いてごめん、でもやっぱりあんたでも一人では出来る事は限られてるんだね」



分身の俺が更に戦い以外での役割を告げると女性はようやく納得いったかのように謝り、なぜか嬉しそうな顔でそう言って団員達のところへと歩いて行った。



…その夜、 分身のお姉さんや女性と夕食を食べていると砦の外の前線で兵達の指揮を執っていた指揮官の一人がテントにやって来る。



「おや、何か用ですか?」


「敵から奪った馬をこちら側に譲ってくれた事についての礼を言いに来た。感謝する」


「あ、はあ…」



分身の俺の問いに指揮官が尋ねて来た理由を話して礼を言い、分身の俺は返答に困りながら返す。



「流石に何度も馬を送られて返礼しないというのも礼を欠く。今は酒しか用意出来ないが是非とも受け取って欲しい」


「酒、ですか?」


「ああ。外の荷車に載せてある」



指揮官の発言に分身の俺は手ぶらじゃねぇか、と思いながら聞くと指揮官は顔をクイっと動かして外に出るよう促すような仕草をした。



「…おお…!こんなにいっぱい、良いんですか?」


「ああ。全ての兵に行き渡るぐらいの量を用意した」


「ありがとうございます。団員達もきっと喜びます」



外に出ると結構な大きさの樽がいくつも載った荷車が10台ほど置かれていて…



分身の俺の確認に指揮官が肯定するので分身の俺は軽く頭を下げながらお礼を言う。



「喜んでもらえると幸いだ。では」


「ありがとうございました」



指揮官は別れの挨拶をしながら手を上げ、荷車を運んで来たんであろう部下の兵士達を連れて町へと戻って行く。



「団長、さっきの兵達は何を運んで来たんだ?」


「アレ全部酒だって」


「酒?」


「ごめん、隊長達を呼んで来てくれない?アレを部隊ごとに分配しないといけないから」


「分かった」



すると団員達が近づいて来て疑問を尋ねてきて、分身の俺は樽の中身を教えた後に団員達にお願いしてテントの中へと戻る。



「どのくらいありました?」


「荷車10台分だからかなりの量だよ。あの指揮官が言うには団員達全員に行き渡るように、って用意したんだと」


「そんなに?」



分身のお姉さんの問いに分身の俺が答えると女性が少し驚きながら確認してきた。



「とりあえず今隊長達に集合かけたから…みんなが来たらあの酒を部隊ごとに取っていってくれない?」


「ああ、分かったよ」


「分かりました」



分身の俺は隊長でもある二人にも指示を出して食事を再開した。



「…にしてもなんで酒なんだかね」


「さあね。俺らは飲まないけど、酒好きって結構多いから贈り物としては無難で絶対に失敗しないからじゃない?」


「…確かに。とりあえず贈り物といえば酒、っていうぐらいですもんね」


「…なるほど…」



女性の疑問に分身の俺が予想で返すと分身のお姉さんも賛同するので女性は納得したように呟く。

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