青年期 231
…それから陣営を最低限残して撤去させ、偵察のための100名の兵と分身の俺ら三人だけその場に残り…
他の二万余りの兵士達を近くの町まで退却させた。
「…報告します。敵に動きは無いようです」
「拠点の前に布陣した兵達は拠点内に戻ったようです」
「…追っては来ないか。意外だな…」
「もしかして待ちの戦術じゃないかい?あんたのいう鉄砲とやらの武器があるなら無理に動かずとも守りを固めるだけで勝てそうだし」
…夕方頃に敵の動きを見に行った偵察の兵達が帰還して報告し、分身の俺が不思議に思いながら呟くと分身の女性が敵の考えを予想する。
「うーん…まああの距離で外したって事は練度はそこまで高くない感じだろうし…物資の事を考えて攻め込めないのか?」
「…あ、そろそろ夕飯の時間ですね」
「ま、とりあえずは明日俺らも町に戻ってからまた予定を立てようか」
分身の俺は敵の動きに疑問を感じつつも現時点で出来ることは少なく、限られているので適当に切り上げて夕飯を食べる事に。
その夜。
「敵襲ー!」
「敵がー!」
「「なっ…!」」
「…え…?」
深夜の遅い時間に兵達の叫び声とカンカン鳴る鐘の音で分身の俺らは飛び起きた。
「こんな時間に襲撃だなんて…!」
「こんな事初めてです…!」
「夜襲だと…?マジか…」
分身の女性とお姉さんが慌てて準備をする中、分身の俺は直ぐにテントの外に出て状況を確認する。
「退避ー!直ぐに逃げろ!迎撃しなくて良い!町まで撤退しろ!即刻退却だー!」
そして味方の兵に直ぐに逃げるよう命令を出す。
「…ん?お前は…昼間のアホじゃないか。前線司令官がまだこんな所に留まっているとはな」
すると夜襲をかけて来た敵兵の一人が分身の俺を見て馬鹿にするように笑って銃を構えた。
「ははは、この戦争も楽に終わりそうだぜ」
敵兵は笑って引き金を引くとパン!と音を立てて弾が発射されて分身の俺の胸に当たる。
「こんな豆鉄砲が効くかよ。アホが」
「なっ…!?」
「…ちょうど良い、サンプルとしていくつか貰ってくか」
「…がっ…!」
…対物ライフルを無防備の頭に食らっても少し痛い程度で済む俺にこんな火縄銃レベルの銃弾でダメージが入るハズも無く…
分身の俺は意趣返しで馬鹿にした後に驚きながら慌てて弾を込める敵兵の腹をボディブローで殴って銃を奪い、空間魔法の施されたポーチにしまう。
「今の音は…!大丈夫かい!?」
分身の俺が腹を押さえてうずくまる敵兵の頭を蹴って気絶させると分身の女性が心配した様子で近づいて来た。
「全く問題ない。この程度の弾じゃな…とりあえず先生を連れて直ぐに逃げてくれ、俺も後から追う」
「…分かった!」
分身の俺は落ちてる弾を拾いながら返して指示を出すと分身の女性が了承して直ぐにテントへと戻る。
「さて…逃げる時間を稼がないとな…帝国の諸君!こんな遅い時間にご苦労な事だ!勤勉な君ら!ブラック企業の社畜のような君らに朗報だ!前線司令官はココにいるぞ!我こそはラスタから来た援軍だ!」
「なんだと!」
「おい、あっちだ!」
「手柄は俺のものだ!」
分身の女性やお姉さん、味方の兵士達を逃げさせるために分身の俺は変化魔法を使い…
セイレーンの喉に部分変化させた後に大声で名乗りを上げて敵兵達の注目を集める事に。
「やーやー!我こそはラスタより来た援軍なり!誰ぞ一騎打ちを受ける者はおらぬか!我は前線司令官なるぞ!」
「はは、この後に及んでまだ一騎打ちだとよ」
「馬鹿な奴だ」
「ラスタとかいう国からこんな所まで殺されに来るとは…」
…二度目の名乗りを上げるともうすっかり敵兵達が分身の俺の周りに集まって来ていて、完全に包囲されていた。
「…どうやら頭の悪さ加減では帝国の君らの方が上らしい。こんな風に一人を取り囲んで包囲したら銃撃できねーだろ」
「なっ…!確かに…」
「今撃てば後ろの奴に当たるかも…」
「待て!まだ撃つな!」
「全く…しっかりしてくれよ。俺は無駄な殺しは避けたいのに君らが同士討ちなんてしたらソレも俺のせいになるでしょうが」
分身の俺の煽るような挑発からの指摘に敵兵達は慌てて包囲を解くように動き出し、分身の俺はその場から動かずに肩を竦めて余裕の態度で呆れながら更に煽るように挑発する。
「…よし、良いぞ!」
「撃て!」
「今なら撃てるぞ!」
敵兵達は分身の俺の後ろ側から移動し、同士討ちの危険が無くなったのを察して銃撃するよう指示を出し…
銃を構えた敵兵達が分身の俺に対して一斉に射撃を開始した。
「…ほう。三段撃ちとやらか…」
「な、なんだこいつ…!」
「て、鉄砲が効いてないのか…!?」
分身の俺に一発撃った兵達は弾込めのために一旦下がり、その後ろの奴らが前に出て撃つ…を繰り返すので分身の俺が前世の記憶による知識を呟くと敵兵達は愕然とした様子で呟く。
「どけ!頭を狙えば…!」
「…狙いは良いけど、当たらないのがね」
威勢の良い敵兵が他の兵を押し除けて出て来てヘッドショットを決めようとするも当然外し、分身の俺は褒めながらも呆れて返す。
「…おっと。そろそろかな…やーやー君達、痛い目を見たくなければその鉄砲と弾をこちらに渡してもらおうか?そうすれば見逃してあげるよ」
…そろそろ味方の兵士達はみんな逃げ切った頃かな?と思いながら手を差し出して要求すると、敵兵達は困惑しながらも観念したように銃を地面に置き始めた。
「なに馬鹿な事を…鉄砲が効かなければ剣で斬れば良いだけだ!」
「おお!その手が!」
「そうか!確かに!」
おそらく現場指揮官であろう敵兵が拒否した後に剣を抜いて構えると敵兵達の士気が持ち直したように上がってみんな剣を抜いて構え出す。
「…いやいや…銃弾が当たっても無傷な俺にそんな剣で切り傷一つ付けられると思ってんの?マジで?」
「ぅ…確かに…」
「ひいぃ…!コイツ化け物だ!逃げろ!」
「あ、待て!貴様ら!…くそっ!」
分身の俺が余裕の態度で呆れながら言うと敵兵の一人が思い直したように呟き、別の敵兵が恐れをなしたのか武器を捨てて逃げ出し…
他の敵兵を武器を捨てて逃げ出し始め、現場指揮官っぽい男も引き止めようとしたが結局は兵士達を追いかけて逃げて行く。
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