青年期 286

…それから二日後。



辺境伯の派閥の下っ端貴族であるロワダン男爵と侯爵の派閥の下っ端貴族であるグレンリー子爵がほぼ同時に拠点へとやって来た。



「…さて、とりあえずなんでお互いに争ってるの?」


「…グレンリー子爵が我がロワダン領からの通行料や関税を法外な値段に上げ、数年前から改善要求や交渉を求めても全て無視されているからです」


「ふん、金が払えなければ他の領を通れば良いだけだろう。道は一つでは無いのだ、貧乏人が僻みで武力に訴えおって」



応接室で二人を座らせて俺が詳細を問うと男性が武力衝突に至った経緯を軽く話し、男は不愉快そうに偉そうな態度で返す。



「無論、我々は今までそうして対応して来ました。ですが去年から周りの領主に対して通行料や関税の引き上げをするよう働きかけている…などという話が聞こえてくればこちらももはや黙ってはおけません」


「そりゃそうだ。なんでそんな事を?」


「金を稼ぐためだ。敵対派閥の者の事などどうなろうが知った事か」



男性の反論に俺も同意して理由を聞くと男は悪役貴族みたいな事を言い始める。



「なるほど…他にちゃんとした理由が無いのなら直ぐにでも引き下げた方が良いと思うよ?本当にそんなしょうもない理由でやってるんなら侯爵が怒るだろうし」


「…もちろん我々とてやりたくてやっているわけではない。ここ数年我が領内では治水が上手くいかず、不作が続き税収が大幅に減っておるのだ…周りを気にしてる余裕など無い」



俺が注意や警告をすると男は流石にマズイと思ったのか言い訳するように領内の事情と経緯を話し出す。



「それならそうと最初に言ってもらわないと」


「…そのような事情が…しかし、我々にとっては子爵の行動を到底受け入れる事は出来ません」


「だろうな。コンテスティ侯爵の顔を立てて席に着いただけでこちら側が妥協や譲歩する事は一切無い」



俺の発言に男性は同情するように呟くもソレとは切り離したように考えを告げると男も強気で断言した。



「…とりあえず双方の言い分は分かったけど…領内の不作の件は侯爵とかに報告した?」


「恥ずかしくてそんな事を報告できるわけないだろう!しかし侯爵に隠し通すのは無理だ…あの方ならば既に知っていても不思議では無い」



俺が考えるように呟いて確認すると男は無駄な意地やプライドを発揮させて返し、直ぐにトーンを下げて想定を話す。



「報連相がなってない…まあいいや。じゃあウチから治水の技術者を100名ほど半年ぐらい貸し出すから、その期間で技術を学ばせて」


「…いいのか?」



俺は呆れながら呟き、気持ちを切り替えて短期の技術支援を申し出ると男が驚きながら確認する。



「不作が改善されれば関税や通行料を下げられるでしょ?」


「…それはそうだが…成果を確認してからしか引き下げには応じれん。その間税収が低い事に変わりはないからな」


「…それでは我々も引き下がるわけにはまいりませんね」



俺の確認に男は微妙な顔で肯定するも駆け引きをするように強気な事を告げ、男性も強硬な事を言い出した。



「その間の税収については侯爵や派閥の人達に相談して援助してもらえば良いじゃん。助け合いもしない派閥になんて属する意味ある?」


「しかし…」


「…正直言ってこれ以上はいくら俺でも無理だよ?無駄な意地やプライドで絶好の機会を不意にするなんて周りの人達が聞いたらなんて思うか…」


「くっ…!分かっ、た。派閥からの援助が了承され次第、通行料や関税は即時引き下げる」



俺が提案すると男は困惑したように呟き、俺の呆れてため息を吐きながらの脅しに屈したのか男が条件を付けて了承する。



「とりあえず今は一時停戦して、関税とかが引き下げられたら講和…って事で良い?」


「はい」


「…ああ」


「それじゃあ書面を作らないとね。何があるか分からないし」



俺は話をまとめた後に確認し、二人が了承するので書面を作成する事を告げて釘を刺す。



…そんなこんな三人で書類を作成し…なんとか夕方前にはお互いが合意の上で書面にサインして、調停が成立したので二人は後始末をするために帰って行った。



「…調停は成功したんですか?」


「ん」


「流石はゼルハイト様。政治的手腕にも優れているのですね」


「…今日は来たんだ」



侯爵と辺境伯に報告の手紙を書いているとお姉さんが戻って来て尋ね、肯定すると何故か少女も一緒に戻って来たらしく俺は少し驚きながら顔を上げて返す。



「今日は私達が手伝ってなんとか早く終わらせる事が出来ました」


「『達』って事はお姉さんも?先生は上層部だからともかく、下っ端のあのお姉さんでも手伝えるもんなんだ」


「書類整理とかの雑用を手伝ってくれる人が居るととても助かりますよ?」



お姉さんのドヤ顔をするような手柄を主張する感じの言葉に俺が意外に思いながら返すとお姉さんは当たり前の事を言う。



「まあでもお姉さんも後から来るだろうし…夕飯はみんなで囲んで食べれる物にしよう。鍋かすき焼きか焼肉か…たまにはチーズフォンデュもいいな…」


「いいですね。 じゃあすき焼きにしましょう!確かまだ割り下が残ってましたよね?」


「んじゃすき焼きで」


「ごめん、ちょっと遅れた」



俺は手紙を書く手を止めて夕飯について考えながら呟くと、お姉さんが同意しながら提案して確認してきて…



俺が了承して手を動かしたら直ぐに女性が謝りながら部屋に入って来る。

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