青年期 327
…その後。
宿屋で協会員の報告を受け、分身の俺らは敵の拠点があるとされる山へと向かった。
「…こんな所からわざわざゲリラ活動しに行くなんて大変だな…」
「でも拠点としては理に適ってるんじゃないかい?」
「まあそりゃそうだけど…」
分身の俺が山道を登りながら愚痴るように呟くと分身の女性は理由を想定したように真面目に返し、分身の俺は微妙な顔で肯定する。
「…お」
「…どうやら気付かれたようだ」
…視線や気配を感じて呟くと分身の女性も敵の存在に気付いたらしく、警戒した様子で注意を促した。
「去れ!ここから先に進むのなら、痛い目を見るぞ!」
「…問答無用で襲いかかって来ると思ったのにちゃんと警告してくれるんだね」
「意外と人が通るんじゃない?だから問答無用での襲撃が面倒になって警告するとか」
「なるほど」
どこからか大声で警告のような言葉が聞こえると分身の女性が意外そうに言い、分身の俺の予想に納得する。
「とりあえず声の方向はアッチからだった」
「じゃあそこに行ってみよう」
分身の俺の指差しながら報告に分身の女性は行き先を変えてその方向へと歩き始めた。
「今すぐに去れ!命を落とす事になるぞ!」
「…潜伏する気ゼロなのか?」
分身の俺らが声のした方向に進んでると今度は違う方向からさっきよりもはっきりとした言葉が聞こえ、分身の俺は呆れながら呟く。
「…おっと」
「初手は矢か」
…警告を無視して進んでいると木の上の方向から矢が飛んで来て…
分身の女性が一歩後退るように余裕で避けると矢が地面に刺さり、分身の俺は矢尻に何か塗られてないかを確認するために引き抜いた。
「…ただの矢だな」
「…あそこか…」
分身の女性は分身の俺の報告を一切聞いてないように矢が飛んで来た方向を見ながら敵の居場所に当たりを付けたのか剣を取り出す。
そして分身の女性が剣を抜いて歩き出すとまたしても木の上から矢が飛んで来る。
…が、分身の女性は軽く剣を振って簡単に矢を叩き落とす。
「…お?一人逃げた」
「…あと一人は…」
ガサッ…と小さい音が聞こえ、人の気配が遠のいていくので分身の俺が報告すると分身の女性は鋭い目つきで獲物を探すように左側を向く。
「とりあえず俺は逃げた奴を追いかけるよ」
「分かった」
分身の俺は別行動をする事を告げて近くの奴を分身の女性に任せ、逃げた奴を追う事にして歩き出した。
「…おっと」
「そこっ!」
…分身の俺の頭めがけて後ろから矢が飛んで来るが上半身を屈めて避けると分身の女性はソレで敵の居場所を把握したのか声を上げて走り出す。
「…お」
…逃げた奴を追って行くと開けた場所に出て木の柵に囲まれた野営地みたいな所に着いた。
「なるほど、拠点ねぇ…」
中に入って周りを見るも人の気配がほとんどせず…分身の俺が今追ってる奴一人の気配しかしない。
「くっ…!こんなところまで…!」
「おや、まだ少年じゃないか。本当に変化魔法の使い手か…?」
そこらのテントからバッと出て来た10代前半っぽい少年は鉈を持っていて、分身の俺は意外に思いながらも疑問に思って呟く。
「…一人か。それも弱そうな奴…こんな奴なら俺一人でも…!…あっ!」
「残念。流石に子供に負けるほど弱くはない」
少年が強気になって鉈で切り掛かって来たが分身の俺は少年の足を払って転ばせた後に腕を捻るようにして後ろ手にして地面に組み伏せる。
「離せ!離せよ!」
「…はいよ」
ジタバタと手足をバタつかせて抵抗する少年の手と足を紐で縛って拘束してから分身の俺は少年から離れた。
「さて、お姉さんを迎えに行くか」
「おい!待て!ほどけよ!おい!」
…敵の拠点の位置を教えるために分身の俺は拘束した少年をその場に放置して来た道を戻る。
「…あ」
「…ソッチも子供だったんだ?」
分身の俺が変化魔法を使ってセイレーンの技を応用したエコーロケーションで分身の女性と合流すると、小柄な体格の少年か少女を肩に担いでいた。
「ああ。木を揺らしたら落ちて気絶したみたいだ」
「戦ってすらいないの…?」
分身の女性の話を聞いて分身の俺はマヌケ過ぎない…?と思いながら微妙な顔で返す。
「…それにしても…こんな子供達が本当に変化魔法の使い手なのかい?」
「俺も思った」
…山の中腹に設営された野営地で拘束した少年二人を見て分身の女性が疑うように尋ねるので分身の俺も同意する。
「俺達はただの留守番だ!フラー隊長が帰って来たらお前らタダでは済まないぞ!生きて帰れないぞ!逃げるなら今の内だ!」
…少年はその隊長とやらをよっぽど信頼しているのか、普通ならば分身の俺らに殺されかねない状況でも強気で煽って脅してきた。
「へー、その隊長ってのはよっぽど強いみたいだな」
「当たり前だ!俺達の国では一番変化魔法の使い方が上手いって言われてるんだぞ!」
「へぇ、そりゃ楽しみじゃないか。どれくらい強いのか…」
「全くだ。どれほどの練度か興味が湧いてきた」
分身の俺の侮るような発言に少年は何故か得意気になって自慢するように返し、分身の女性が嬉しそうに言うので分身の俺も同意する。
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