学生期 弐 5
「ぼ、ぼ、坊ちゃん。こ、この、量、って…もしかして…?」
「まあ毎週ダンジョンに行ってるとどんどん溜まっていくんだよね。家には持って帰れないし、使い道もあまりないから」
魔石の入った袋を地面に置いて行くとお姉さんが驚愕したまま指差しながら確認するので大量になった理由を話す。
「た、たた宝の山じゃないですか!!あの魔石がこんな砂利とか小石を詰めるように袋に大量に入ってる所なんて初めて見ましたよ!!うっそー!!」
「まあ一年分だし。エーデルやリーゼに持って行かせるのも危険だから、結局渡す方法が無かったんだ」
「…そ、それは確かに……というかミノタウロスの魔石が12個も…?…コッチはカースホースの魔石?15個も…」
驚愕しっぱなしのお姉さんに魔石を捌けなかった理由も話すと納得したように呟いて魔石を調べていく。
「…そういえば先生はもう俺の家庭教師じゃないけど、母さんの所とか行く?」
「…え?あ、はい。一応坊ちゃんの様子を話しに行く予定ではありますけど…」
俺の確認に、にやけた顔で魔石を調べていたお姉さんが我に返ったように肯定しながら返す。
「あ、じゃあついでにその魔石を全部持って行って欲しいんだけど…」
「お任せください!」
俺が遠慮がちにおつかいをお願いするとお姉さんは食い気味に即答してきた。
「ありがとう。そのお礼といってはなんだけど…その中からなにか欲しい物あったら貰っていいよ」
「ホントですか!!?流石坊ちゃん!とても助かります!…じゃあ…何がいいかな…貰えて一つ…いや、二つぐらいは…!うふふ…!」
俺のお礼にお姉さんは大喜びしながらも魔石は数百個もあるのに、どうやらその内の二つしか貰わないつもりらしく…
怖い笑い方しながら時間をかけてじっくりと魔石を吟味していく。
「…ではこのキマイラとアラジカの魔石を貰います!」
…お姉さんは10分ほど悩んで二つの魔石を手に取る。
「どうぞ」
「いやー…こんなにいっぱいの魔石に囲まれるなんて夢のようですね…まるで楽園のようです」
「まあ普通なら取ったら直ぐに渡すからこんなに溜まっていかないからね」
お姉さんが嬉しそうに幸せいっぱいに笑いながら言うので俺が適当に返事をすると…
「これだけあれば魔石風呂とかもできそうじゃないです?」
お姉さんはゴブリンの魔石を両手いっぱいに掬ってヤバイ事を言い始めた。
「…石が詰まった浴槽に裸で入ったら怪我しない?流石にソレは部位鍛錬と同レベルの修行だよ?」
「あー…確かに。よく考えたらそうですね。高濃度の魔力に浸かるなんて究極の贅沢だと思ったんですけど…」
俺がヒきながら否定的に聞くとお姉さんは急に冷静になって残念そうに呟く。
「…よく分からないけど…砂風呂みたいになら出来るんじゃない?」
「砂…風呂?」
「魔石を削って粉末状にして、そこに首だけ出して横向きに埋まるやつ」
「わー!凄い!そんな方法があるんですか!?まさしく私の考える究極の贅沢ですよ!凄い!流石坊ちゃん!」
俺の提案にお姉さんが不思議そうに聞き返すので簡単に説明すると、それで伝わったのか興奮したように褒めてくる。
「…でも人の身体が埋まるほどの量の魔石ってどれぐらい必要なんでしょうね?コレの半分?それとも1/3ぐらい?」
「大きい魔石なら50個ぐらいあれば足りるんじゃないかな」
「…想像する分には夢のようで楽しいですけど、実際には無駄遣いが酷すぎて出来ないですね。終わった後に死ぬほど後悔しそうです」
お姉さんは現実的に考えながら量を予想するので俺も予想して返したら、冷静になったようにリアルな発言をした。
「…では坊ちゃん、私はこれから魔石の数を確認して来ますので…これで失礼します」
「あ、うん。お願い」
お姉さんが魔石を全て回収して別れの挨拶をするので俺が適当に返すと…
「リデック様。この魔石は全て私、アーシェ・クラインが責任を持ってシャサラ様…ゼルハイト子爵夫人へと確実にお渡しいたします」
急に真面目な顔で仕事のように宣言し始める。
「…分かりました。お任せします、どうぞよろしくお願いします」
「ではまたお昼時間に」
俺も真面目に返答するとお姉さんは笑顔になって雰囲気を柔らかくすると手を振り、校舎へと戻って行った。
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