青年期 289
「…ねえ、そういえばマスタークラスのライセンスってどんな感じなの?」
女の子がレシピを写し終わるまでの間、俺が暇つぶしに報告書を読んでいると女の子はふと思い出したように話しかけてくる。
「…ん?どうしたんだ?突然」
「いや、あの時は持ってないって言ってたけど、今なら持ってるのかなー…ってちょっと気になっただけ」
「あのお兄さんに見せてもらえば良かったのに。ほらよ」
俺の問いに女の子が理由を話すので、俺はあと一人のマスターランクのハンターの男を話題に出しながらもライセンスを取り出してテーブルの上に置く。
「いやー、実はあの時までほとんど話した事無くて……あんまり私のと変わらない気がする」
女の子は軽い感じで返すと俺のライセンスを確認した後に自分のライセンスを取り出して並べた。
「お。赤って事はソッチもA級なんだ」
「一応ね。昇級試験の時は結構ギリギリだったけど」
今なら余裕で突破できそう。と、俺の意外に思いながらの発言に女の子は過去の話をした後に現時点での想定を話す。
「まあ上手くいけばドラゴンでも一撃で倒せる、ってんならそりゃ余裕でA級の実力はあるわな」
「でもソレ武器と道具の力だからなぁ…ライフルが無ければ多分Bギリギリかもしれない」
「武器を上手く使いこなしてこその実力だろ。武器無しでもB級ならハンターの中でも余裕で上澄みの方だぞ」
俺が納得しながら返すと何故か女の子は謙遜するように微妙な顔で呟き、俺はフォローするように言う。
「え、そう?」
「そうそう。攻撃魔法特化の魔法使いでも身を守るための武器や防具は身につけるわけだから、素手で戦うとなると結構不利になるし」
「あー…確かに」
嬉しそうに確認してくる女の子に肯定して理由を話すと思い返すように呟いて同意する。
「…せっかくだから後でダンジョン行かない?マスタークラスの実力とかソッチの戦い方とか見てみたいし」
「まあソッチが良いんならいいけど」
「ホント!?じゃあ早く書き写さなきゃ!」
女の子の顔色を伺うような感じでの提案に俺が了承すると女の子は喜んだ後に書くスピードを上げた。
「で、どこ行くんだ?」
「この国のダンジョンは分からないからソッチが決めていいよ。私はどこでも良いし」
「んじゃま、怪我しないように初心者用のFクラスのダンジョンでいいか」
俺が確認するように問うと女の子は手を動かしながら選択を俺に委ねるので…
俺は危険度も難易度も一番低く、なによりココから一番近いダンジョンに行き先を決める。
「…怪我しないように、って言っても最下層まで行く前提ならどこでも変わらなくない?」
「そりゃそうだ」
女の子のツッコむような指摘に俺は適当に相槌を打つように賛同した。
「…終わり!じゃあ行こ!」
「ああ。んじゃちょっと片付けるから下の入口で待っといて。直ぐ行くから」
「分かった。じゃあ先に行ってるから早く来てよ?」
「はいはい」
筆写が終わった女の子がペンを置いて催促し、俺は分身を行かせるために女の子を部屋から追い出すように言うと女の子は素直に部屋から出て行く。
「…さて」
俺はドアに耳を当てて外に誰も居ない事を確認して変化魔法を使って分身し、軽く変装させて女の子の元へと向かわせる。
「…待った?」
「いや、今来たばっかだよ。ってか後ろからついて来るぐらいなら一緒に来ても良かったんじゃない?」
「『早く早く』って急かされたら嫌だし」
「う…」
分身の俺が本部から出て声をかけると女の子はツッコミながら返し、分身の俺の適当な誤魔化しに言葉に詰まったように呟く。
「とりあえず行くか」
「ん」
分身の俺は雰囲気を変えるように言って歩き出して女の子と一緒に拠点から出た。
「…一番近いところに行くとはいえ、歩くと時間かかるから俺が送るわ」
「へー!変化魔法ってそういう風に日常的にも使えるんだ!」
分身の俺が拠点の外でそう告げ、変化魔法を使ってダチョウに変身して伏せると女の子は驚きながら意外そうな反応を見せて分身の俺の背中にまたがる。
「んじゃ行くぞ?」
「うん」
立ち上がって確認を取ると女の子が了承するので分身の俺は目的のダンジョンまで走って移動した。
ーーーーー
「…うへー…馬よりめちゃくちゃ速いじゃん…」
…拠点から走る事約20分ぐらいで目当てのダンジョンに到着し、分身の俺が女の子を降ろすと驚いたように呟く。
「そりゃ魔物と動物を比べたらな。同じ魔物であるカースホースやスレイプニルと比べたら普通に速度では劣るし」
「へー」
分身の俺が変身を解除して反論すると女の子は意外そうな感じで返す。
「でも持久力ではダチョーの方が遥かに上だけど」
「あー…戦いが長引いてもずっと元気で動き回って疲労による隙は期待出来ない、って言われてるぐらいだし…」
「頭が良ければ難易度や危険度が結構上がる、っても言われてるだろ?その頭脳を人間が補えば最大の短所で致命的な欠点も消えるってワケよ」
「なるほど!そして長所だけが残る…と。そうかぁ…そんな手もあったかぁ…」
分身の俺の補足に女の子は納得するように呟き、変化魔法の有用性を教えると女の子が理解したように目から鱗…的な反応をする。
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