青年期 323

「…やあ、ゼルハイト卿。良く来てくれた」



…やはり青年は案内先の部屋ではなく…わざわざ出向いてくれてるようで途中の廊下で会うと歓迎の挨拶をする。



「たびたびすみません。王都の方で問題が発生しまして…」


「なんだと?一体何が起きた?」


「結果から言うと自分が間を取り持っての話し合いで丸く収まりましたが、反乱が起きました。どうやらグィン伯爵は速やかに王城の制圧を完了させたようで、なんとか陛下達を捕らえる前に要請を受けた自分が間に合いました」



分身の俺が謝罪から入って用件を告げると青年は驚いたように真剣な顔で確認し、分身の俺は不要な心配をかけまいと倒置法のように結果から先に話す。



「…反乱…グィン伯爵…というと……話し合いで丸く収まったというが、王城が制圧された状況から良く話し合いに持ち込めたものだ」



青年は状況を理解するために整理するように呟くと少し考えて意外そうな感じで尋ねた。



「自分が単身乗り込んで伯爵に直接交渉しました。『兵や伯爵の身の安全を保証するので兵を退いて話し合いに応じること』と」


「…なるほど。ゼルハイト卿にしか出来ない荒技だな」


「実際は陛下にその条件を呑むよう交渉したんですが…陛下は仕方ないといった感じで受け入れてくれました」


「だろうな。城が制圧されている状況ならば呑む以外に選択肢はあるまい」



分身の俺のちょっと状況を改変した説明に青年は笑って納得するので訂正を入れると、青年が笑ったまま王様の判断に肯定的な感じで返す。



「しかしなぜそのグィン伯爵は反乱を?王都の近くにはゼルハイト卿や猟兵隊の拠点があり、今回のように何かあれば直ぐに駆けつけてくるのは分かりきっていた事だと思うが…」


「伯爵が反乱に至った理由なんですが…あ、その前に。自分がココに来たのは『王都での騒ぎは収まった』と報告するためなので、急報が届いた場合は兵達が動揺しないよう既に解決済みだという事をみんなに知らせてもらえないでしょうか?」



青年が不思議そうに当然の疑問を口にして失敗する可能性が高い根拠を示すように呟くので…



分身の俺は雑談や井戸端会議的な感じで話そうとしてふと用件を思い出し、話が長引いて忘れる前に伝える事に。



「…ん?…もしかして、だが…君はゼルハイト卿本人ではなく、影武者の方…なのか?」



すると青年が何か引っ掛かったような顔をした後に確認してくる。



「いえ。実は王都の騒動を解決してくれたのが自分の影武者です」


「そうか。それはすまなかったな、ゼルハイト卿の影武者とやらは完璧過ぎて本人かどうか全く見分けが付かず、未だに判別のしようがない」


「ははは、影武者にとっては最高の褒め言葉ですね。ちゃんと伝えておきます」



分身の俺は否定した後に嘘を吐くと青年がしてやられたような感じで笑いながら軽く謝り、そりゃそうだろう…と思いながらも笑って適当に流すように返した。





ーーーーー





「…政府による不正の放置、か…いくら指摘しようとも改善する兆しすら見せぬのならば確かに反乱に大義を持たせてしまう」



…青年の執務室で話の続きを話すと青年は険しい顔をしながら伯爵の肩を持つような肯定的な反応を見せる。



「まあ反乱や反逆を正当化させるわけでは無いですが…今回の件で流石に政府側は危機感を持ったでしょうし、自分は伯爵に感謝しています」


「…そうだな。新興貴族を増やす事については我々の派閥内でも賛否が分かれていた、そして今回の件…もしかしたらこれから領地を持たぬ新興貴族達の爵位を剥奪させる流れが出来るかもしれん」


「…真っ当にやっていた人達からしたら迷惑な話ですが仕方ない事かもしれませんね。金で爵位を買ってるのに真っ当な人達が居るかどうかは分かりませんが」


「ははは」



分身の俺が前置きをして自分の意見を話すと青年は同意して予想と想定を返し、分身の俺のボケや冗談のような発言に笑って返す。



「では自分はこれで」


「ああ。今度はもう少しゆっくりと話したいものだな」


「そうですね」



…用件が済んだので分身の俺が防衛とかの邪魔にならないよう配慮して話を切り上げると青年はそれを察しながらも残念そうに返し、分身の俺は同意した後に退室する。



そして城を出た後に大通りから外れて人気の無い路地裏へと移動した後に周囲に人気や人の目が無い事を確認して分身を解く。




…その5分後。




帝国の女の子がようやく拠点へとやって来た。



「遅かったな」


「ちょっとね。本当は直ぐ来るハズだったんだけど…部下とのやりとりで予想外に時間かかっちゃって」


「ああ、なるほど」



団員に連れられて部屋に入って来た女の子に俺が報告書を見ながら言うと理由を話すので俺は納得して報告書を机の上に置く。



「今日はなんか和菓子が食べたい気分なんだけど…」



俺が飲み物を用意してると女の子は強制する感じではなく、冗談を言うような感じで甘えた声を使って要望を言ってくる。



「和菓子ぃ?じゃあ…ようかんとか水ようかんか?」


「やった!」


「大福もあるぞ。いちごやアンコ、カスタードやホイップクリームが入ったやつとか」


「やったー!!」



俺はとりあえず確認するようにお菓子を出すと女の子が喜び、更に別のお菓子を出して中身の違う物も出すと女の子は大喜びした。

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