青年期 51
「…あ、やばい…違うよー」
俺らが国境の砦に近づくと敵と勘違いされて壁の上に居た守兵達が弓を構え始め…
分身の俺は慌てて手綱から両手を離して大きく両手を振った。
「…なんだ、傭兵団か…思わず敵だと思って鐘を鳴らそうかと思ったぞ」
「なぜソバルツの装具を着けた馬に?」
「なんか馬に好かれたみたいで、ついて来たから連れて来た」
砦の中に入ると守兵の指揮官が何人か駆け寄って来て疑問を聞いてくるので分身の俺は適当な嘘を吐く。
「…この数を、か?」
「まあとりあえず余った馬はあげるから好きに使って」
「なんだと!いいのか!?」
「1000頭近くいるぞ!本当にいいのか!?」
怪しむような指揮官に分身の俺が譲渡すると手のひらを返したように喜びながら確認を取る。
「いいよいいよ。それで戦況が良くなるんなら安いものだし」
「そうか!感謝する!」
「早速コンテスティ侯爵に報告せねば…まずは数の把握だ」
分身の俺の軽い返事に指揮官達は喜んで馬の頭数を数えるために他の守兵達を集め出した。
「じゃ、後はよろしく。俺らは一旦宿営地に戻ろう」
「もう?」
「…分かった」
「了解だ」
分身の俺の指示に隊長達が驚くも了承して街外れの宿営地へと帰還する。
「今日の出陣はおしまい、明日までみんな身体をしっかり休めてね。あ、隊長達は話があるから集まってー」
おおー!!と団員達が喜んで声を上げる中、俺と知り合いのハンター達は大きめのテントの中に集まった。
「…馬が手に入った事で機動力が上がったのは良い事だけど…みんな騎兵として戦えるかな?」
「…分からん」
「『馬に乗れる』と『馬に乗って戦う』ではだいぶ勝手が違うからな…」
「ダンジョン内では馬に乗って戦う事など無い…ハンターにとって馬とは単なる移動手段でしかない」
分身の俺の確認に隊長達はみんな苦い顔で困ったような反応をする。
「現状、戦況は俺達防衛側が有利に見える。なんせこっちには最終防衛線であるそこの街に南方騎士団が控えてるからね」
「うむ。もし敵が国境の砦を越えるようであれば即座に動くだろう」
「逆に言えば砦の外で戦っている限り騎士団は動かないと言えるが…それでも敵の土地で戦っている以上こちらが優勢である事に変わりはあるまい」
分身の俺が戦場の状況について話すと隊長達が賛同してきた。
「と言うことで…少しの間だけど騎兵の訓練をする時間が取れるハズ」
「今から訓練するのか…?」
「その場しのぎにしかならないと思うが…」
「はたしてうまく行くか…」
分身の俺の提案に隊長達は不安そうにそれぞれ顔を見合わせながら呟く。
「その場しのぎで十分。俺らの役割は敵の横や背後に回り込んでの一撃離脱の奇襲だけだからね」
「…ふむ。俺は騎兵戦の心得なら多少はある」
「俺も少しの間だが馬に乗って戦った事がある」
「確か団員の中にもかつて正規兵として騎兵の訓練を受けた者もいるはずだ。後で声をかけてみよう」
分身の俺が士気を上げるために言うと隊長の何人かが経験者である事を告げ、訓練をするにあたっての予定を立て始める。
「じゃあとりあえず明日から一週間ぐらい訓練期間にあてようか。敵の馬を奪ってるからそうそう簡単には攻めて来れないはずだし」
「…そうだな」
「そうしよう」
「まあ敵の動き次第では期間が短くなるかもしれないけど…その時はその時で」
分身の俺は適当な感じで訓練の期間を決めて自分のテントへと戻った。
「お帰りなさい。どうでした?」
「馬が手に入ったから医療部隊も前線に出れるかも。もちろん後ろの方で危なくなったら真っ先に逃げきれる位置に、だけど」
「あはは…今の私は死んでも問題無いんですからそんなに気を使わなくても」
分身のお姉さんの問いに分身の俺が説明すると分身のお姉さんは困ったように笑う。
「…まあ分身とはいえ先生に死なれたらえらい事だけど、医療部隊に死なれても大変だからね」
「…なるほど」
一応分身のお姉さんの安全にも配慮しつつ、医療部隊の安全の確保を優先してる事を告げると分身のお姉さんはちょっと恥ずかしそうに返す。
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