青年期 341

「…誰も居ないのか?」


「そりゃ宿一軒貸切だからね。今はみんな遊び…情報収集に出てるし」



宿屋の中に入るも従業員以外見当たらないので分身の俺が不思議に思いながら聞くと女の子は意外な返答をする。



「一軒貸切。安全対策か」


「ほら一応帝国って結構色んなトコから恨まれてるから…」


「ああ…特にソッチは戦い方がアレだったもんな…」


「あなたに禁止されてなければこんなビクビクする必要も無いんだけれど?手段や方法を選ばないで良いんならソッチみたいな化物以外に負ける気はしないし」



分身の俺の意外に思いながらの予想に女の子は微妙な感じで笑って呟くので納得すると女の子に嫌味を言われ、妙に強気な事を言い出す。



「でも今までなんでもありで通して来たからそのツケが来てるわけだろ?結局俺関係なく遅かれ早かれじゃね?」


「う…」


「ってかソレを理解してたから俺の条件を呑んだはずなのに今更嫌味を言われてもなぁ」


「……お、男なら女の嫌味の一つや二つぐらい大目にみなさいよ!それぐらい笑って許すぐらいの度量はあるでしょうが!」



分身の俺が指摘すると女の子は言葉に詰まり、逆に嫌味を言い返すと女の子に意味不明な逆ギレをかまされた。



「はいはい。で、話を戻すけど…コレがマーメイドの魚肉な」



分身の俺は適当に受け流して目的を果たすために空間魔法の施されたポーチから容器を取り出し、蓋を開けて中身を見せる。



「おお!これが…!」


「一応食べて確認してみてくれ」


「…じゃあ…」


「醤油いるか?」


「いらない」



嬉しそうな女の子に分身の俺が確認を促すとナイフを取り出すので調味料の使用を尋ねるも拒否された。



「…うまっ!一昨日食べたのと同じ味だ!」


「おー、そりゃ良かったな。んじゃソレ含めてあといくつ欲しい?」


「え!?まだ貰えんの?…じゃああと二つ!」



一切れ食べて感想を言う女の子に個数を聞くと驚愕して呟いた後にピースしながら意外と謙虚な数を言う。



「はいよ」


「ありがと。…やっぱ醤油少しちょうだい?」


「ほい」



分身の俺が大きめの容器を取り出すと女の子は紙に包んでからしまい、やはり調味料が欲しくなったのか要求してくるので小瓶を取り出して渡す。



「…うまっ!やっぱ醤油だなぁ…」



…女の子は一切れの刺身を口の中に入れると上を向いて口の中に直接醤油を少し垂らして食べてしみじみと感想を呟く。



「マーメイドの魚肉は塩でも何も付けなくても食えるけど、普通の刺身は醤油が無いと無理だろ」


「確かに。ってかここまで脂のってたら普通は醤油とか弾くはずだけど…隠し包丁入れなくても良いとかやっぱ魔物の肉ってヤバ…」



分身の俺が刺身に醤油は定番だという事を話すと女の子は同意しながらも不思議そうに呟いて軽く驚いたような反応をする。



「…って、もしかしてだけど…わざわざマーメイドを狩りに海底ダンジョンがある国まで行ったの?」


「まさか。わざわざどこの国のどの地域にあるかとか探してまで行こうとは……思うかもしれんが、今回は違う」



女の子の軽く驚きながらの予想に分身の俺は否定した後に理由を話さそうとするも曖昧にしてからもう一度否定した。



「じゃあどうやって?商人とか知り合いから買うにしてもこんなにいっぱいは無理でしょ」


「まあちょっと、な…人には言えない方法で。魔法協会風に言うなら『秘匿事項』ってトコだな」



誰かが真似しようとしたら困るし。と分身の俺は女の子の問いに詳細は話さずにその理由を教える。



「え、じゃあ誰かが真似出来る方法?」


「やろうと思えば出来んじゃね?本当はやっちゃいけない事で失敗したらとんでもない事になるけど」


「なにその『禁忌』的なやつ。めっちゃ気になるやつじゃん」



女の子は興味を持ったように尋ね、分身の俺が適当な感じで誤魔化すように嘘を吐くと更に好奇心が刺激されたみたいな反応をした。



「絶対誰にも言わないから私だけに教えて!」


「…じゃあ秘密は墓まで絶対持っていくか?」


「…『墓まで』って…つまり一生じゃん」


「どっかに漏れて他に広まったりするとガチでシャレにならんからな。その覚悟が無いなら聞かない方が良いし知らない方が良いぞ」



女の子が秘密にする事を条件に聞いて来るので確認すると微妙そうな顔で呟き、分身の俺は脅すように言う。



「…分かった。絶対誰にも言わないし、秘密は墓まで持っていくって約束する」


「お。じゃあ誓えるか?」


「そこまで?分かったよ、誓う」



女の子は条件を受けるように了承し、分身の俺が意外に思いながら聞くと不思議そうに聞くも直ぐに頷く。



「実はダンジョンコアを弄った」


「…は?」


「魔素を調節したり調整してダンジョン内にマーメイドが出てくるようにしてな」


「ちょ、ちょっと待って。ソレ、ガチでヤバいヤツじゃん」



分身の俺がそれっぽい嘘を吐くと女の子は理解出来ないような顔になり、軽く説明すると理解出来たのか慌てたように返す。



「だから墓まで持ってけ、って事よ」


「…ダンジョンコア弄るとか怖いもの知らずとかいうレベルじゃなくてヒくんだけど…ってか良く成功したね?」



分身の俺の念押しに女の子はドン引きしながら呟いて微妙な顔をしながら尋ねる。



「まあ何回か試した事はあるからな。流石にダンジョンコアの破壊を依頼された時だけだが」


「あー…なるほど…どうせ破壊するなら、って事かぁ…いやでも思いついてもやる?普通」


「でもそのおかげで魚肉が貰えたわけだろ?」


「う…ありがとうございます。…ってか流石にこんなヤバいやつなら聞かなきゃ良かった…」



分身の俺が正直に過去の経験を告げると女の子は納得しながらも考えが理解出来ないように返し、分身の俺の弄るような発言に言葉に詰まってお礼を言うとため息を吐いて悔やむように呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る