青年期 314

…翌朝。



一騎打ちの時間として指定された日の出に国境を越えて行くと…



既に一人の男が先に立って待っていた。



「…そちが果たし合いの相手でござるか?」


「そうだよ。お手柔らかによろしくね」



…どことなく武士のような感じの喋り方をする青年の問いに分身の俺は肯定して軽い感じで返す。



「拙者、『貞成』と申す者。いざ尋常に勝負を」



腰の右側に二本、左側に一本の刀のような剣を差している青年は名乗りを上げながら背中に背負っている長刀を抜いて構える。



「ほう、これは丁寧に。俺はゼルハイト家が長男…いやいいや、『ゼルハイト』申す者、いざ尋常に」



分身の俺は意外に思いながら自己紹介しようとしたが名前は名乗らずに名字だけ名乗って空間魔法の施されたポーチから鉄の棒を取り出す。



「きえええぃ!!」


「なっ…!」



青年が長刀を上段に構え、柄を両手で力いっぱい握ると叫び声を上げながらほぼ一瞬とも思えるような速度で距離を詰めて分身の俺の懐に飛び込んで全力で長刀を振り下ろす。



分身の俺は青年の動きの速さに驚きながらも半身ズラすようにしてギリギリで回避した。



「おおー、すげぇ…まるで示現流だな」



刀身の長い刀が鍔の方まで地面に食い込んでいるのを見ながら分身の俺は褒めて青年の流派を予想するように言う。



「…何故、反撃せぬ」


「ん?」


「今のそちには反撃する余裕が感じられた。なのに何故、動かぬ」



地面に思いっきり食い込んでる長刀を引き抜いた青年の問いに分身の俺が聞き返すと、青年は怪訝そうな顔をしながら長刀を上段に構えて理由を問いただしてくる。



「特に理由は無いけど…強いていうなら戦いを楽しみたいから、かな?」


「…なるほど。そちの言う通り拙者は自顕流の使い手。『天真正自顕流』そして『薬丸自顕流』の免許皆伝を受けた者でござる」


「へー…示現流の流派?二つの流派で免許皆伝って凄いな…めちゃくちゃ強い人じゃん」



分身の俺が適当に答えると青年は納得したように情報を開示し始め、分身の俺は意外に思いながら感心して褒めた。



「でも示現流って今みたいに一撃に全てを込めるんでしょ?俺とは相性悪くて勝てないと思うけど…」


「…よほどの腕前と見る。では続きを」



分身の俺の微妙な顔をしながらの想定に青年は真剣な顔つきに戻って上段に構えた長刀の柄を力いっぱい握る。



「きえええぃ!!」


「おおー、すげぇ」



青年はさっきと違い、何が何でも絶対に殺すという決意を込めた鋭い殺気と強い威圧感を放ちながらさっきと同じように素早い動きで距離を詰め…



懐に入るや否や分身の俺を真っ二つにせんと全力を込めてさっきよりも少し速く長刀を振り下ろす。



「…普通なら竦んで動けないまま真っ二つか、ガードが間に合っても頭かち割られて死んでるな」


「…二度も拙者の技を避け切るとは…さきほどのはまぐれではござらぬか」


「えいよ」


「くっ!」



…さっきと同じように半身ずらして避けたが布一枚ギリギリで掠ってしまい…



分身の俺が予想を話すと青年は地面に思いっきり食い込んだ長刀を抜こうとしながら認識を改めるように呟くので、分身の俺は軽く蹴飛ばして長刀を抜かせないようにした。



「ちえええぃ!」


「おっと」


「えぇい!えぇい!てぇい!」



青年は素早く態勢を立て直して腰の刀を抜くとまたしても上段で構えながら叫び声を上げて素早く距離を詰めて斬りかかり、分身の俺が避けると下からの斜めに切り上げと袈裟斬りを連続で繰り返してくる。



「…動きに無駄が無く連撃としての回転力や速さは素晴らしいけど、やっぱり二の太刀いらずじゃないと威力は並…ってトコかな」


「…完全に太刀筋を見切られている…!?」



分身の俺は青年の攻撃をヒョイヒョイ避けながら分析して評価を下すと青年が驚愕した様子を見せてバックステップで一旦距離を取った。



「…よもや拙者の刀を初見で見切る者が居ようとは…世界は広いでござるな…」


「…返す」


「かたじけない」



刀を正眼に構えながら感心したように呟く青年に分身の俺が長刀を地面から引き抜いて投げて返すと普通に柄を掴んで受け取り、お礼を言う。



「…では、仕切り直しでござる。拙者はそなたを強者と認め、次の一撃に渾身の力を込めてこの果たし合いに勝利する所存」



青年は目を瞑った後に目を開けると研ぎ澄まされた刺すような鋭い殺気と、生かしてはおけん…という押し潰すような強烈な威圧感を放ちながら長刀を上段に構える。



「へぇ、あれでも今まで全力じゃなかったのか…まるで針のむしろで心臓を掴まれるようなこの感覚…こりゃ楽しみだね」


「…覚悟!チェストおおぉ!!」



分身の俺が厄災の龍と対峙してる時を思い出しながらも余裕の態度を崩さずに笑うと、青年はカッと目を見開いた後に一瞬で距離を詰めて懐に入るや否や今までよりも更に速く長刀を横薙ぎに振った。



「…マジか」



分身の俺は今までと同じく唐竹割りのように刀を振り下ろすと予想していただけに一瞬反応が遅れ、なんとか直撃は避けたものの長刀の切先が横っ腹を掠めていく。



「ぬ。か、刀が…!」



すると青年が持っていた長刀の先端が耐えきれずに折れ、青年はバックステップで距離を取った後に少し折れてる長刀を見て驚愕する。

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