学生期 弐 26

…更に数ヶ月後。



休日にいつも通り朝から鍛錬に励んでいたら切り上げ強化魔法の使い方をふと思いついたので試してみると…



予想外の結果になった。



「わーお…魔道具って便利…!」


「…に、兄さんが大量に…!?」


「お。エーデルなんか用か?」



63人に減らした分身を見ながら俺が呟くとちょうど弟がやって来て驚くので俺は分身を解いて一人に戻しながら尋ねる。



「いや、昼食の事を聞きに来たんだけど…もうあんなに増やせるようになったの?」


「ただ単に増やすだけなら最高127人まではいけるぜ?まあ魔力が128分割されるから変化魔法をどこまで使えるか分からんけど」


「128分割って…平均値の1/10以下?ソレじゃまともに戦えないんじゃない?」


「素手で倒せない奴には勝てるか怪しいだろうな」



弟の問いに現状の限界値を教えるとヒいたように呟き、その状態での問題点や欠点を指摘してくるので俺は肯定した。



「そもそもそんな増やして戦う事も無いだろ。戦うなら3体から7体ぐらいで十分だろうし」


「確かに…でも欠点も弱点も無しでソコまで増やせるって凄いね」


「あー、そっか…お前らにはまだ言ってなかったか…」


「なにを?」



俺が否定的に言うと弟は笑いながら褒めてくるので、俺はそういや老師から聞いた事を話してなかったな…と思いながら呟くと弟が不思議そうに聞く。



「実はこの『分身』にも欠点はあったんだよ。気づいたのは老師…俺の元家庭教師だがな」


「え!そうなの!?」


「ああ…その欠点とはな…」


「欠点とは…?」



俺の説明に弟が驚くのでもったいつけるように言うと弟も真剣な顔で尋ねる。



「分身出来るのが他の人にバレたら、こき使われて仕事量が増える事だ」


「…ぷ…あはは!確かに!」



俺が笑いながら言うと弟も笑いながら同意した。



「まさか完全無欠に思えた技にもそんな欠点があったとは…完全に盲点だったわー」


「ははは!どんな技にも、欠点の一つは、あるもんだ!ははは!」


「あれ?なんか楽しそうですね」



俺のボケに弟がツボにハマったかのように更に笑うと今度はお姉さんがやって来る。



「ああ、極技の唯一の欠点を教えたから」


「あー、なるほど」



俺が笑いながら理由を話すとお姉さんも笑って納得した。



「…じゃあ兄さん、昼はハンバーグで良い?」


「おう。いいぞ」


「分かった」



弟は笑いが収まると昼食の確認をして自室へと戻って行く。



「おおー、ハンバーグですかぁ…良いですねぇ。肉汁が溢れて肉の脂がまた甘くてトロけるあの感覚が…」


「…もしかして魔物素材の肉を使ってる前提で考えてる?まあ使ってるけど」


「本来のハンバーグは違うんですか?」


「…まあ、ね…」



お姉さんが嬉しそうに言うので俺がツッコむように聞くと不思議そうに確認され、説明が面倒なので俺は微妙な感じで返す。



「それより。あの『切り上げ強化』って凄いじゃん」


「…また何かとんでもない使い方を思いついたんですか?」



俺は話題を逸らすようにさっき確認した結果の感想を話すとお姉さんが驚いたように聞いた。



「分身15体の時点で魔力が大体6割まで減るって言ったじゃん?」


「……もしかして…!?」


「うん。試した結果、よく分からないけど本体の俺に強化をかけたら何故か分身体全員に強化がかかった」


「そ、そんな事が…!?」



説明の前の情報整理の時点でお姉さんが察したように驚くので、肯定しながら説明すると愕然としたように呟く。



「多分、分身の性質上弱体化は共有されないかも。とりあえず127体の分身に分かれた結果…全員に効果があったみたい」



でも魔道具を4回使う事になったけど…と、俺は戦力を増やすには結構な回数が必要な事も告げる。



「…す、凄い発見ではありますが…そこまでするのにゴブリンの魔石一つ分が必要になるのはちょっと…コストが重いかもしれませんね…」


「うん。そもそもそんなに増えたところで、っていうね」



お姉さんの驚きながらも微妙な感じでの呟きに俺が同意すると…



「…ん?…よく考えたら…魔力平均値の坊ちゃんが128人もいれば、それはもはや国一つ簡単に落とせるレベルの戦力じゃないですか?それがゴブリンの魔石一つで済む、というのは安上がりっていうレベルの話じゃないような…」



お姉さんは少し考えてなんとも言えないような顔で呟く。



「そうかな?ちなみに…他の人の分身を増やす時にも使えるよ。多分」


「…あ。そっか…!」



俺の補足説明にお姉さんは目から鱗…的な感じで呟いた。

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