壮年期 44

「…誰だ?」


「時間が無いので用件を手短に。現在構築中の最終防衛戦ではセリィア軍を止められず首都防衛戦になると予想します。なので今の内に陛下や要人達はヴェルヘルム方面の城砦に避難した方がよろしいかと、進言申し上げます」


「…なんだと…?」



部屋の中に居たおっさんは分身の俺を見て怪訝そうに尋ねるが分身の俺が無視して警告を告げると険しい顔になった。



「信じる信じない、迅速に行動に移す移さない等の判断は陛下にお任せせざるを得ません。とりあえず自分は警告や注意はしましたので、これで失礼します」


「待て。誰だお前は?」


「ラスタの貴族、クライン辺境伯を名乗る者です。貴重なお時間を奪ってしまい、申し訳ございませんでした」



分身の俺が事務的に話して退室しようとするとおっさんは引き留めて確認するように尋ね、分身の俺は軽く自己紹介した後に嫌味のような謝罪をして返事を聞く前にさっさと部屋から出る。



「ありがとう」


「…70秒。5分どころか一分と少しで終わったようだな」



退室してお礼を言うと数を数えていた兵が秒数を教えてくれた。



「待て!」


「陛下?いかがなさいましたか?」


「もしやこの者が何か無礼を…?」



おっさんが追いかけてくるように制止の言葉を言いながらドアを開けると兵の一人が不思議そうに尋ね、もう一人の兵は分身の俺を見ながら尋ねる。



「今の話はなんだ?なぜ、セリィアの軍がこの首都まで攻めて来ると?」


「…その話は少々お時間をいただく事になりますので、またお時間がある時にいたしましょう。手遅れになる前になるべく早く決断を下してくれると幸いです」



おっさんの確認に分身の俺は嫌味のように日を改める事と思わせ振りな事を返して会釈した。



「…分かった。時間を取ろう、入ってくれ」


「分かりました。国王陛下の心遣い、感謝申し上げます」



おっさんは目を瞑って数秒考えると部屋の中に招き入れ、分身の俺は社交辞令のようなお堅いお礼を言って再度部屋の中に入る。



「…ではもう一度申し上げます。あくまで私見ではありますが…最終防衛戦でセリィア軍に勝利する可能性は低く、首都防衛戦になると予想しています」


「…なぜそう言える?根拠はあるのだろうな?」



椅子に座ってさっきの発言を言い直すとおっさんは厳しい顔で問い詰めるように聞いてきた。



「はっきりとした明確な根拠は示せませんが…セリィア方面の防衛戦には自分達も援軍として赴きました。その時の状況は不利な形勢で徐々に劣勢になり、負けると予想した結果、実際に敗北しています」


「…なるほど。クライン辺境伯の噂はこちらにも届いているが…その手腕を持ってしてもどうにもならんか」



分身の俺の発言におっさんはテーブルの上で両手を組んで目を瞑って呟き、何故か分身の俺に責任を擦りつけるかのような事を言い始める。



「そうですね。兵をお貸しいただければどうとでも出来ましたが『アーデンにはアーデンのやり方がある』と言われたらいかに自分とて手出し出来ませんので…どうにもなりませんでした」


「…それは結果論に過ぎないのでは無いか?終わった後であればいかようにでも言えよう」



分身の俺がイラッときて嫌味を交えて反論するとおっさんは更にムカつく事を返してきた。



「…ヴェルヘルム方面での防衛戦の報告書はお読みになりましたか?」


「いや、まだだ。国境の外まで追い払ったという報告は聞いたが見ての通り忙しくてな、読む暇が無い」



分身の俺の確認におっさんは否定した後にテーブルの上に積まれている書類を指しながらため息を吐く。



「そうですか…話を戻しますと、首都防衛戦に移行しますと避難も難しくなります。なので今の内に国王陛下や要人達はヴェルヘルム方面の城砦に避難した方がよろしいかと」


「…馬鹿な。国王が真っ先に避難するなどありえぬ」



分身の俺はマジかよ…と思いつつも適当に流して再度提案するもおっさんは拒否する。



「では家族や要人達だけでも避難させた方がよろしいのでは?もし自分の予想が外れて最終防衛線で食い止められるようであれば、その時に呼び戻せば良いだけですし」


「…ふむ…ソレは一理ある。が、そう簡単にいく問題ではないのだ」



分身の俺が内容を少し修正して確認するとおっさんが少し考えて肯定的な反応をするも難色を示す。



「…分かりました。判断は国王陛下に委ねるしかありませんので…お時間いただきありがとうございます。では自分はこれで失礼します」


「クライン辺境伯、助言いただき感謝申し上げる。しかし直ぐに判断出来る問題ではないゆえ、決断までには少々時間がかかりそうだ」



俺にとってはどうせ他国の問題でどうなろうとも自国には一切関係無いので適当に話を切り上げて終わろうとすると…



おっさんが会釈するように頭を軽く下げてお礼の言葉を返し、言い訳するような感じの事を言い始めた。



「…手遅れにならない事を祈ります。では」



分身の俺はどうでも良いと思いつつも外面には出さずに当たり障りの無い事を返して退室する。

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