幼少期 4

…そして部位鍛錬と並行して投げ、絞め、極めの柔術の修行をする事、更に一年後。



7歳になった俺は今度は魔法を覚えるためにまたしても母親におねだりをして…



今度は魔法の適性が関係ない『変化魔法』の使い手である魔法使いを家庭教師として呼んでもらう事に。



…しかし柔道家の時と同じくマイナー過ぎて使い手がほとんど居ないらしく、今回も他国から呼ぶ事になり…



結局前と同じく一月も待った。






ーーーーーーーー






「いくぞ」


「おう!」



…街外れで部位鍛錬の修行を始めようと鉄の棒を持った男が合図を出すので俺は気合いを入れて返事する。



「…いったいなにを…?」



ガン!ガン!と、俺が男に鉄の棒で思いっきり叩かれていると40代後半から50代前半のおじいちゃ…おじさんがやってきた。



「ふんっ!ふんっ!…あっ」


「勝った!」



男が俺の顔面や頭や肩などを思いっきり叩いてると鉄の棒が折れ曲がるので、俺は勝ち誇りながら宣言する。



「痛てて…」


「ついにやりましたね坊ちゃん!こんな鉄の棒が折れ曲がるなんて…!」



俺が痛みを堪えながら呟くとお姉さんは興奮しながら駆け寄って来て回復魔法を使ってくれ、男から折れ曲がった鉄の棒を受け取った。



「まさか鉄の棒さえも耐え切るとは…部位鍛錬とは恐ろしいものだ…」


「ふっふっふ…この鋼鉄の身体にはもう木製の武器じゃ傷一つ付かないよ」


「…あの…」



男の驚きながらの呟きに俺がドヤ顔で返すとおじさんが困惑しながら再度声をかけてくる。



「あっ!もしかして新しい家庭教師?」


「はい。子爵夫人のシャサラ様よりリデック坊ちゃまに魔法を教えて欲しいと」


「坊ちゃん…本当に変化魔法を?適性が無い人でもみんな属性魔法や強化魔法を選びますよ…?」



俺が確認するとおじさんは肯定しながらココに来た理由を話すがお姉さんが小声で止めるように確認してきた。



「うん。俺は変化魔法に可能性を感じているんだ」


「可能性…ですか?」


「チーターのような脚力、ゴリラのような腕力、ゾウのような硬さ、ダチョウのような持久力…それが人間に備われば…きっと凄い事になる!だから魔物の強さを手に入れたい!」



俺の肯定にお姉さんが不思議そうに聞くので俺は想像と予想を交えた理由を答える。



「…えーっと?良く分かりませんが…『強くなれれば手段は問わない』という考えなら改めた方がよろしいですよ?」


「…私が言うのもなんですが…そのお嬢さんの言う通り、若さに任せるよりも良く考えた方がよろしいかと。特に変化魔法は魔物に変身する魔法なので周囲からの反応はよろしくありませんし」



お姉さんが不思議そうに反論するとおじさんも微妙な顔をしながら同意する。



「うーん…でももう決めた事だからなぁ…」


「まあ…坊ちゃんがそう言うんなら…」



俺の呟きにお姉さんが止めるのを諦めたように呟くと…



「若者は失敗して学び、育っていくもの…たとえ将来後悔する事になろうとも私は坊ちゃまを全力でサポートしていきましょう」


「ありがとう!これからよろしくね!」



おじさんはネガティブなのかポジティブなのかよく分からない事を言い出したのでとりあえず俺は挨拶して握手した。



「ではさっそく魔法の講義を…」


「あ、うん。コッチはコッチで他の修行しながら聞くから、気にしないで」



おじさんが本を取り出してさっそく授業を始めようとするので俺は地面にある小石を殴って割りながら事前に告げる。



「…分かりました。ではまず魔法に必要な魔素の事について話しましょう」


「あ、基礎知識ならアーシェから習ってる。魔素は空気中に含まれてて、人体に取り込まれる事で魔力に変わるんでしょ?」


「はい。その魔素を魔力に変換できる機能を持つ人が『魔力持ち』と呼ばれ、魔力を使い魔法を使用する事が出来る人を『魔法使い』と呼びます」



おじさんは魔法に関する知識の初歩の初歩…算数でいうところの1+1のような話をするので俺がそう返すと頷いて更に話を続けた。



「そして魔法を使う時は…」



おじさんは俺が部位鍛錬や男との修行をしながらのながら作業に一切触れずに何も無いかのように魔法の事を話してくれる。






ーーーーーー






「坊ちゃん。コレで最後です」


「あ、じゃあ今日は終わろうか。また明日お願いします」


「おや…そうですか。ではまた明日」



お姉さんが最後の回復魔法を使ってくれるので俺が今日の修行の終わりを告げると…



おじさんは本を閉じて会釈すると先に街の方へと戻って行った。



「…流石に変化魔法の使い手だけあって変わったお方ですね」


「そう?適応力が高い上に黙って仕事はこなしてくれるんだからとてもありがたいと思うけど」


「うむ…普通は専門知識を話してる最中に他の事に集中していたら怒りそうなものだがな…」



お姉さんの発言に俺がそう返すと男はお姉さんに同意するように言う。




…翌日。




「…つまり変化魔法とは全身を魔物へと変化させる事によって強化魔法のような…」


「あ、質問いいですか?」


「…はい。どうぞ」



おじさんが昨日に引き続いて魔法の基礎知識を話してくれるので、俺はその話を聞いて疑問に思った事を聞こうとすると驚いたような顔をして許可を出す。



「俺も少し変化魔法については調べてますけど…身体の一部だけを変化させるって事は出来ますか?」


「身体の一部だけ?腕や脚といった部位だけを、という意味ですか?」


「はい」


「…普通の使い手ならば難しいでしょう。私のように変化魔法のみを習得し研鑽している使い手なら出来ない事もないですが」



俺の質問におじさんは意味を確認してくるので俺が肯定すると考えながら答えてくれた。



「ですが一部だけを変化させるメリットがあまり思いつきませんね。精密な魔力操作が必要で、難易度が高い割に必要な場面がほとんどありませんし」


「そうなんですか?」


「ええ。確かに一部変化の方が魔力の消費は抑えられますが…腕だけを変化させても攻撃が当たらなければ意味がありません」


「…確かにそうですね」


「それに脚だけ変化させても攻撃力が無ければジリ貧でしょう?結局最初から全身変化の方があらゆる局面に対応出来る分、効率的なのです」



おじさんの否定的な意見に俺が確認するとメリットの部分とデメリットの部分を分かりやすく教えてくれた。



「ですが。坊っちゃまがもし部分変化を試したいというのであれば、今の内に魔力の精密操作法をお教えしましょうか?」


「お願いします!」


「ああ…また坊ちゃんの修行内容が増えていく…」



おじさんがありがたい申し出をしてくれるので俺がすぐに受けるとお姉さんは心配したように呟く。

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