青年期 303

「…次で最下層かぁ…なんか思ったよりも全然早い」


「そうだな。ダンジョンに入ったのが大体11時前だったから…今で4、5時間か?」


「うわ、単純計算でもワンフロア30分ぐらいの計算じゃん。めちゃくちゃ早い」



第九階層に降りると女の子が時計を見て意外そうに言い、分身の俺が肯定して経過時間を告げると女の子は驚いたような反応をする。



「ショートカット使わずに普通に進んでのコレはかなりのハイペースだな」


「ソッチでもそうなの?私が足引っ張ってて遅い方かと思って若干気にしてたのに」


「いや俺の戦い方見てたらいつもどんなペースかぐらい分かるだろ。急いでる時なら確かに4時間ぐらいでは往復できるけどよ」


「あー……ごめん」



分身の俺がもう一度肯定すると女の子は意外そうに不安を口にするのでツッコむように返すと少し考えて謝った。



「でもいつもはどのくらいのペースなの?」


「朝入って夕方前に出るぐらいだから…8時間前後、ってトコだな」


「えー、それでも早い。私なんて最下層まで行くと基本的に半日ぐらいかかるよ」



女の子の好奇心からの問いに分身の俺が大まかに話すと軽く驚いたように自分の例を挙げる。



「帰りはあんまり魔物と遭遇しないし」


「私も無視して戻ってるけど」


「ソッチは弾を節約してるからじゃね?全部使い切ってやるぜ!ぐらいの勢いでだったらもっと早くなると思うぞ」


「あ、それはあるかも」



分身の俺が早く戻れる理由を話すと女の子も同じ事を言い、時間に差が出てる理由を予想して想定を告げると女の子は肯定するように返す。



「でもまあ問題はソレで割に合うか…だな。いくらタイムイズマネーって言っても時間よりも弾薬の金の方が上回る可能性だってあるわけだし」


「確かに」



分身の俺は自分の前言を否定するかのように言うと女の子も同意した。



「ってかよく考えたらあなたほぼソロの状態でその時間なの?」


「まあ。一応いつも同行者は居るが、ヒーラーで保険の意味合いが強くて戦闘にはほとんど参加する機会が無いからソロとあんま変わらん」


「うへー…流石はマスタークラス、すっげー」



女の子の確認に肯定して返すと女の子は単に褒めてるだけなのか馬鹿にしてるのかそれとも弄ってるのか判断に困る言い方をする。



「ソッチもライフル弾をガトリングで連発できるようになればマスタークラスに上がれるんじゃね?」


「…もしかしてそのライフル弾ってこの50口径の事を指してる?」


「当たり前じゃん。じゃなけりゃそのアサルトライフルで事足りるだろ」


「…はぁ…」



分身の俺が適当な感じで言うと女の子は対戦車ライフルの長い弾を取り出して見せながら確認してくるので、肯定すると女の子が呆れたようにため息を吐く。



「確かに威力の面ではマスタークラスに匹敵するだろうけど…有効射程距離が短くなるし隙も大きいし命中率も低くなる。なにより弾薬を用意するのにえらい金がかかって継戦能力が死ぬよ」


「その短所をなんとかすればマスタークラスになれるぞ」


「無理じゃん」



女の子は否定的に問題点を羅列して話し、分身の俺が楽観的に返すとキッパリと断言した。



「ってかそう考えたらマスタークラスって戦車や戦闘機に並ぶ火力を持つ人達って事になるよね?…これは人間辞めてますわ」


「細かい事だが弾薬とかの代わりに魔力だし、継戦能力も高いだろうからコスパの面では近代兵器でも足元にも及ばんと思うぞ。まあ実際戦争したらいくらマスタークラスとはいえ、アッチの世界の物量作戦には勝てんだろうけど」



女の子のふと思いついてのヒいたような反応に分身の俺は訂正を入れるように戦車や戦闘機よりも優れている面を説明し、自分を除いた条件での仮定の話をした。



「いやもしかしてソレ、アメリカやソ連を想定して言ってる?」


「おう。大英帝国や大日本帝国が相手ならまあなんとか勝てるだろうし」


「いやいや…帝国時代の日本でも結構色んな土地を奪うぐらいには強かったんだけど…そもそも個人で大国相手に戦争とかありえない。頭おかし過ぎるでしょ」



女の子がツッコミを入れるように確認し、分身の俺は肯定しながらギリギリ大国の枠に入れなかった国を挙げると女の子は呆れたように返す。



「普通はそうならないだろうな。個人が大々的に国に宣戦布告しない限りは」


「ってか日本やイギリスが帝国だった時代に勝てる?あなた以外のマスタークラスが」


「物量以外でマスタークラスに勝てる要素が無いから勝てると思う。特に日本は土地が狭いから民間人を巻き込まずに爆撃なんて難しいだろ」


「…確かに」



分身の俺の適当な発言に女の子は俺を例外にして尋ね、状況を想定しながら話すと女の子が納得する。



「しかも上陸されたら倉庫とか狙われてどんどん物資が減っていくだろうから短期決戦で終わらせないといけないのに『たった一人の兵士を相手に国の全戦力を注ぎ込むだって?お前疲れてるから病院に行った方がいいよ』で、手遅れになる」


「うわー…ありそー…しかもソ連やアメリカならそうなってもなんとか物量で巻き返せそうだけど、日本だとなぁ…」


「多分大英帝国も大日本帝国も本腰を入れる頃にはお偉いさん達は本土から植民地に避難してソコの資源で巻き返そうとするだろうが…そうなったらもはや負けと一緒だし、勝ち目無くね?」


「確かに」



分身の俺が更に予想を続けると女の子は肯定的に呟いた後に同意するように返した。

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