青年期 233

…それから帝国の軍勢に夜襲や兵站線切りをくらいながらも、被害を最小限に押さえながら町や村を撤退し続けて時間稼ぎをする事、二週間後。



「…とうとう最終防衛線まで押し込まれましたね」


「仕方ない。でもまだ死者はゼロなんだからこれからだよ」



まだ機会があればだけど。と、分身のお姉さんのなんともいえない顔で現状を嘆くような呟きに分身の俺は適当な感じで返した。



「…ココを突破されたら本当にもう後が無いよ?首都防衛戦になっちまうけど…本当に大丈夫なのかい?」


「ははは。こんな追い詰められた状況からこそ逆転勝利するのがいつもの俺らでしょ」


「それもそうですね。坊ちゃんの戦いはいつも追い詰められた状態から始まりますし」



分身の女性の確認に分身の俺が余裕の態度で笑って返すと分身のお姉さんも笑って背水の陣的な事を言い出す。



「…クライン大魔導師様。代表者がお呼びです」


「あ、はい。分かりました」


「あちゃー…やっぱ呼び出し食らっちゃったかぁ…」


「しょうがないよ。あたしら帝国軍とまともに戦わずに逃げ続けてるだけなんだから」



…魔法協会所属の魔法使いが分身のお姉さんに用件を伝え、分身の俺が顔に手を当てながら呟くと分身の女性は当然といったように告げる。



「まあ想定内の予想通りだけど…じゃあ行こうか」


「うん」


「お願いします」



流石に最終防衛線といっても分身の俺らが今居る場所から首都までは最低でも一日以上かかる距離なので…



分身の俺は変化魔法を使ってドラゴンに変身し、分身のお姉さんだけじゃなく分身の女性も加えた三人で少女の所に向かう事にした。



…そして15分後。



首都に着いたので変化魔法の極技その2で三人ともスライム化して地面に着地する。





ーーーー





「…クライン大魔導師様をお連れしました」


「…えっ!?…わ、分かりました。どうぞ」


「では私はこれで…」



案内役の女が部屋のドアをノックして用件を告げると中から驚いたような声が聞こえた後に入室の許可が下り、案内役の女は頭を下げて去って行く。



「…こほん。クライン大魔導師、お呼びした理由はご存知ですね?」


「…はい」



少女は咳払いした後に分身のお姉さんに確認するように尋ね、分身のお姉さんは気まずそうな顔で返事した。



「今回の件は全て俺が指揮した事なので、結果による責任は俺にあります。そこのところ勘違いなきよう」


「そうですか。ですがクライン大魔導師にも軍を統べる『総司令官』という立場としての責任というものがあります」


「…はい」



分身の俺がそう伝えると少女は頷きながらも分身のお姉さんに厳しい事を告げる。



「あなた方には全幅の信頼と期待を寄せていたのですが…結果が伴わない以上、私にも魔法協会を守るため『代表者』としての判断を下さねばなりません」


「結果で判断して語るのはまだ早いと思うよ?今はまだ過程の段階だし」



少女のため息を吐きながらの説明するような発言に分身の俺は反論するように返す。



「それは…どういう事ですか?」


「『結果良ければ全て良し』というわけではないけど、これからようやく戦いが始まる…って事」


「??何を…?」



少女が意図を図りかねるかのような反応をしながら尋ねるので分身の俺が意味深な事を言うと少女は困惑しながら不思議そうに呟いた。



「まあまだ時間はあるし…順を追って説明していこうか。先生やお姉さんにも教えてないし」


「「え?」」



最終防衛線まで敵が攻めて来るのにまだ後二日ぐらいかかるだろう…と、予想して分身の俺が分身のお姉さんや女性を見ながら言うと二人は不思議そうな顔をする。



「…コレ。今帝国側の兵士が使ってる銃…『鉄砲』っていう武器なんだけど…」


「あ、へー!こんな形だったんですね!」


「…なるほど…確かに筒状で吹き矢に近い形だね」


「鉄砲…」



分身の俺が空間魔法の施されたポーチから火縄銃に近い形状の銃を取り出してテーブルの上に置くと…



分身のお姉さんは意外そうに驚き、分身の女性は分身の俺から聞いた説明を思い出すように納得して少女が不思議そうに呟いた。



「コレは構造的に『火縄銃』というより『マスケット銃』に近い感じがするが…まあソコは置いとこう、俺も詳しくは分からないし。で、本題はこの武器の有用性についてだ」


「武器の有用性…ですか?」


「そう。この鉄砲は威力…殺傷能力が高く、そしてここの引き金を引く事で誰でも簡単に弾を発射する事が出来る。つまり訓練も無しに女子供でも扱えるという悪魔の武器でね」


「なんだって…!?」


「そんな事が…!?」



分身の俺の銃を触ってパーツを指差しながら、前世の記憶の知識による説明をすると分身の女性と少女が驚愕する。



「ちなみにそこら辺の安い鎧じゃ防げないほどの威力がある」


「…そうか、だから…」


「『銃』ってのは火薬の力を使って高速で弾を発射する武器で、その火薬ってのは油とは違うからそう簡単に手に入るものでも作れるものでもないはずなんだよ。本当は」



分身の俺が例えを出して説明すると分身の女性が納得したように呟き、分身の俺は解説のような説明を続けた。



「…坊ちゃんその武器について詳しいんですね」


「まあ知識がある、っていう程度でしかないけど。理屈や理論とか…構造を多少知っててもソレで製造出来るようになるわけじゃないし、火薬とかも必要になるから量産や実用性を持たせるにはかなり難易度が高くてね…」



分身のお姉さんの意外そうな発言に分身の俺は知識だけじゃ意味は無い…的な事を返す。

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