青年期 84

「…っ!?マジで!?」



変化させた右腕で魔物の心臓狙って貫手を放つも一切刺さらず、かすり傷一つ付けられずに手首が折れる。



「いやいやいや…マジか…先生、お願い」


「はい」



俺は驚きながら呟いて一旦分身のお姉さんの所まで下がり、折れた手首を見せて回復してもらった。



「…この状態でミリも刺さらないどころか線一つ付けられないって初めてだ…」


「…逃げます?」


「もうちょいやらせて」


「分かりました」



俺が変化させた右手を見ながら呟くと分身のお姉さんは撤退を提案するが、俺は拒否してまた魔物に近づく。



「…パワーが足りないのか…?マジで厄災の龍に匹敵するわ……ふー…」



そして俺はある程度の距離を保って止まり、目を瞑って集中するように深呼吸する。



「…っせいっ!!」


「オオオォ…!」



一瞬で魔物の懐に入り、俺はミノタウロスの腕力で魔物の脚を払う。



それから変化させてる脚を震脚のように地面に思いっきり打ち付け、倒れてくる巨体の心臓めがけて正拳突きのように全力で貫手を放つ。



「…う、嘘だろ…」



が、全然全く手応えは感じず…一ミリも刺さったような感覚も無い。



魔物はほんの少し押されたように倒れただけだった。



「…決まればあの厄災の龍でさえ魔石が取れる心臓抜きを完璧に決めたのにダメージゼロって……もう物理攻撃無効じゃん…」



ゆっくりとした動作で立ち上がる魔物を見ながら俺は変化魔法を解除して呆然としながら呟く。



「…いや、強化魔法と強歌弱歌を併用すれば…あるいは…でも今は魔力が足りねぇ…」


「オオォ…」



俺が気を取り直して最終手段を思いつくも今は実現できそうに無いので残念に思いながら呟くと魔物がその場で斜めに腕を振りかぶる。



「そんな距離からの攻撃が当たるわけが…っ…!」



明らかに攻撃が届かないであろう範囲外の離れた場所で攻撃動作に入る魔物に俺が不思議そうに呟くと、腕を振りかぶって拳を飛ばして来た。



「…ぶねぇ…遠距離攻撃まであんのかよ…」



結構な速さのロケットパンチをしゃがんで避けると後ろの壁にめり込む。



「坊ちゃん!後ろです!」


「…後ろ?…げ」



分身のお姉さんの声かけに後ろを振り向くと壁にめり込んだはずの魔物の身体の一部がまるで磁力で本体の魔物に戻るかのように転がってくる。



「…あ。無理だ」



魔物の身体から離れたからいけるかと思って殴るも硬さはそのままで、しかも重さも相当なものなので俺が妨害しようと押すも動きを止められずに強引に引き摺られて行ってしまう。



「…坊ちゃん、もう逃げません?魔力もそろそろ残り少ないのでは?やっぱり今の状態で未討伐の魔物を倒すのは難しいと思いますよ」


「…そうだね。一か八か…最後の攻撃で賭けに出てみるよ」


「…分かりました。応援してます」



分身のお姉さんが駆け寄って来て戦略的撤退…逃走を促してくるので俺は賛同しつつもまだ試してない攻撃を試す事に。



「…コレは、どうか…頼むぞ…!」



俺は祈るように呟いてスタスタと普通に魔物に近づく。



「オオオォ…!」


「…さて、どうか…」


「オ、オ、オォ…!」


「…よしっ。賭けに勝った!」



そして腕を黒色のスライム化に変化させてジャンプし、貫手で魔物の身体を溶かしながら心臓に到達したと同時に即座に解除してミノタウロスの腕力に変えて心臓を抜き取った。



「う、うそ…!?」


「…問題はここからだな。次のこの賭けに勝てるかどうか…」



ガラガラドッシャーン!と大きな音を立てて崩れ落ちたゴーレムを見て分身のお姉さんが信じられないかのように口元に手を当てて呟き…



俺は手に持っている魔石が残るのか消えるのかを考えて見ながら呟く。



「…お、重い…!」



すると分身のお姉さんがアダマンタイトっぽい鉱物だか金属だかの魔物素材の回収に苦戦していたので…



「…尋常じゃない硬さなだけあって重さも相当なものだね…金よりもだいぶ重いんじゃない?」



魔石がどうなるかを見守ってる間に俺も魔物素材を回収しながらその重量を予想する。



「…せっかく魔物素材をこんなにいっぱい落としてもこんなに重いんじゃポーチに入れるのも一苦労ですよ」


「そんな重い物でもポーチの中に入れば重さを感じないってんだから空間魔法の凄さを実感するよ」


「ホントですね」



拳大の物を回収しながらため息を吐く分身のお姉さんに俺がミノタウロスの腕力で大きい物を回収しながら返すと分身のお姉さんは笑って同意した。




ーー




「…やった!賭けに勝った!やっほーい!!」


「どうしたんですか?」



魔物素材を全て回収し終わっても俺の右手には魔石が残ったままだったので俺が喜んでガッツポーズすると分身のお姉さんが不思議そうに尋ねてくる。



「どうやら魔石抜きに成功したみたい。溶かしながらの心臓抜きは解除や切り替えのタイミング次第で残るか消えるか変わるから、残すには運が絡むんだよなぁ~」


「ええっ!?じゃあその魔石は…!!」



俺の説明に分身のお姉さんは驚愕して真っ黒の小型の水槽みたいな長方形の魔石を凝視しながら顔を寄せてきた。



「…ただ、やっぱりコレ超重い。多分200キロぐらいあると思う…変化魔法解除したらこんな風には持てないし」


「あ、じゃあいいです…」



いつものように受け取ろうと両手を伸ばした分身のお姉さんに注意しながら説明すると遠慮しながら両手を引っ込める。



「…はー…じゃあ帰ろうか。流石にそろそろ魔力が尽きそうだ」


「…珍しい。坊ちゃんの魔力がカツカツになるのって何年振りですか?10年?」


「いや、流石に5、6年振りぐらいじゃない?」



俺が空間魔法の施されたポーチに魔石をしまいながら帰還を促すと分身のお姉さんが意外そうに聞くので俺は訂正するように返す。

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