青年期 188
…次の一騎打ちが始まる前に敵陣の方から二人の兵が来て、倒れている敵兵を回収して行くのを待つ。
「…あー…そっか。俺らが回収しとけば前みたいに捕虜として身代金が取れたのに…残念」
「…ならば万が一俺に勝つ事が出来れば捕虜になってやる」
「お、ほんと?でも俺は負けても捕虜にはならないよ」
「ふっ…貴様の負けは死と同義よ。奇跡的に生き残る事が出来たのなら見逃してやる」
分身の俺がふと思いついて悔しがりながら言うと敵兵は余裕の発言をし、分身の俺の確認と拒否に笑って格上の余裕を見せつけるかのように返してくる。
「いやー、ありがたい」
「…来い」
分身の俺が馬鹿にするような含みを持たせた感謝の言葉を告げると敵兵は剣を構えて先手を譲るように開始の合図をした。
「…じゃあ遠慮なく」
分身の俺は普通にスタスタ歩いて距離を詰めながら薙刀のような槍を斜め後ろに振り上げ、敵兵の目の前で思いっきり振り下ろす…
「っ…!」
瞬間に握る力を弱めて持ち手を短くして突くと敵兵は驚きながらも飛び退くように避けるが、槍の長さを活かして範囲を伸ばすように握りを甘くすると敵兵に当たる。
が、鎧を着けているので多少当たった程度ではダメージを与えられなかった。
「…はっ!」
「…槍術はやりにくいな…刃があると打撃じゃなくなるから鎧通しとか難しいし…」
敵兵は直ぐに前に飛ぶように距離を詰めて剣を振るってきて、分身の俺は槍の刃で打ち合うようにガードしながら愚痴を呟く。
「ふっ!もらっ…」
「あ」
「ぐっ…!」
敵兵が強い力で槍を横に大きく弾き、素早く上段に構えて一刀両断しようとするが分身の俺は弾かれた勢いを利用して槍をクルッと回して敵兵の側頭部を叩く。
…いつもの鉄の棒ならば今ので発勁や鎧通しの応用で脳に衝撃を与えて倒せたが…使い慣れない槍ではただの打撃になってしまい、敵兵はよろめいただけだった。
「よっ、と!」
「くっ…!」
分身の俺はとりあえず一発蹴りを入れて軽く吹っ飛ばした後に素早く追うように距離を詰める。
「せいっ!」
「ちっ!」
「もらった!」
敵兵が転がったにも関わらず分身の俺が振り下ろした槍を体勢不十分なまま…地面に膝を着いたまま剣で受けるようにガードし、分身の俺はそのまま体重をかけて押し倒す。
「かっ…!」
そしてさっきの時と同じく敵兵の首を絞めて落とした。
「…ふう…この勝負も俺の勝ちだ!」
分身の俺が一息吐いて青龍刀のような剣を拾って薙刀のような槍と一緒に両手で掲げるように上げながら勝利を宣言すると敵陣がざわつく。
「んじゃ、今日中に撤退よろしく」
分身の俺は空間魔法の施されたポーチを持っていないので、戦利品として勝ち取った剣と槍を倒れた敵兵の隣に投げて敵陣に向かって指示を出す。
「流石だな。敵の技量も中々のものだったが…やはりゼルハイト卿には及ばんか」
「ありがとうございます。武器を使った技量は高くても強化魔法の練度が今ひとつ…でした。同格や格下相手なら安定して勝てそうですが…不安定でも爆発力が無いと格上には食い下がる事しか出来ないと思います」
…砦に戻ると青年が出迎えてくれ、嬉しそうに褒めてくるので分身の俺はお礼を言って戦った感想と相手の評価を告げる。
「ふっ…変化魔法を使うまでも無い相手…という事か」
「いえ、自分は基本的に一騎打ちで魔法を使う事はありません。使わなくても勝てますので」
「ほお?そうなのか?」
「はい。本職に比べたら稚拙な強化魔法といえ、使えば相手を殺してしまう可能性が高くなるので…実力が拮抗してて気にしてる余裕が無い時ぐらいだと思います。使う時がくるとすれば」
「なるほど…」
青年の勘違いするような発言に分身の俺が否定すると意外そうな顔で聞き、強化魔法すら使わない理由を話すと納得したように呟く。
「…ん?『強化魔法』?『変化魔法』ではなくてか?」
「はい。俺が変化魔法を人相手に使うと瞬殺してしまうので戦いにすらなりません」
「…ははは!流石はマスタークラスのハンターだ!強さの底が見えんな!」
青年がふと気づいたように指摘し、分身の俺は肯定して返すと青年は一瞬ポカンとした後に声を上げて笑う。
「…しかしそうなるとゼルハイト卿が変化魔法とやらを使用する状況になる場合…そして使用したら一体どうなるのか…興味が湧いてくる」
「…そうですね…南の国境、侯爵の所のソバルツとの防衛戦の…詳細の方はご存知ですか?」
「ああ。国境で戦いが起きた場合には他の伯爵や侯爵、辺境伯と連絡を回しているので委細承知している」
ニヤリと笑った青年に分身の俺が少し考えて確認を取ると肯定して軽く説明してくれる。
「ソバルツから馬を大量に敵から奪ったのは変化魔法の技術によるものです」
「…は…?」
「一騎打ちで使う事はありませんが、戦争や集団戦となれば話は別でして…こちらの被害を最小限に抑えるためにはなるべく合理的な手段を取るようにしています」
なので分身の俺がぶっちゃけるように告げると青年は理解出来ないような感じで返し、分身の俺はそう説明するように話した。
「…な、なるほど…?」
「ですがこの前のドードルとの戦いでは使ってません。使う場面が無かったので」
「…そ、そうか」
青年が困惑しながら呟くので疑問を聞かれる前に先に嘘を教えると青年は困惑した反応のまま答える。
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