青年期 283

…その三日後。



なにやらライツの騎士団が国境付近に来ていて俺に面会を求めてる…という内容の手紙が届いたので俺は分身を行かせる事に。





ーーーーー





「やーやー、俺に何の用?」


「お初お目にかかりますクライン辺境伯殿。私は第一王子の使いで参りました、ヴァントー家の嫡男『ミハエル・ヴァントー』と申します」



国境を守る兵が一人の青年を連れて来るので分身の俺が用件を問うと青年は会釈しながら自己紹介を始める。



「はいはいよろしく」


「我が国の王女であるナサリィ姫をお返し下さい。もちろんタダでとは言いません」



分身の俺が適当に流すように返すと青年は用件を告げて取引するような事を言い出す。



「そもそもの話、返すも何も本当にウチに居るの?一応この前政府からの指示があってからずっと領内を探させてるけど、未だに発見の報告は無いよ?」


「ラスタに居るはずです」


「『はず』じゃ困るんだよね、『はず』じゃ」



分身の俺のシラを切りながらの確認に青年は不確定な言い方を断言するようにキッパリと言い切り、分身の俺は揚げ足を取るように指摘した。



「今ねぇ、ライツがどう思われてるか知ってる?」


「…いえ」


「『自国に王女を軟禁か監禁してラスタに執拗に難癖を付けてきてる』…って抗議の声を上げる貴族も出てきてるぐらいに印象悪くなってるよ?」


「そんな事は…!」



分身の俺が呆れたように聞くと青年は首を振って否定し…



侯爵であるおっさんの言葉を例に挙げて情報操作するように話すと青年が驚きながら否定するような反応をする。



「コッチとしてもウチにその王女が居るっていう証拠を出して欲しいわけ。もしかしたらラスタに来る振りをして別の国に行ってたり、逆にライツに戻って国民に匿って貰ってる可能性もあるわけじゃん?」


「…それは…」



分身の俺の責めるような追及に青年は困ったように言い淀む。



「それにライツの一般人女性が王女に憧れて髪型とかを真似て外見を似せてたりした場合はどうやって本人かどうか判別するの?そっくりさんを見かける度にライツに引き渡すなんて領民からしたら生贄や女を貢いでるように思えるだろうし、ソレで俺の印象が悪くなったらライツがどう責任を取るつもり?」


「それは…」



分身の俺はここぞとばかりに念の為に保険をかけながら口八丁で青年を言い包めるように責め立て、面倒でややこしい責任問題にまで発展させた。



「まああんたに言ってもしょうがない事だけど…ちゃんと上の方に伝えてよ?『証拠を示せ』って。一応こっちも探索を続けさせて発見したら直ぐに知らせるから」


「分かりました。お手数をかけて申し訳ございませんでした」



分身の俺が緩急をつけてトーンダウンし、妥協するように見せかけて嘘を吐くと青年は了承して謝罪した。




…その翌朝。




「…ああ、ちょうど良かった。今さっきマーリン様が来たんだって」


「お。意外と早かったな」


「本当ですね」



朝の鍛錬を終えて修行場所から本部に戻ってると途中で女性がやって来てそう報告してくる。



「とりあえず迎えに行くか」


「はい」


「本部の方で待ってた方が入れ違いにならずに済むんじゃないかい?」



俺が出迎えに行く事を告げると姉さんが賛同してついてこようとするも女性は止めるように提案した。



「…それもそうか。多分徒歩じゃなくて馬車かも知れないし」


「普通に馬車じゃないですか?この前もそうでしたし」


「まあ荷物もあるだろうし馬車だと思うよ」



俺は女性の提案を受け入れながら予想するとお姉さんと女性が肯定するように返す。




「…ん?」


「あ」


「…先に着いてたみたいだね」



俺らが本部に戻っていると既に前に馬車が停まっていて、少女が建物の入口で俺らを待つように立っている。



「やー、ごめん。待った?」


「いえ、今来たばかりです」



俺の軽い感じでの手を上げながらの待ち合わせの常套句のような挨拶に少女は笑顔で否定の常套句を返した。



「すみません。お待たせしてしまって…」


「まさかこんな早く着くなんて…」


「構いません。ゼルハイト様、この度は許可をいただき心より感謝申し上げます。これからどうぞよろしくお願いいたします」



お姉さんと女性が言い訳のように言うと少女は流した後に俺に深く頭を下げながらお礼を言って挨拶をする。



「ああ、うん。送迎と食事の件でしょ?ソッチは基本的には忙しいだろうから昼と夜は先生に持って行ってもらうし、もし暇や時間がある時はコッチに来れば一緒に食べられるよ」


「ありがとうございます。食事代の方は送迎の料金と合わせて毎月一括で払わせてもらいます」



俺が確認すると少女はもう一度頭を下げた後に金の話をした。



「あと朝は食べないんだよね?」


「はい。朝は果物と飲み物だけで十分ですので」


「昼もあまり重い…ガッツリした感じじゃない方が良い?」


「…できれば。サンドイッチのように軽くつまめる料理ですとありがたいです」



念の為に食事の提供について確認すると少女は肯定しながら要望を告げる。



「オッケー。あと治安や安全面の事だけど…警備とかは心配要らないよ、俺ら凄腕のハンターの集まりだし」


「あたしも居るからね」


「もし怪我をしても私が治せますし」


「ゼルハイト様の実力や『猟兵隊』の事は存じております。ですので私としましてはこの拠点の方が協会本部や総本山よりも安全性が高い…と考えていまして、最初から心配はしておりません」



俺が了承して万が一の事態を想定して話すと女性やお姉さんも自信満々に同意し、少女は笑いながら社交辞令のような冗談を言うように返す。

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