青年期 358

「…おおっ?ぐっ…!!」



分身の俺の足下から凍り始め、急いでその場を離れようとすると女が背後に回って背中を殴る。



するとさっきのように衝撃波が身体を突き抜けるような感覚と共に殴られた部分がパキパキ…と凍り出す。



「そらっ!そらっ!」


「ぐっ…!!」



足下が凍って動けないので分身の俺はその場から離れて逃げる事も出来ずにサンドバッグのごとく女に殴られた。



「くっ…!」


「…普通なら一度殴られた時点で死んでるし、二度殴られた時点では全身凍ってるはずなのに…」



三度目の打撃で足下の氷が少し割れたので分身の俺が上半身を屈めて四つん這いになりながら急いでその場を離れると、女は後ろから追って来ながら背中の一部しか凍ってない様子を見て呟く。



「でも逃がさない」


「おっと…っと」



右足が凍りそうになったので地面から慌てて離すと今度は左手が着いてる部分が凍りそうになり、仰け反るように地面から手を離す。



「あっはっは!踊れ踊れ!」


「…くっ…この冷気の中じゃアッチの独壇場だ」



女が楽しそうに笑って分身の俺の足を凍らせて動きを止めようとするのをなんとか避けながらどうしたもんか…と対策を考える。



「かかった!」


「ん?…げっ!」



…どうやら地面を見ながら逃げていたので逃げ道さえも女に誘導されていたようで…



女の声に分身の俺が周りを見るとさっき女が出したゴーレムの石像に囲まれていた。



「…動くのかよ!!なんで!?どうやって!?」



とはいえどうせただの石像だろう…と思っていると急にゴーレムが動き出し、分身の俺は驚愕しながらツッコミを入れるように叫ぶ。



「いやいやいや、おかしいだろ。もしかしてゴーレムとかに並行変化してる?いや、それでもゴーレムに土を操る能力なんて無かったハズだが…」



分身の俺はゴーレムの攻撃を避けながらおそらく自律してるであろう行動を見て方法を考えて予想を呟く。



「…そもそも操ってる様子が無い。アレでゴーレムを操ってるんならとんでもない技術だしなぁ…」



分身の俺が足下が凍るのとゴーレムの攻撃を同時に避けながら女を見て予想の一つを減らしつつも可能性としては捨て切れない感じで呟くと…



「ふふふ…どう?自分が納品した魔石に苦しめられる気分は?」


「魔石…マジか!」



女は得意気に笑って何故かネタバレしてくれ、分身の俺はどんな方法か思い至る事が出来た。



「そんな事も出来るのか!…いや、確かにそうだ。考えつかなかっただけで可能ではあるわ…」



『魔石を核にして変化魔法を使って魔物を生み出す』という、俺の持つ『魔物を別の魔物に変化させる』技と似かよった技術に分身の俺は感動しながら呟く。



…そのせいで足が止まり、凍りついて動けなくなったところにゴーレム5体の一斉攻撃を食らってしまったが。



「素晴らしい…そんな技術もあったなんて…いやー、引き出しを開けさせた甲斐があったというもんだ」


「…当たり前だけど、やっぱりゴーレムの攻撃ごときでは一切ダメージを負わないのね…」



分身の俺はゴーレムに殴られながらもダメージはゼロなのでガードすらせずに喜ぶとその様子を見た女が微妙な顔をする。



「まあでも良い足止めにはなったか」


「…お」



女が分身の俺に手を向けると5体のゴーレムの体が崩れ、5個の魔石が光ると分身の俺の周りが球体のように氷結した。



「…流石に今のはヤバかったな…」


「…原子ごと凍結させたはずなのに…こうも簡単に破られるなんて…」



分身の俺は完全に凍結する前に変化魔法を使い、ミノタウロスの力で無理やり中から球体の氷を割って焦りながら呟くと女が驚いたように呟いて指をさす。



「おっ。無駄だよ」


「そうかな?」



すると分身の俺の全身が凍りつき、変化魔法を使ったまま力づくで割って煽ると女は煽り返すようにニヤリと笑う。



「…あ?」


「ただ動きを止めてるだけだと思った?甘い」



ピシピシ…と分身の俺の右腕の肘の方に亀裂が入ると肘から下が地面に落ち、女が一気に距離を詰めて殴りかかってくる。



「…なるほど」



いつものように避けようとするも身体の内側が徐々に凍りつき始めているらしく…



どうにも動きが鈍くなり、女の打撃を一回避ける度に下半身からピシッ…というヒビだか亀裂だかが入る音が聞こえてきた。



「ここまでやってもまだ完全に凍りつかないとは…まあそれも時間の問題か」


「それもどうかな?」



女が意外そうに呟きながらも得意気な顔をするので分身の俺は煽るように返す。



「…よっと」



分身の俺は変化魔法を使って身体の内側をスライム化してヒビや亀裂を補修するように治し、右腕を拾ってくっ付ける。



「…なるほど。もう対処したのか…」


「いやー、あそこで大技を使われてたら危なかったね」



女が分身の俺の様子を見て警戒したように距離を取って呟くので分身の俺は余裕の態度を見せながら言う。



「ふっ…ふふふ…『あそこで大技を使われていたら』?魔石は何個あった?その内で使われたのは何個だったと思う?」


「…まさか…光ったのはブラフだったのか…どうりで魔石を使ったにしてはちゃっちい技だと思ったら…」



女は笑った後に分身の俺の言葉を引用するように聞き、分身の俺は手遅れだと察して諦めたように呟いた。



「絶対零度の中で眠りなさい。永遠の眠りに、ね…」



女が決め台詞のように言うと分身の俺の足下からサラサラ…と崩れるように冷気に流されていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る