青年期 299
「…うまうま」
女の子は自作のサンドイッチを食べながら分身の俺が魔物の攻撃を受けてる様子を観戦する。
「…ん?あ。後ろ」
「…げ」
分身の俺が魔物の気配を感じてふと後ろを向くと女の子の後ろの方に別の魔物が居たので指をさして報告すると…
女の子は三つめのサンドイッチを咥えたまま素早く回避行動のように半回転しながら振り向いて嫌そうな顔をした。
「…よっと」
「…シカみたいな魔物って事は…アラジカだっけ?初めて見た…むぐ」
分身の俺が魔物を心臓抜きで倒して魔石を含む魔物素材を回収すると女の子は別の魔物を見ながら呟き、サンドイッチを口の中に詰め込んで猟銃を構える。
「…!?」
「おっと」
魔物はゆっくりと歩きながら近づいて来たかと思えば急加速して一瞬で距離を詰め…
女の子が発砲した銃弾を至近距離なのに軽やかな横ステップで鮮やかに避けた後に角で突き刺そうとするので、分身の俺は女の子の服の襟を掴んで後ろに引っ張って回避させた。
「…あ、ありがと…」
「武器の選択間違えたな。アラジカやカースホースはダチョウと同じく動きが素早いから最初に脚を狙って動きを止めとくべきだった」
女の子は口の中の物を飲み込んだ後にお礼を言い、分身の俺が魔物の相手をしながら笑って女の子の対応の失敗を指摘した後にアドバイスをする。
「そうなんだ…初見だったからつい…」
「初見だからこそ直ぐに一発で決めようとせずにもっと注意深く観察するべきだった。ベテランがよく陥る慣れからくるミスだな、俺もたまにある」
「面目ない…」
女の子の言い訳のような発言に分身の俺は後輩を指導するように注意し、フォローの言葉をかけると女の子は反省するように呟く。
「まあでもソッチはちゃんと防具を着けてるからアレをくらっても重傷まではいかなかったと思う」
「どうかな?尻餅着いたり倒されたら追撃で危なかったと思うけど…」
「その時は『肉を切らせて骨を断つ』だ。いくら魔物といえど攻撃してる最中には避けられんからな、多少のダメージと引き換えに至近距離からの猟銃で一発よ」
「多少のダメージで済めばいいんだけど…」
分身の俺が元気付けるように言うと女の子が微妙な顔で否定的に返し、そうなった場合の対処法を教えると女の子は微妙な顔のまま呟いた。
「ソッチは不意を突かれてもダメージが通らないから反撃し放題で羨ましい」
「肉体的なダメージは無くても精神的に不意を突かれると直ぐには動けんからな、状況によっては『し放題』ってわけにはいかんぞ」
「…確かに」
女の子は分身の俺が魔物の攻撃を受けてる様子を見て羨むように言うので指摘するように反論すると少し考えて納得するように返す。
「…さて」
「…あ。肉!…肉落とすんだ!」
分身の俺が魔物に貫手を突っ込んで核を握り潰して倒すと、落ちた魔物素材を見て女の子は驚きながら肉に指をさした。
「鹿肉だな」
「ソレって『ジビエ』ってやつ?」
「…ジビエの枠ならグリーズベアーもダチョウの肉も…ってか魔物の肉なら全て当てはまるんじゃね?」
「あ…確かに」
分身の俺の発言に女の子が確認するように尋ね 、分身の俺がツッコむように指摘すると女の子は言われて初めて今気づいたような反応をする。
「ってかグリーズベアーと戦ってる時にアラジカが乱入して来たりしたらソロだとキツそう」
「たまに音も無く忍び寄って来て背後から一撃喰らわしてくるぞ。パーティだとよくソレで後衛がやられるって聞くし」
「うわ、今回みたいな感じだ。ソッチが気づかなかったら私そのままダウンしてたかも」
「気絶で済めば御の字だろ」
先に進みながら女の子が思い返すように予想し、分身の俺がハンター界隈で注意喚起されてる事案を話すと女の子は悪い状況を想定するのでツッコミを入れるように返す。
「でも良く気付いたね?私は全然気づかなかったのに」
「同行者が居る場合は常に周りに気を配ってる。今回みたいに音も無く…なんなら気配さえ消して忍び寄ってくる魔物なんて珍しくないからな」
「へー、流石はマスタークラス。私は音も無く忍び寄られたのって今回が初めてだよ」
女の子の意外そうな問いに分身の俺はあのお姉さんのおかげで鍛えられている…ってのをボカして話すと女の子が感心したように言う。
「俺は不意を突かれようが関係無いけど他の奴らはそうはいかんだろ。だから常に感覚を研ぎ澄ませてセンサーの範囲を広げとかないと」
「へー。普通逆だと思うんだけどなぁ…攻撃が効かないんならもっと雑に周りに目がいかない鈍感な感じになると思うのに」
「まああんまソロでダンジョンに来る事は無いから。大抵の場合、同行者がいるから嫌でも気を配る事になるし」
「あー、そっか…冒険者だと後輩の指導とかもあるもんね…そう考えたら確かに」
分身の俺が説明すると女の子は意外そうに返し、分身の俺は適当な感じで体験談を話すと女の子も心当たりがあるのか納得する。
「あと目の前の敵に集中しなくて良い分、精神的に暇…心に余裕があるから周りに目がいく」
「あー!なるほど!そういう事かぁ…確かに確かに」
分身の俺の軽くおどけて冗談を言うような発言に女の子は理解して納得したように頷きながら同意した。
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