青年期 153

「…ん?」


「はーい」



俺が昼飯の準備をしていると部屋のドアがノックされ、お姉さんが対応へと向かう。



「すまない、ゼルハイト卿は居るだろうか?」


「あ、はい。お呼びしましょうか?」


「あ、いや…昼食をご一緒したいのだが…」



…どうやら来客は辺境伯である青年だったらしくお姉さんの確認に若干気まずそうな感じで返した。



「…坊ちゃん、ヴォードル様が昼食をご一緒したいと申してますが…」


「オッケー。じゃあ一人分追加するよ」


「あ、大丈夫みたいです。中へどうぞ」


「急に来た挙句に無理を言ってすまないな」


「あ、いえ…そんな…」



お姉さんは俺に確認を取ると青年を部屋の中に招き、申し訳なさそうに謝る青年に困ったような感じで呟く。



「予約を待たずにあの美味なる料理が食べられるとなればその機会を無駄にしたくないのだ」


「分かります。その気持ちすっごい分かります」



青年の発言にお姉さんは深く頷きながら同意する。



「お待たせしました。こちらロムニアの名物であるピロシキです」


「…ほう。ヒィロシキか」



俺が揚げ終わって皿に盛ったピロシキをテーブルの上に置くと青年は意外そうに見ながらフォークとナイフを手に取った。



「今回のは油でカラッと揚げた『揚げピロシキ』になります」


「…うむ、美味い!」


「カレーパンみたいに外はサクッと中は肉のジューシーな感じが最高です!」



俺の軽い説明を聞いて青年がナイフとフォークで上品に切り分けながら食べて感想を言うと…



お姉さんは紙を使った手掴みでガブっとかじって他の料理に例えた感想を言う。



「…続きましてコレもロムニアの名物ボルシチです。付け合わせのパンと一緒に食べるとよろしいかと」


「ほう、ブォルシィチ。まさかロムニアの料理が食べられるとは…」


「やっぱりスティックバダールは合いますね!」



俺が二品目を出すと青年が驚いたように呟きながらスプーンを手に取り、お姉さんはすぐに食べて褒めるように感想を告げる。



「…美味い…!まさか他国の料理をこうも美味しく仕上げるとは…!」


「材料の質の差、ですね。悲しい事に俺の料理の腕はもう緩やかにしか上達しないので…」



一口食べてやはり驚くように感想を言う青年に俺はそりゃ魔物の肉を使えばどんな料理でも美味いだろうよ…と思いながら返す。



「周辺諸国の料理の本はほとんど読み漁ってますもんね…」


「流石にこれ以上の技術の上達は難しいんじゃないかな…?料理を追求するとか専門的にいかない限りは…でもそんな事に時間は費やせないしなぁ…」


「いやもうこれだけ出来れば十分だと思いますよ。今でも王族の専属料理人になれるほどなので、これ以上上を目指すのなら世界トップクラスの腕前になっちゃいますし」



お姉さんの微妙な顔をしながらの呟きに俺が自虐的に言うとお姉さんはツッコミを入れるような感じで返す。



「…そりゃそうか。あくまで暇つぶしの趣味みたいなもんなんだからそこまで本気になる必要無いか…」


「…この腕前で『趣味』と言うのもレベルが高すぎると思うが…」



俺が納得しながら気持ちの整理をつけると青年はボルシチを食べながら微妙な顔で呟く。



「…さて。デザートに…大学芋とスイートポテトを」


「『大学芋』?」


「あ…飴芋ですね。キャンディポテトというやつです」



お姉さんと青年の食べ終わるタイミングを見計らってデザートを出すとつい前世の記憶による知識がポロッと出てしまい…



青年に不思議そうな顔をされたので俺は誤魔化すように言い方を変える。



「…美味い!外はカリカリと少し硬いが、中はホクホクと柔らかい…!面白い食感だ!」


「お菓子として芋けんぴにさつまいもチップスもありますよ」



青年は大学芋を食べて喜びながら感想を言い…



ソレに気を良くした俺が空間魔法の施されたポーチからさつまいもを使った他のお菓子の入っているボウルを取り出し、テーブルの上に置いていく。



「…この芋けんぴって美味しいんですけどちょっと硬いんですよね…」


「そう?一回蒸してるから普通のよりはまだ大丈夫だと思うけど」


「え!?普通のってもっと硬いんですか!?」


「いやまあ食べられる程度には、ね」



お姉さんの笑いながらの呟きに俺が反論するように返すと驚きながら確認され、俺は誤解されないように話す。



「…俺はこのぐらいの食感の方が歯応えがあって良いと思うが…」


「ほら」


「ぅ…で、でも、女性からしたらこのチップスみたいに、もう少し柔らかい方が…」



青年が芋けんぴを食べて俺を擁護するように言うとお姉さんはちょっと劣勢に立たされてだんだん声が小さくなりながら意見を言う。



「…多分これ以上柔らかくしたら大学芋みたいになるから『芋けんぴ』じゃなくなるんじゃない?」


「…確かに」



俺も芋けんぴを食べて食感を確認しながら聞くとお姉さんは大学芋を食べて納得する。



「しかしこのデザートやお菓子もロムニアの名物なのか?」



初めて見聞きする物ばかりだが…と、青年はチップスを食べて不思議そうに呟く。



「あ、いえ。これはとある大陸や島国の郷土料理です。材料がたまたまロムニアで安く売られていたので…」


「…なるほど…どうりで知らないわけだ」



俺の否定しながらの説明に青年がスイートポテトを食べて納得するように言う。

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