壮年期 32
更に翌日。
今日は修行の日なので戦場には行かずに近くなダンジョンへと向かった。
「…おっ。なんだアレ?」
「…あたしも初めて見る奴だ」
「私もです。図鑑が無いと…」
中級者用のダンジョンの第二階層に降りると直ぐにミイラ男のような初見の魔物を見つけ、分身の俺が不思議に思いながら言うと…
どうやら分身の女性も分身のお姉さんも同様に初見らしく珍しいものを見るような顔をしながら返す。
「ミイラ男っぽいが…そういやミイラって魔物がいたっけ」
「もしかしたらその『ミイラ』かもしれませんね」
包帯のような布で全身を巻かれたゾンビだかグールだかのような外見を見ながら分身の俺が思い出すように言うと、分身のお姉さんも思い出すような感じで曖昧に肯定する。
「早速珍しい魔物と出会ったな。一層がグールだったからこの二層はスケルトンだと思ったのに」
「オオォ…」
分身の俺が喜びながら呟いて近付くと魔物は風の音に近い掠れた声を出して腕を振って攻撃してきた。
「…動きが遅い分、多少威力は強いか…」
「オオォォ」
「お?」
分身の俺はノーガードで攻撃を受けて分析しながら呟くと魔物が二回三回と攻撃した後に包帯を伸ばして分身の俺の身体に巻き付ける。
「ほう…拘束技か。確かに動きを止めれば攻撃速度の遅さはカバーできる、なかなか頭が回るな」
「オオォ!」
分身の俺が意外に思いながら褒めると魔物は両手を振り上げ、鉄槌のように勢いよく振り下ろして分身の俺の両肩を殴りつけた。
が、当然のごとくこんな下級の魔物の攻撃がノーガードで直撃したところで痛くも痒くも無い。
「…こんなもんか」
それから少しの間魔物の攻撃を受け続けたが、単調な攻撃しかしないので心臓抜きで倒す。
「…お。コレはまた…」
「…変わった形の魔石ですね…」
「へぇ、こんな形の魔石もあるんだ」
…ミイラの魔石は赤とピンクの中間のような色をしたハート型という珍しい形をしていて…
分身の俺が軽く驚きながら呟くと分身のお姉さんは意外そうに呟き、分身の女性が不思議そうな顔をする。
「ハートの形の魔石なんて初めて見た。なかなかファンシーな見た目だな」
「可愛いですね。魔石でさえ無ければインテリアとして部屋に飾りたいぐらいですが…」
「確かに可愛い形をしてるね。これなら子供達にあげたら喜びそうだ」
魔石の形についての感想を言うと分身のお姉さんは女性的な感想を告げた後に残念そうに呟き、分身の女性は娘達にプレゼントした時の反応を予想するように話した。
「次はあたしにやらせてくれよ」
「まあ油断しないようにね」
先に進むと魔物を発見し、分身の女性が剣を抜きながら言うので分身の俺は譲るように一応釘を刺す。
「…はっ!」
「おおー、一刀両断。相変わらず豪快だねぇ」
「思ったよりも柔らかいね。まだスケルトンの方が斬りがいがあるよ」
「まあグールに包帯が巻かれてるみたいなもんだし、そんなもんでしょ」
分身の女性はスパッと魔物を縦に両断して速攻で倒し、分身の俺が褒めると意外そうに感想を言うので適当に相槌を打つように返した。
ーーー
「あ」
「…スケルトンもいるのかい」
「噂をすれば…ですね」
第三階層を進んでいると話題に挙がった魔物を発見し、分身の俺らは微妙な顔になる。
「…そういやスケルトンには心臓が無いけど…やっぱり普通に倒すのかい?」
「スケルトンの核は頭にあるから『心臓抜き』ではなく『魔石抜き』になる。流石に『脳抜き』にすると表現的にエグくなるじゃん?」
「ああ…なるほど、確かに」
魔物の剣と少し打ち合った後に首を落として倒した分身の女性がふとした疑問を尋ね、分身の俺がそう説明して理由も告げると分身の女性は一瞬眉をしかめた後に納得した。
「…でも頭の中じゃ難易度は上がるんじゃ?」
「そうでも無いよ。お、ちょうど良いトコに…実際見せるけど、下から手を突っ込めば簡単に取れるし」
少し考えての分身の女性の問いに分身の俺が否定的に返すとちょうど良いタイミングで遠目ではあるが魔物を発見したので、方法を話して実演する事に。
「…ほらね?」
「…いや、ソレあんたしか無理だよ」
分身の俺は魔物の攻撃を一切意に介さず普通に首の下から頭蓋骨の中に手を突っ込んで魔石を取って見せると、分身の女性は呆れたような反応をしながら返す。
「というか魔石抜き自体坊ちゃん以外には不可能ですし」
「スライムの魔石ならやろうと思えば誰だって取れるでしょ」
「…『取るだけ』であれば腕を犠牲にする覚悟があれば確かに誰でも可能になりますが…そもそも腕を犠牲にしてまで無理矢理スライムに手を突っ込んで魔石を取った、なんて人は今までいなかったじゃないですか」
「まあスライムの魔石がたとえ500万で売れたとしても、そのために腕一本の犠牲じゃ割に合わないからね」
分身のお姉さんの指摘に分身の俺が軽い感じで反論すると分身のお姉さんは肯定的に返しつつも現実や歴史上の事例を挙げて否定し、分身の女性も賛同するように言う。
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