11話 結界
クリア:主人公。良く夢を見る。案内人。魔槍のクリア。
ダズ:案内人。無精ひげ。案内人のまとめ役。
リビア:案内人。クリアとコンビを組む。光刃のリビア。
トアス:案内人。タロストとコンビを組む。好青年。
タロスト:案内人。トアスとコンビを組む。寡黙。
ティトレ:案内人。結界師。饒舌。スワルズとコンビ。
スワルズ:案内人。シンプルな性格。ティトレとコンビ。
ジグ爺:案内人の顧問。
クレスト:案内人候補。トアスの弟子。リビアの弟。
アル:案内人候補。
ビレー:案内人だった。
爺:クリアの育ての親。行方不明。
クラミ:防具屋の女店主。余裕のある接客。
ティトレさんに結界を教わりに来た。
同時にアルさんを引き取る。
アルさんはちょっと血の気の多い性格をした、攻撃魔法のエキスパートだ。
現在はまだ案内人候補だ。
同時なのは思惑があっての事だ。
アルさん、許してくれ。
決して軽んじている訳じゃない。
アルさんが俺を凝視している。
そうだ、しっかり見ていてくれ。
ティトレさんに結界を出す感覚を説明してもらう。
ティトレさんの話は非常に長い。
要約すると、守ろうとしてとっさに出る第三の手。
そんな感じらしい。
ティトレさんは数えきれないくらいの結界を同時に張れる。
そして一つの結界の大きさも相当なものだ。
一つ作ってもらう。
非常に美しい。
見入ってしまう。
円形の結界。
結界は平面だが、紋様が入っている。
紋様は万華鏡のように常に変化している。
吸い込まれそうな美しさだ。
これをティトレさんが作り出した。
ティトレさんが生み出している。
その事実に感動を覚える。
ティトレさんは尊敬できると、結界を見ればわかると思う。
俺の解釈はこうだ。
炒め物を作っている時に誰かが近くに寄ってくる。
油が飛ぶ。
飛んだ油が誰かに当たる前に手で止める。
そんなイメージ。
手が塞がっていたら、結界が出るのだろう。
俺は料理しないが、なぜか思いついてしまった。
とっさに守ろうとするイメージ。
俺の槍の光も、刺し貫くイメージを強めたものだ。
意思。
意思だ。
根源は同じ。
出せるはずだ。
「ティトレさん、だいたいイメージが固まりました」
「出来そうな気がします」
「本当かい?」
「結界師の育成でも、結界を作れた事のある者だけを集めてやってるんだ」
「作ったことの無い者が、ゼロから生成させるなんて経験、無いんだけど」
「ま、まあ、ダズがやらせるんです、見込みが無い訳じゃないでしょう?」
「うーん」
「君ら攻撃する時、光るから、有り得なくは、無い、ってのがダズの弁だったっけか?」
「そうです」
「見ていてください」
意識を集中する。
炒め物をして、油が飛ぶところをイメージする。
油が飛ぶ。
誰かが近づいてきた。
守らないと!
手が塞がってる!
何か!
何かで守らないと!
何か!!
出た!
六角形の漆黒のプレート。
黒くて紋様は見えない。
やっぱり出来た。
しかし、油が飛ぶのを防ぎたかった、誰かって、誰だ?
俺は何故そんなイメージを?
…………。
そんなことは、今いいか。
それよりみんなの反応だ。
ティトレさんが驚いている。
リビアも驚いている。
アルさんもだ。
だが、これだけじゃ終わらない。
複数出す。
出た。
俺の複数というイメージは七つらしい。
追加で六枚同じ物が出た。
結界とは、繋がり続けている感覚がある。
他にもまだ何か出来そうだ。
みんなの反応を見ず、さらに大きさを変化させる。
七枚とも小型の盾くらいの大きさから、畳一枚分くらいになる。
更に七枚を別々の方向へ移動させる。
はっはー、驚いたか!
ついでに七枚で階段を作り、歩いてみる。
結界は体重を支える事が出来るので、上まで登れた。
物理に干渉できるのだ。
当然だ。
滑らせればカッターの様に使う事も出来るだろう。
成功した。
次はリビアだ。
リビアも、たぶんできる。
リビアはいつも俺より強い光を出している。
意思が強いのだ。
出せるはずだ。
「次はリビアの番です」
「イメージは固まっていますか?」
「とっさに守るイメージですよ?」
「クリア、心配無用です」
「私もイメージ出来ています」
「しっかりと見ていてくださいね?」
「ええ、そりゃあ、見てますよ」
「ふ、では、行きます」
出た!
半球体の結界が出た。
白く輝く半透明の結界だ。
半球体はカッターの様に使えないかもしれないが、前面からの力を周りに受け流せる。
引き付け役としてはむしろこの方が良いだろう。
リビアはこの後、同時に三つ出していた。
「アルさん」
「貴方もやってみませんか?」
「俺はやってみた事あるが、出来なかったんだ」
「たぶん、今ならできますよ」
「やってみてください」
「意外と簡単です」
キッ、と睨まれた。
だがやってくれるだろう。
そういう性格だと思う。
「アルさん、とっさに守るイメージです」
「わかってる」
「でも、前もそのイメージは出来てたんだ」
「前は半信半疑だったのでは?」
「出来ると思ってやってみてください」
「…………」
「確かに、お前らが出来たんだ」
「俺が出来ても不思議じゃない」
「出来ると思って、か」
「フゥー、やってやる」
出た。
炎の円盤が二つ。
二つ同時に出た。
出来るんじゃないかと思う事が重要なんだ。
計画通り。
我ながら恐ろしい。
『結界を覚える』、『アルさんにきっかけを与える』両方やらなくちゃいけないのが案内人の辛い所だな。
面倒事を同時に片付けるという覚悟が俺には出来ていた。
そんな訳で、アルさんはもう四十階層を突破できるだろう。
攻撃魔法のエキスパートが、防御魔法を使えるようになったんだ。
まだ実践で通用するかわからないが、突破口としては上々だろう。
ティトレさんを含めた、三人が感動の余韻に浸っている。
声を掛け辛いな。
「ティトレさん、今日はありがとうございました」
「結界を使えるようになったことは僕からダズに報告しておきます」
「ああ、頼むよ」
「それと、僕たちが結界を作れるようになったのは、他言しないでください」
「何か悪だくみかい?」
「いいよ、わかった」
「いい話のネタが出来たと思ったんだけど、諦めるよ」
「有意義な時間を過ごせて良かったよ」
「アルを頼むね」
ティトレさんとアルさんはハグした。
仲は悪くなかったらしい。
「アルさん、リビアも他言無用ですよ」
二人とも頷いてくれた。
「アルさん、リビアとダンジョンに潜る準備をしてください」
「僕はダズに報告してきます」
「リビア、後を頼めますか?」
「クリア、何階層まで行きましょう?」
「とりあえず、三十階層でアルさんの結界が通用するか試してください」
「たぶん大丈夫だと思いますけど、念のためです」
「わかりました」
「兵士の方はお任せしますね」
「了解です」
拠点に着いた。
と言っても、さっきは訓練場にいたんだ。
目と鼻の先だ。
「ダズ、結界を使えるようになりました」
「ああ、やっぱりな」
「詳しく説明してくれ」
さっき起きたことを順番に話す。
「なるほど」
「お前、結界師を育てるの、向いてるかもな」
「魔槍のクリアは結界師か、笑える」
「リビアもですよ」
「なんにせよ良くやってくれた」
「これで、一階層から十階層までの結界師をお前たちに回せる」
「始めはティトレさんより多めに時間を頂きますよ」
「ああ、それはわかっている」
「これで、ティトレを少し休ませられるな」
「まだ先の話だが、結界師の成長は兵士より遅めだからな」
「兵士と同じに扱うなよ」
「ちょっと考えがあるので、しばらく使えるようになったのは他言しないでくださいね」
「ああ、なんとなく想像つくが、わかった」
「それにしても、お前、来年の春から忙しくなるな」
仕事を振ってきておいてよく言う。
上司が板についてきたなダズ。
最初からか。
「クリア、今日の予定は?」
「今日はこれから装備の受け取りですね」
「その後、ちょっと外に出てみようかと」
「外か、気を付けろよ」
「夜には戻ってくるか?」
「はい、戻ってきます」
「明日から二日はダンジョンに潜りますので」
「俺は今日、夕飯を行きつけで食うつもりだ」
「ついてくるか?」
「ええ」
「ぜひお願いします」
リビアに悪い気もするが、夕飯が楽しみだ。
ダズは顔が広い。
旨い店を知っているはずだ。
期待できる。
「ではまた夜に」
夕方に拠点で待ち合わせすることになった。
クラミさんの店に来た。
防具の受け取りだ。
久しぶりだ。
近くに寄ったら顔を出すようにしている。
兵士にもここを薦めている。
「ようこそいらっしゃいました」
「クリア様」
「品物は出来上がっています」
「どうぞお受け取りを」
予備装備の胸当てを魔鋼に変更したのだ。
色は黒にしてもらった。
最後の試着は必要ない。
作るときにさんざんやったからだ。
「ありがとうございます」
「また来ます」
クラミさんの店を後にする。
一旦自室に戻って外に出る用意をする。
念のため食料を一週間分用意する。
あくまでも念のためだが、本当に何が起こるかわからないからな。
町を取り囲む壁の端までやってきた。
馬鹿でかい扉とかそういう物はあるにはあるが、使っていない。
小さい扉から、こっそり出入りする。
兵士に挨拶して外に出る。
魔槍のクリアは顔パスで通れる。
外は久しぶりだ。
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