第11話 許容範囲



 キシ:キシ・ナトハ・ソアミ・カジャー。

    『リーベラティーオー』の纏め役。

    プロンシキの元英雄。

    死兵使い。

 ジャド:『マギ』のメンバー。

 仮面の男:『復讐者』。

      『救世主』とも呼ばれている。

      黒巣壱白の分裂した姿。

      『能力』が使える。

 ベリー:『ウォーターフォックス』のサブリーダー。

      キシが具現化した像。

      元になった人物にキシが惚れていた。

 アイアリ:『ウォーターフォックス』のサブリーダー。

      キシが具現化した像。

 ジュリット:『ウォーターフォックス』のサブリーダー。

       キシが具現化した像。

 フレイズ:『マギ』のリーダー。

 フェオ:『マギ』の主要メンバー。

     男性。

     ジャドとは双子の兄弟。

 ロメイン:『マギ』の主要メンバー。

     女性。

 クイン:『マギ』の主要メンバー。

     女性。

     ジャドが惚れている。

     キシいわく、ベリーと雰囲気が似ている、との事。




(ジャド視点です)


 僕はクインに好意を持っていた。


 キシさんにも見抜かれていた。


 態度には出さないでいたつもりだったけど、わかる人にはわかるらしい。


 キシさんが特別だと思いたい。


 僕ら『マギ』はほとんどが同じ集落出身だ。


 クインが精霊と契約したのをきっかけに、皆も同じように契約した。


 クインは抜きん出ていた。


 フレイズさんは纏め役。


 エースはクイン。


 僕らの憧れだ。


 僕はクインを見ていた。


 彼女は特定の誰かを気にしない。


 そう思っていた。


 だが違った。


 チームにフェオが入ってからは、彼を観察している様だった。


 フェオを見ていると、不思議な気持ちになる。


 単に双子という事だけじゃない、何かがある。


 僕らは、育ちこそ別々だが、よく似ていた。


 不自然なほど似ている。


 似すぎていて、お互い、親しくなれなかった。


 そして、それでも僕は選ばれなかった。


 こんなにも似ているのに。


 彼女が選んだのは、彼だ。


 そう思っていた。


 だから僕は彼女と距離を取った。


 つかず離れず。


 それが僕の限界だった。


 僕は自分の生を諦めた。


 僕の前に立つクインを見て、心が折れた。


 彼女は何のために僕を庇ったのだろう?


 皆を助ける為か?


 その為に僕を庇ったのか?


 本当にそうか?


 本当にそうか?


 以前彼女と目が合った瞬間、びっくりして目を逸らした事を思い出した。


 そうか。


 そうかもしれない。


 でも、もう手遅れなんだ。


 クインは死んだ。


 この世界はクソだ。



 ☆ ☆ ☆



(キシ視点です)



 敵は連続攻撃出来る。


 身をもって体感した。


 ジャドが防いでくれなかったら僕は死んでいた。


 僕みたいなクズを助けるなんて、見る目無いぞ。


 バカだなー。


 その所為でクインがジャドを庇った。


 僕の事を恨むなよ。



 敵は連続攻撃できる。


 話しを戻す。


 状況を整理する。


 連続攻撃出来るが、撃ち続けて来ない。


 チャージタイムが必要無いなら、今撃って来ない理由は?


 恐らく、弾数に限りがある。


 だから使いどころを絞って攻撃してくる。


 それも弾数はそんなに多く無い筈だ。


 何故か?


 威力と射程距離が出鱈目過ぎる。


 敵が魔物の王の配下だとしたならば、乗り越えられる試練の範疇の実力の筈。


 遠距離攻撃以外の能力が低い特化型でも、その性能には限界が有る筈だ。


 そう思いたい。


 願望も混じっているか。


 その予想から外れていたら諦めるしかない。


 弾数に限りがあるという前提で予想を構築する。


 無限に撃てるなら、勝ち目は無い。


 その可能性は捨てざるを得ない。


 ならば次の手は?


 何らかの予測が出来るか?


 無理か?


 何か忘れて無いか?


 何か忘れてそうだ。


 嫌な予感がする。


 だが進むしかない。


 敵が索敵範囲内にいる内に接近したい。


 接近できれば勝負が決着する。


 その筈だ。


 敵に接近するまでに、最低でも一発は仕掛けて来る。


 防御体制のまま、高速で移動する。


 敵は瞬間移動出来る。


 いつ索敵範囲から出て行くかヒヤヒヤする。


 出て行かれたら、クインの死が無駄になる。


 しくじる訳にはいかない。


 こんなチャンスは二度と無い。


 進むと決めた以上、全力で近づく。



 バァーーーーーン!!!!


 四人で増幅した魔法力を使い、なんとか防いだ。


 防ぎ切った。


 意外と早く撃って来た。


 敵までまだ大分距離がある。


 残弾は多いのか?


 ダンジョン前で撃たれた時より断然威力が大きい。


 四人で増幅してやっとだ。


 やっと防げる。


 距離が近づくほど威力が増すのか?


 これはキツイ。


 進んで良いのかどうか迷う。


 これ以上近づいてから撃たれたら防げるのか?


 どうする?


 近づくか?


 この距離を保って、敵の残弾が無くなってから突撃する手もある。


 だが残弾が無くなったら敵は引き上げるだろう。


 敵を退けられれば良しとするか?


 その場合、何度も狙われるかもな。


 逃げられたら今掴んでいる気配に小細工して誤魔化されそうだ。


 不意打ちされたら一溜りもない。


 今回は運が良かった。


 ジャドが仮面の男を庇った功績は大きい。


 助かった。


 彼に目を付けたのは間違いじゃ無かった。


 彼が生き残る可能性は少ないが。


 敵を始末しないと恨まれそうだ。


 殺し切るつもりで頑張るか。



 敵が撃って来た。


 速い。


 距離が近づいて、弾に気付くのも遅れて行っている。


 威力が増すばかりだ。


 今回は防げたが、進んでしまうと次は無理かもしれない。


 無理の可能性が高い。


 フェイントを入れる。


 距離を保ったまま、しばらく円の軌道を取る。


 その後、渦巻き状に移動し、タイミングを見計らって突撃する。


 なるべく今の距離で撃たせる。


 今撃って来たならば、敵も近づかれるのが嫌なのだ。


 瞬間移動で逃げられる可能性も視野に入れて、様子を見る時間を作る。


 次に距離を一気に縮めるタイミングが勝負だ。


 敵がどれだけ弾を残すか、僕らがどれだけ防げるか、そこが鍵だ。



 !!!!


 判断を誤った。


 敵が高速で離れて行く。


 こっちが移動する方向と真逆に移動する。


 距離が縮まらない。


 その行動は想定していなかった。


 敵は移動しないと思い込んでいた。


 敵の攻撃は精度が良い。


 こちらが全力で移動速度を上げても狙いを合わせて来た。


 まさかだが、移動しながらでも同じ精度が出せるのか?


 そんな馬鹿な!?


 想定より総合力が上なのか?


 敵の位置を割り出せたなら、ミスをしなければ倒せると思っていた。


 甘かったかもしれない。


 すでに詰んでいるのか?


 まて。


 冷静になれ。


 考えるんだ。


 移動し始めた理由は?


 弾数を使わせたい事。


 防御の限界が来ている事。


 逃がしたくないという事情。


 円の軌道から、渦巻き状に移動した事で逆に読まれたのか?


 たぶんそうだ。


 迂闊だった。


 少なくとも、殺し切りたい態度は隠すべきだった。


 するとどうなる?


 向こうはどう出る?


 等距離のまま追いかけ続ける事のリスクは?


 円軌道を始めた距離がほぼ防御の限界距離だった。


 渦巻き状は賭けだ。


 つまり、急激に相手が距離を詰めてきたら、対応できない。


 こっちが追いかけて油断したら、距離を詰めて来る気だ。


 しかも、追いかけないと逃げられる可能性がある。


 追いかけるしかない。


 はー。


 相手に主導権を握られた。


 今の所、駆け引きで負けている。


 だが追いかけるしかない。


 後は運だな。


 諦めなければ、運を味方にできるかも。



 来た。


 瞬間移動で真後ろに出やがった。


 しかも距離が近い。


 間髪入れずに撃って来た。


 想定の範囲内だ。


 追いかけるという事は向こうの通った道をなぞるという事だ。


 瞬間移動は行った事のある場所しか無理だ。


 イメージ出来ないからだ。


 僕が敵なら、同じ事をしただろう。


 瞬間移動で近づいて不意打ち。


 運が味方した。


 今仕掛けて来られた場所は許容範囲だ。


 僕の記憶の許容範囲。


 実はこの辺り一帯は来た事がある。


 何年この世界で生きていると思っている。


 見慣れた景色なんだよ。


 後ろに気配が出た瞬間、その後ろに瞬間移動した。


 実は始めから瞬間移動出来た。


 最後まで奥の手を残した方が勝つ。


 そう決まっている。


 だから、無いものとして振る舞った。


 敵が隙を見せる時に、見た事無い場所に立っていたかもしれない。


 諦めなかった僕の勝利だ。


 僕は蒼い鎧を着た男の背後から大剣を振り下ろした。



 ギン!!


 完全に不意を突いていた。


 敵が一人ならば。


 敵は二人いた。


 一枚だけだが途轍もない強度の結界。


 この結界は抜けない。


 遠距離担当の敵を近距離担当の敵が守っている。


 ありそうな話だ。


 銀色に輝く靄は形になる。


 女性だ。


 何処かで見た事がある。


 ああ。


 レナメントレアのプリンセス。


 確か、シェルミだっけ?


 蒼い鎧は、その兄のカイン?


 プロンシキの英雄だったから当然会った事がある。


 聖国クリアにも訪問していた。


 知り合いだ。


 あんなにダズに可愛がられていたのに、魔物の王に従うのか。


 笑える。


 結婚式が地味だったのは、犠牲が出たんじゃないんだろう。


 裏切りだ。


 そう言う事か。


 腑に落ちた。


 親し気に話し掛けてもいいが、今はそうしない。


 手を握っていた三人を新生ロベストロニア帝国のダンジョン前に瞬間移動させる。


 有無を言わせない。


 近距離戦闘では足手纏いだ。


 僕は『ウォーターフォックス』サブリーダー三人を具現化した。



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