第10話 最悪の事態



 キシ:キシ・ナトハ・ソアミ・カジャー。

    『リーベラティーオー』の纏め役。

    プロンシキの元英雄。

    死兵使い。

 ジャド:『マギ』のメンバー。

 仮面の男:『復讐者』。

     『救世主』とも呼ばれている。

     黒巣壱白の分裂した姿。

     『能力』が使える。

 ベリー:『ウォーターフォックス』のサブリーダー。

     キシが具現化した像。

     元になった人物にキシが惚れていた。

 アイアリ:『ウォーターフォックス』のサブリーダー。

       キシが具現化した像。

 ジュリット:『ウォーターフォックス』のサブリーダー。

       キシが具現化した像。

 フレイズ:『マギ』のリーダー。

 フェオ:『マギ』の主要メンバー。

      男性。

      ジャドとは双子の兄弟。

 ロメイン:『マギ』の主要メンバー。

      女性。

 クイン:『マギ』の主要メンバー。

      女性。

      ジャドが惚れている。

      キシいわく、ベリーと雰囲気が似ている、との事。




(キシ視点です)


 バァーーーン!!


 ダンジョンの出口付近が吹き飛んだ。


 仮面の男とジャドが出口から外に出ていた筈だ。


 幸い出口は瓦礫で塞がっていない。


 生き埋めにはされなかった。


 ダンジョンの中にいると、ダンジョンの外の気配を探れない。


 ダンジョンの特性だ。


 神獣も顕現出来ない。


 今はまだ中にいるという判定だ。


 何らかの攻撃を受けているなら、入る時に入ると確認され、出る時を狙っていたのだろう。


 非常に不味い状況だ。


 仮面の男に何か有ったら詰んでしまう。


 しかし、迂闊に様子を見にもいけない。


 ジャドの状態も気になる。


 僕の後ろに『マギ』の四人が控えている。


 和やかな雰囲気から一変して、緊張感が出ている。


 女性二人の会話も止まってしまった。


 僕はベリー達三人を具現化した。


 キシ:「どう思う?」


 ベリー:「どうせ出て行かなきゃいけない」

 べリー:「出るなら早い方が良いわ」


 アイアリ:「そうね」

 アイアリ:「そう思う」


 ジュリット:「私達四人が先に出るから、『マギ』の四人は様子を見て出て来て」


 フレイズ:「承知しました」

 フレイズ:「任せます」


 フェオ:「……出入口が吹き飛んだ」

 フェオ:「『救世主』が狙われたのか?」


 クイン:「おそらくは」


 ロメイン:「そうなる」


 フェオ:「『フィナリスラーウム』は不意打ちするチームじゃ無いだろ?」

 フェオ:「どういう事?」


 キシ:「今の時期に『フィナリスラーウム』は無い」

 キシ:「魔物の王かその他の勢力だろう」


 ベリー:「話している暇は無いわ」

 ベリー:「外に出るわよ」



 僕はダンジョンから一歩外に踏み出した。


 僕を先頭に、『ウォーターフォックス』は外に出た。


 四人で結界を最大数展開し、四人とも盾を装備している。


 攻撃は無い。


 急いで周囲の気配を探る。


 敵らしい反応は無い。


 索敵範囲内にそれらしい気配は何も無い。


 どうなっている?


 外の状況は酷い。


 周辺の建物が吹き飛んで、ビルが倒れている。


 外壁を突き破って、街の中のダンジョンを吹き飛ばしたらしい。


 あり得ない破壊力だ。


 衛星軌道上にいた魔物を撃ち落としたレイセに匹敵するか?


 かもしれない。


 仮面の男が狙われた。


 敵からはこちらの状況が見えているんだ。


 敵はおそらく魔物の王の勢力。


 空の支配権を放置してもこのような状況を作れるのか?


 仮面の男を狙っていた筈。


 僕に攻撃が来ない。


 やられたのか?


 仮面の男は遠方からの攻撃に弱いかもしれない。


 サテライトとランプの性能をすり抜けられたら、危ないかもしれない。


 気配を探す。


 いた。


 生きている。


 建物の下敷きになっているが生きている。


 ジャドの気配も探す。


 いた。


 ジャドも生きている。


 右腕と右足を瓦礫に挟まれて動けないらしい。


 衝撃で肺もやられたらしい。


 近くにいるが、声が出ていない。


 目が合った。


 そうか。


 生きていたか。



 仮面の男が死んでいない。


 しかし、攻撃は無い?


 再攻撃に時間が掛るのか?


 それとも、仮面の男を仕留めたと勘違いしているのか?


 敵は僕の索敵範囲内にいない。


 それは確実だ。


 仮面の男を見失った可能性は十分ある。


 再攻撃に時間が掛ると勘違いして、仮面の男に近寄ったら狙われる可能性もある。


 仮面の男は動かない。


 気絶しているんだろう。


 連続攻撃できないと考えるより、見失ったと考えて行動する。


 今僕が取るべき行動は?


 ベリー:「どうせ防御しか出来ないわ」

 ベリー:「やって!」


 キシ:「了解!」

 キシ:「『涙(グレートリバー)』」


 街の外壁までと同じ範囲に集中して雨を降らせる。


 滝の様な雨だ。


 同時に僕の神獣を具現化する。


 神獣はスライム。


 物理攻撃と魔法攻撃の両方に耐性がある。


 水の中でしか素早く動けない。


 今は雨が大量に降っている。


 今スライムは素早く移動出来る。


 仮面の男とジャドには近づかない。


 位置を教える事になるかもしれないからだ。


 準備が整ったぞ。


 再攻撃に時間が掛らないなら、これ以上こちらの様子を観察しても意味が無い。


 ダンジョンから出ようとするフレイズ達にまだ出るなと伝えた。


 声で。


 音で。


 …………。


 やはり攻撃が無い。


 千里眼の様な視覚による判断か?


 そう思った時、街に降る雨に何かが接触した。


 左だ。


 今度は外壁の上から角度を付けて攻撃してきた。


 認識と同時に神獣を左に移動させ、四人で結界を張る。


 神獣のスライムに触れた。


 物理攻撃だ。


 金属の塊。


 ライフル弾をデカくした様な形状。


 大砲か。


 ヤバい!!


 スライムのラーナーシルを大砲が貫通した。


 今までラーナーシルの防御を抜かれた事は一度も無かった。


 結界は念の為だったんだ。


 だが威力は減衰した。


 全力で結界を強める。


 結界にぶつかった衝撃波で瓦礫が吹き飛んだ。


 結界数十枚が砕けた所で、大砲が止まった。



 ☆ ☆ ☆



(ジャド視点です)


 精霊には霊感の様な特殊な感覚があるのかもしれない。


 攻撃を防いだキシさんを見て、ゾクッとした。


 余り良い感覚じゃない。


 精霊と心で会話する。


 ジャド:『この感覚、誰からなの?』


 メタル:『私とユニルですね』


 ユニル:『そうね』


 ジャド:『何が見えてるの?』


 ユニル:『状況は覆らないわ』

 ユニル:『むしろ悪くなるかも』


 ジャド:『解るように説明できないんだな?』


 ユニル:『そうなの』

 ユニル:『ごめんなさい』 


 ジャド:『……』

 ジャド:『なんにせよ、やってみなきゃわからないだろ?』


 メタル:『かも、しれませんね』


 やれることをやるだけだ。


 ウンディーネ、ドリアード、メタル、ノーム、ユニル、シルフの六体を顕現させる。


 物理干渉できるのはこの六体だ。


 ウィプスやジェイド、サラマンダーは物理干渉力が少ない。


 キシさんの背後に配置する。


 僕に出来る事。


 出来る事。


 移動しないと。


 時間が無い。


 敵が二発目、三発目を撃って来る。


 キシさんは油断している。


 敵は連続攻撃できる。


 僕は泳がされていただけだ。


 位置がわからないのは、吹き飛んだ『救世主』だけだ。


 僕は神獣の力で少し飛ばされただけで済んだ。


 耐えた内だろう。


 さっきは不意打ちだった。


 今度は防げる。


 同じ攻撃力だった場合の話だ。


 他にどんな可能性が有る?


 思考が届かない。


 時間が来てしまう。




 バァーーーーン!!


 神獣六体の干渉と結界でキシさんの背後への攻撃を防いだ。


 索敵範囲より遠方から、超長距離狙撃。


 それも凄まじい威力に加え、発射位置を瞬間移動の様な手段で変えている。


 精霊ユニルの感覚から判断している。


 反則的な能力。


 しかし、防いだ。


 負けない。


 そう思ったのが間違いだった。


 敵の位置を掴めていないなら勝てない。


 僕もキシさんと同じように油断した。


 若干の時差の後、もう一撃が迫っていた。


 それも僕に。


 思考が追い付かなかった。


 僕は移動しなければいけなかった。


 防御が間に合わない。


 僕は左手で右腕を切り離した。


 まだだ。


 右足が残っている。


 凄まじい痛みを感じる。


 不得意な部分融合で右腕を作るのと同時に、部分融合で鉈を作り出した。


 体勢的に足は手刀で切断できない。


 両手を使って、鉈で右足を切断する。


 切断動作に入ったところで、気が付く。


 クインが僕の前に立っていた。


 僕は切断を諦めた。


 最悪の事態に心が折れた。


 クインは攻撃に対してカウンターを仕掛けた。


 僕らの精霊は共通している。


 クインの精霊が感知した事は、僕達にも解る。


 クインは、僕を庇うと同時に、敵の攻撃に直接触れる事で敵の気配を調べる気だ。


 理の精霊、ユニルに攻撃の位置を追跡させる気らしい。


 位置が特定出来た時点で、クインが消滅した。


 物理的に。


 影も形も残らない。


 僕はクインが展開した結界に守られた。


 そのまま外壁まで吹き飛ばされた。


 右足は千切れていた。


 僕は気絶した。



 ☆ ☆ ☆



(キシ視点です)


 ジャドは助からない。


 クインがとっさに結界で防御したが、無駄だろう。


 僕の静止を無視して『マギ』の四人が出て来てくれて助かった。


 彼等の精霊の能力から、敵の位置が割り出せたらしい。


 フェオの額と僕の額をくっ付けてイメージを流して貰った。


 超々遠距離からの狙撃らしい。


 やはり、完璧な気配遮断とかの小細工は無かった。


『静寂』と『ディープフォレスト』の制御を中止し索敵範囲を大幅に広げる。



 いた。


 敵が確認できた。


『トパーズ』全員は別のダンジョンに潜っている。


 異変に気付いていない。



 フレイズとロメインとフェオの三人と僕は手を繋いで繋がった。


『涙(グレートリバー)』を敵まで繋げる。


 僕の水魔法は三人の『マギ』により能力が拡張されている。


 ラーナーシルに包まれた僕達四人は敵の居場所まで移動する。

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