第9話 悪寒
キシ:キシ・ナトハ・ソアミ・カジャー。
『リーベラティーオー』の纏め役。
プロンシキの元英雄。
死兵使い。
ジャド:『マギ』のメンバー。
(ジャド視点です。)
黒竜が空から着地しようとしている。
デカい。
キシさんは余裕ぶっているが、ホントにあんなのに勝てるのか?
勝てるイメージが思いつかない。
デカいのに、運動神経の塊みたいだ。
迫力が凄い。
地面に降りた。
音が全くしなかった。
翼が背中に仕舞われていく。
無駄が全くない。
僕は唾を飲み込んだ。
ダンジョン攻略済みのフレイズさんも緊張している様だ。
僕がしっかりしないと。
僕達『マギ』の八人は多重契約者だ。
八人全員が全属性分の精霊と契約している。
多数の神獣と契約する利点は多い。
まず、同時に複数の神獣を操れる。
神獣は自分で動いてくれる。
指示を出すだけならそんなに難しくない。
もう一つ。
使える魔法の属性が増える。
普通、複数の属性を操れても、同時には無理だ。
強力な魔法は、神獣に影響する。
神獣の助けが無ければ、複数同時は無理だ。
多重契約はそれを可能にする。
この世界の魔法に反対の属性は無い。
属性同士が打ち消し合ったりしない。
火の属性と水の属性の複合もあり得る。
そう。
属性の複合。
同時に魔法を操れるなら、属性の複合が可能だ。
複合すると効果が増す。
全属性の複合の効果は計り知れない。
但し、制御が難しい。
見込める効果以上の難しさだ。
契約している神獣に同時に話し掛けられるだけでも処理できないのに、魔法の制御の難易度が跳ね上がってしまう。
そして、不気味なのがリスクだ。
リスクが全くない。
たぶん普通の契約者と同じリスクしか提示されていない。
精霊たちに聞いてもはぐらかされる。
おかしい。
調子に乗って多重契約する方が悪いかもだが、後になって考えると不安になる。
回りくどい説明になった。
僕達八人、今回は五人だが、全属性を複合した魔法は一つしか使えない。
全属性複合魔法、「フル・アビリティ・ショット」
光の弾を相手にぶつける単純な魔法だ。
この魔法以外の全属性複合魔法はまだ使えない。
ファイアアロー等の単属性魔法と比べると、破格の効果だ。
僕らはキシさんが黒竜を引き付けている間に、この魔法を使う。
そういう作戦だ。
黒竜には通常の魔法は通じないらしい。
魔法タイプの僕達が戦闘に加わるにはこの方法しかない。
キシさんがこっちを見て頷いた。
僕らも頷き返す。
戦闘が始まる。
黒竜が吠えた。
僕達の身は竦む。
怯んでいる間にキシさんは黒竜の前に瞬間移動。
黒竜の顎をハンマーでかちあげた。
黒竜は上に力を逃がし、冷静にバックステップ。
向きなおって、頭の角でキシさんを貫こうとする。
キシさんとベリーさん二人が盾で攻撃を上に逃がす。
息がぴったりだ。
攻撃を逸らされた黒竜は右前足のブレードで切りつけた。
振りはコンパクト。
瞬きしてしまうと見えないような数瞬。
右から左に振るわれた攻撃を、ジュリットさんとアイアリさんが盾で上に逃がす。
いつの間にか二人が出現し、攻撃を防いでいた。
こちらも息がぴったりだ。
更に黒竜は右からの振りの後、左から切りつけた。
左前脚のブレードを左から右に振るう。
キシさんとベリーさんが上に受け流す。
どうやら、まともに受けたら盾が持たないようだ。
このタイミングで、フレイズさんが全属性複合魔法を放つ。
黒竜は右のブレードで魔法を撃ち落とそうとする。
魔法を右から左に払ったブレードの先が消失した。
黒竜は慌てて、バックステップ。
魔法の軌道から外れる。
黒竜は魔法耐性のある毒液を身にまとっているので通常の魔法は通用しない。
全属性複合魔法は効果があるようだ。
しかし今の攻撃で効果がバレた。
何らかの対策を施されるかもしれない。
効果はある。
確実に当てる。
黒竜の狙いがフレイズさんに移動した。
黒竜がフレイズさん目掛けて走り出す。
慌ててキシさんが注視を使う。
強力な注視を使えるらしい。
黒竜は仕方なく、キシさんへ向き直る。
黒竜の攻撃。
右から左。
いなす。
左から右。
いなす。
角の突き上げ。
いなす。
相変わらずベリーさんと息がぴったりだ。
僕は全属性複合魔法を放つ。
黒竜はブレードの先で魔法の軌道を逸らす。
先の消失したブレードは瞬時に回復する。
意に介していない。
キシ:「怯むな!」
キシ:「長期戦になると不利だ」
キシ:「もっとどんどん攻撃してくれ!」
皆がオー!
と返す。
キシさんに向けた連続攻撃を、キシさんとベリーさん、ジュリットさんとアイアリさんが防ぐ。
その間に僕たちは全属性複合魔法を撃ちこんだ。
全ての魔法の軌道を逸らされる。
恐らく、一撃が決まれば勝負が着く。
最後の一撃が決まらないまま、四時間が経過した。
全属性複合魔法は放てる回数に限りがある。
制御に必要な気力と集中力が多過ぎた。
限界は疾うに来ていた。
キシさんが想定していたより黒竜が強かったらしい。
百階層にはメンバー全員の強さも反映されるのかもしれない。
スタミナが残っているのはキシさん達だけだ。
僕達五人は限界だ。
キシさんの携帯電話が鳴った気がしたが、受信する前に切れた。
更に二時間。
キシさん達に限界が来た。
キシさんの注視が緩む。
黒竜は大きく後ろに後退した。
何かやるつもりらしい。
黒竜は息を吸い込んだ。
ブレスだ。
やられた。
この間合いじゃ躱せない。
キシさんの瞬間移動が頼みの綱だが、余力が無いらしい。
一瞬遅れて、キシさんは僕達の前に瞬間移動した。
防御してくれるらしい。
キシさん達四人と、僕達五人は結界を限界数展開する。
おそらく結界は破られる。
この勝負、僕たちの負けだ。
ブレスは放たれた。
だが、僕達には届かなかった。
ブレスは見えない壁に倍速で反射する。
反射したブレスを諸に喰らった黒竜は、全身が焼けただれた。
黒竜はブレスを中止した。
仮面の男:「電話には出ろ」
キシ:「お前が言うな!」
仮面の男:「ダンジョン攻略中に出られる訳無いだろ」
キシ:「それは確かに」
仮面の男:「お互い様って事にしてやる」
キシ:「助かった」
仮面の男:「…………」
仮面の男は一人で黒竜に突っ込んだ。
黒竜は少しの会話の間にブレスのダメージを回復していた。
仮面の男は黒竜の連続攻撃を刀で切り落とす。
全て。
黒竜のブレードや角は、先が無くなり、回復が追い付かない。
黒竜は一方的に後退し続ける。
堪え切れなくなり、黒竜が大きくバックステップした。
仮面の男が飛ぶ斬撃で連続攻撃。
黒竜はバラバラになった。
圧倒的。
キシさんが始めに仮面の男が加われば問題ないと言っていたのは本当だった。
天空から光り輝くコインが降りて来る。
仮面の男はコインをつかみ取り、懐に仕舞った。
会話は無い。
五十階層への出口が出現するまでの間、誰も何も話さなかった。
話せなかった。
実力が違い過ぎる。
キシさんでも届いていないのでは?
全員五十階層に戻った。
そこでやっと話し掛けた。
ジャド:「コインをどの位集めたのですか?」
仮面の男は、巾着袋を取り出した。
仮面の男:「見るか?」
ジャド:「こんなに!」
キシ:「妬けるなー」
キシ:「僕のも見るかい?」
クイン:「キシさんのはいつでも見れそうですね」
フェオ:「そうだな」
ベリー:「ふふ」
キシ:「株が下がった」
フレイズ:「そんな事は無いです」
フレイズ:「必ず相談に乗って下さいよ?」
キシ:「損な役回りだなー」
ロメイン:「私も相談に乗って欲しい」
キシ:「オッケーよ」
和やかな雰囲気で一階層に到着した。
目的を果たした。
ホテルに戻って、小説の続きを読みたい。
ウイスキーとか飲みながらがいいな。
先頭を僕が、次に仮面の男が続いて、外に出た。
ダンジョンの外。
街の中だ。
悪寒がした。
多重契約者のみに起こる、予感のようなものかも。
僕は結界を多数展開し、仮面の男を突き飛ばした。
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