第12話 僕はもう逃げたい



 キシ:キシ・ナトハ・ソアミ・カジャー。

   『リーベラティーオー』の纏め役。

    プロンシキの元英雄。

    死兵使い。

 ジャド:『マギ』のメンバー。

 仮面の男:『復讐者』。

     『救世主』とも呼ばれている。

     黒巣壱白の分裂した姿。

     『能力』が使える。

 ベリー:『ウォーターフォックス』のサブリーダー。

     キシが具現化した像。

     元になった人物にキシが惚れていた。

 アイアリ:『ウォーターフォックス』のサブリーダー。

      キシが具現化した像。

 ジュリット:『ウォーターフォックス』のサブリーダー。

      キシが具現化した像。

 フレイズ:『マギ』のリーダー。

 フェオ:『マギ』の主要メンバー。

      男性。

      ジャドとは双子の兄弟。

 ロメイン:『マギ』の主要メンバー。

      女性。

 クイン:『マギ』の主要メンバー。

      女性。

      ジャドが惚れている。

      キシいわく、ベリーと雰囲気が似ている、との事。




(キシ視点です)


 かなり強力な結界だ。


 さっきも言ったが、抜けそうに無い。


 背中を見せていたカインがこちらに向き直った。


 カインは肩で息をしている。


 それはそうだろう。


 いくら遠距離攻撃特化と言っても、性能には限界がある。


 魔物であろうと、人間であろうと。


 仮面の男が反撃できなかった事を考えれば、カインの攻撃は成功だろう。


 こちらの戦闘能力を良く把握している。


 仮面の男が戦闘不能になったのに、勝負が長引くとは思わなかった筈だ。


『マギ』が良くやってくれた。


 あともう一歩でカインを仕留められたんだが。



 ふー。


 レナメントレアのプリンセス。


 シェルミ。


 賢者シェルミ。


 自己主張の少ない、大人しい女性というイメージだった。


 違っていた。


 結界の紋様には性格が表れる。


 結界の紋様から感じられる印象は大人しさとは真逆だ。


 ギラギラとした銀色の結界から感じられるイメージは、狂気じみたエゴだ。


 視界の中に結界があるだけで気が狂いそうだ。


 一筋縄では行かなそうだ。


 覚悟を決めなきゃな。


 カインが回復し切る前に一気にシェルミを仕留める。


 それ以外に勝機は無い。


 こちらから仕掛ける。



 僕は瞬間移動でシェルミの右側に出た。


 シェルミは素手だ。


 武器を持っていない。


 こっちに反応して防御しない。


 違和感がしたが、僕は大剣を振り抜いた。


 ギン!!


 また結界に阻まれる。


 だが結界に大剣が触れるタイミングで、ベリーの槍がシェルミを突き刺した。


 シェルミは結界で防御しなかった。


 態とかもしれない。


 突き刺されたシェルミは構わず抜き手でベリーの腹を突き刺した。


 シェルミは攻撃を受けても意に介していない。


 僕はベリーが致命傷を受けたと判断してしまい、ベリーの具現化を解いてしまった。


 槍が突き刺さっていたシェルミの右肩は回復している。


 超回復だ。


 これはヤバい。


 態と攻撃を受けて、ダメージが通らないところを見せられた。


 これでは駆け引きが成立しない。


 瞬間移動が意味を成さない。


 今の一合でわかった。


 勝てる気が一切しない。


 仮面の男が、魔物の王と勝負しない理由がわかった。


 わかってしまった。


 シェルミの方が、存在強度が上だ。


 恐らくどうあがいても攻撃が通らない。


 どうする?


 僕はもう逃げたい。


 クインには悪いが、無理なものは無理だ。


 どうしようもない。


 はー。


 あー。


 あー。


 逃げても解決しないんだよなー。


 あー。


 あー。


 あー。


 はー。


 しょうがない。


 やるだけやるか。


 諦めなけりゃ、運が味方するかもね。


 さっきは策が有ったんだけどなー。


 今度は品切れだわ。


 作戦変更だ。


 逆に時間を稼ぐ。


 急いでくれよ。



 キシ:「あー、えー、シェルミさん?」

 キシ:「シェルミさんですよね?」


 シェルミは無視して、具現化したレイピアで突こうとする。


 キシ:「わー」

 キシ:「待って、待って、タイム、タイム!」


 シェルミ:「はー」

 シェルミ:「大人しく殺されなさいよ」


 キシ:「えー?!」

 キシ:「少しくらい話してくれても罰は当たらないでしょ」


 シェルミ:「あからさまな時間稼ぎ」

 シェルミ:「逃がした三人が仮面の男を回復させるんでしょ?」


 キシ:「まー、そうかな」


 シェルミ:「とっとと片付ける」


 キシ:「そんなこと言わないで、会話を楽しまない?」


 シェルミ:「無視する」


 僕はベリーを再び具現化した。


 僕はジュリットを武器化させ剣にして装備。


 ベリーはアイアリを大盾にして装備。


 キシ:「ダズは元気?」


 シェルミは無視して、レイピアで僕を狙ってきた。


 レイピアの突きは、僕の視線と合わせてある。


 僕の顔を的確に狙い、僕にはレイピアの側面が見えない。


 点としか見えないので捌くのが非常に難しい。


 ベリーが間に入って大盾で防いでくれた。


 シェルミは僕を狙っている。


 ベリーは注視を使った。


 シェルミが舌打ちをした。


 はしたないぞ。


 どう云う心境の変化なんだか。


 なぜか二人は勝負を早めようとしている。


 カインの攻撃時にも感じていた。


 理由は不明だ。


 考えてもわからなさそうだ。


 とにかく相手が嫌がる事をして、勝負を長引かせる。


 また話し掛ける。


 キシ:「レイセと仲が良かったんじゃ無いの?」


 シェルミの攻撃はベリーが引き受ける。


 僕はカインに向かう。


 カインの息は整って来ていた。


 まだ強力な結界が僕とカインを阻んでいる。


 カインは槍を構えた。


 槍か。


 遠距離攻撃は、槍を飛ばしながら形状変化させていたのか。


 撃って来る気だ。


 あの攻撃なら、シェルミの結界も抜けるだろう。


 ドウ!!


 撃って来た。


 凄まじい衝撃。


 だが関係ない。


 動作を読んで、瞬間移動。


 カインの右側に出る。


 槍で突く。


 カインが槍を下に弾く。


 カインの体勢は崩れた。


 僕の右側をシェルミが薙刀で払ってくる。


 ベリーが大盾で防御。


 ベリーは受けたと同時に押し返し、シェルミの体勢を崩す。


 僕はカインの後ろに瞬間移動し、斧を振り下ろす。


 ギン!!


 カインは反応できないが、シェルミが結界で防御する。


 キシ:「勝負を急ぐ理由は?」


 シェルミ:「うふふ」

 シェルミ:「勘が良いわね」

 シェルミ:「何故だと思う?」


 キシ:「返答に余裕がある」

 キシ:「嫌な予感がするな」

 キシ:「スタミナに限界が有るとかじゃ無さそうだ」


 カイン:「シェルミ、話すな」


 シェルミ:「そうだった」


 キシ:「レイセを裏切った感想は?」


 カイン:「…………」


 シェルミ:「うふふふ」


 シェルミは嬉しそうだ。


 苦渋の決断、とかじゃ無さそうだ。


 裏切りを突いても、手を鈍らせることが出来なさそうだ。


 話題の方向を変えるか。


 キシ:「契約者から魔物の王の配下になるにはどうすればいいの?」


 シェルミ:「ないしょ」


 カイン:「話すなよ」


 キシ:「魔石が関係ある?」


 シェルミ:「見当違いも良いとこね」


 カイン:「シェルミ!」


 シェルミ:「別にいいじゃない」

 シェルミ:「兄さまが回復したら一気に蹴散らすわよ」


 カイン:「わかってる」


 回復はまだだったか。



『マギ』をダンジョン前に瞬間移動させた。


 その事を把握されている。


 カインに動きを監視されていてもおかしくない。


 まー、されている。


『マギ』達は、仮面の男とついでにジャドを回復させるために彼らに近づく。


 そこを狙う気だ。


 させない。


 全力で妨害する。


 徹底してカインを狙う。


 カインには攻撃が通るだろ。


 そう思いたい。


 僕はカインに双剣を振り下ろした。



(ジャド視点です)


 僕は死ぬ。


 右足が千切れたまましばらく止血できなかった。


 血が流れ過ぎた。


 右腕と右足を部分融合で補ったが、だからと言って痛みは消えない。


 痛みでどうにかなりそうだ。


 吹き飛んだ衝撃で内臓もやられている。


 動けそうにない。


 クインが死んだ。


 気力が出ない。


 もうどうでも良い気がする。



 僕は瓦礫の中心で寝転がっている。


 青空が広がっている。


 快晴だ。


 雨が止んで、虹が出ている。


 何も考えず、虹を見ていた。



 気が付くと、僕の顔をフェオが覗き込んでいた。


 フェオ:「死ぬ気か」


 喋る元気ないんだよ。


 フェオ:「お前が頼りなんだ」

 フェオ:「生きろよ、エース」


 エースはクインだ。


 フェオ:「この世には同一の存在がいるらしい、たぶん俺達がそうだ」


 知っていた。


 フェオ:「融合するぞ」

 フェオ:「たぶん俺の自意識はお前に負ける」

 フェオ:「お前に命預けてやる」

 フェオ:「感謝しろよ」

 フェオ:「クインの思い人」


 勝手だなー。


 フェオが僕の左手に触れた。


 そのまま、フェオと全身が重なった。


 痛みが感じられない。


 怪我が治っている。


 フェオからは、クインを失った悲しみが流れ込んで来る。


 涙が出てきた。



 他の『マギ』と合流する。


 そこに仮面の男もいる。



 僕は瞬間移動した。



 フレイズさんとロメインが瓦礫を除けていた。


 ジャド:「それじゃダメだ!」


 僕は瓦礫ごと、光と木属性の回復魔法を使った。


 即時回復魔法は使えない。


 自然治癒能力を促進するだけだ。


 瓦礫の中で、仮面の男の意識が戻るのを感じる。


 一呼吸遅れて、敵の物凄い遠距離攻撃を反射板が防いだ。


 反射板は砕けたが、勢いは完全に死んだ。


 瓦礫が切り裂かれ、仮面の男が出て来る。


 僕は仮面の男のコートを掴み、瞬間移動した。


 敵の位置まで案内する。


 僕の知覚領域はかなり拡大されていた。


 精霊が見た事のある景色がわかる。


 問題なく、敵の前まで来られた。


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