14話 宿敵

(レイセ視点です。)


 ロレアムド・アザイラス。


 魔物の王。


 負の感情の神。


 こいつとの付き合いも長い。


 ついに決着の時だ。


 しかし、その決着は俺の負けになりそうだ。


 思い返せば、初めて会った時のこいつは大人しかった。


 今、目の前に対峙しているこいつからは大人しさを感じない。


 凄まじい殺気。


 空間に広がる奴の不気味な笑い声。


 万象のクリムゲルが慣れさせようとした理由がわかった。


 ただ対峙しているだけで意識が飛びそうになる。


 万象のクリムゲルより気配が凄まじい。


 呼吸が苦しい。


 はじめてこいつに会ったとき、俺には確信があった。


 こいつには勝てないという確信だ。


 その時は声を聴いて確信した。


 今、こいつの殺気、笑い声を感じて思う。


 やはり俺達は勝てない。


 今に至っても結論は同じ。


 隣にいるアルコルも同じ事を感じている筈だ。


 どう考えても勝てそうにない。


 力の差は歴然だ。


 どうしようも無い。


 勝てない。


 勝てそうもない。


 だが、逃げない。


 最後までやる。


 覚悟は出来ていた。


 残念だが。


 感覚的に無理そうでも、足掻けばなにか奇跡が起こるかもしれない。


 その可能性に縋るしかない。


 俺達二人がここに辿り着くのに、仲間には苦労を掛けた。


 俺達二人には把握できていないが、死んだ奴もいるかもしれない。


 無駄には出来ない。


 最後までやる。


 ロレアムドの声を聴いて、恐怖が全身を駆け巡る。


 怖い。


 逃げたい。


 ロレアムドは話し出す。


 ロレアムド:「どうした?」

 ロレアムド:「ここまで辿り着いたのだろう?」

 ロレアムド:「何を躊躇う事がある?」

 ロレアムド:「情けないやつめ」


 こいつ。


 勝手な事言いやがって。


 俺はお前を、実は殺したくないんだぞ。


 喋るのが億劫だ。


 めんどくさい。


 が、しゃべる。


 レイセ:「お前、俺の仲間に成らないか?」


 ロレアムド:「ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ!!!!!」


 レイセ:「なにがおかしい?」


 ロレアムド:「初めての回答だ」

 ロレアムド:「俺は、長い間、倒されるのを待っていた」

 ロレアムド:「俺を倒して、真実をつかみ取れ」

 ロレアムド:「お前には期待している」


 アルコル:「御託はいい、こちらから行かせてもらう!」


 アルコルの斬撃がロレアムドに向かって飛ぶ。


 ケルスが剣になり、ロレアムドが装備する。


 ロレアムドは剣で斬撃を撃ち落とした。


 斬撃を撃ち落としたと同時に白い光が広がる。


 光を感じた瞬間、死を連想した。


 ロレアムドが剣で防御すると、死のイメージが脳裏を駆け巡る。


 精神攻撃だ。


 ケルスの精神攻撃がそのまま剣にも引き継がれている。


 俺とアルコルの大罪は”色欲”じゃない。


 精神攻撃に弱い。


 俺達の存在感が端から燃え尽きていく。


『能力』グレイ・フレイムと同じ効果だ。


 根源の核を握りしめ、必死で回復をイメージする。


 アルコルも同じ状態だろう。


 だがアルコルは止まらない。


 連続で斬撃を放つ。


 ロレアムドは余裕そうに斬撃を払い落とした。


 死のイメージが連続で俺達の存在感を燃やす。


 防御が攻撃の役割をしている。


 長期戦は不利。


 しかし、焦って攻撃を繰り返しても無駄だろう。


 動作に隙が無い。


 やはり身体能力が高い。


 逆にこちらの隙を突かれて、致命傷になる。


 あの剣に触れて無事でいられるイメージが無い。


 切られたら、肉体じゃ無く、存在感に致命傷を負う。


 恐らく即死。


 どれだけ存在感が残っていようとも、根源からどれだけ力をしぼりだそうとも、無意味。


 そう確信した。


 それでもアルコルは止まらない。


 アルコルは冷静だ。


 集中している。


 アルコルは連続で斬撃を放つ。


 ロレアムドも斬撃を放つ。


 アルコルと同じような斬撃を、ロレアムドは放ってきやがった。


 連撃と連撃がぶつかり合い、相殺される。


 アルコルの攻撃がロレアムドの斬撃に遮られるたびに、白い光の精神攻撃が周囲に広がる。


 白い光の射程は短いようだが、速度がある。


 躱せない。


 俺達の存在感は燃えていた。


 根源から必死に力をしぼりだし、耐えている。


 限界を遥かに超える出力だ。


 五千パーセントどころじゃない。


 死ぬ気で絞り出している。


 アルコル:「レイセ!」

 アルコル:「攻撃に加われ!」

 アルコル:「『空白作成』(ゼロ・カウンター)!」


 アルコルは斬撃のペースを引き上げた。


 全く手を緩めない。


 全力だろう。


 レイセ:「くそっ」

 レイセ:「『無限潜行』(オーバーライド・インフィニティー)!」


 オーバーライド・インフィニティーで全てを書き換える。


『能力』カットを飛ばすイメージを創り出し、攻撃に転用する。


 俺も飛ぶ斬撃を創り出す。


 俺も連続で斬撃を飛ばす。


 俺が放った斬撃とアルコルが放った斬撃が、ロレアムドの放った斬撃に撃ち落とされていく。


 連続攻撃はロレアムドとの中間地点でぶつかり合っている。


 アルコルのゼロ・カウンターは、相手の攻撃全てを相殺し、その合間を見極める技だ。


 しかし、相殺までの距離が縮まらない。


 ロレアムド:「ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ」


 アルコル:「レイセ!」

 アルコル:「ペースを上げるぞ!」


 レイセ:「わかっている!」

 レイセ:「いちいち確認するな!」

 レイセ:「お前こそ遅れるなよ!?」


 アルコル:「うるさい!」

 アルコル:「黙って俺に従え!」


 ロレアムドの出す光の精神攻撃が、俺達の存在感を焼き続ける。


 奴は一切ダメージを受けていない。


 俺達だけが、一方的に攻撃を受けている。


 そして、連撃のペースを上げても、相殺迄の距離が縮まらない。


 易々と攻撃ペースに付いて来る。


 ウォ、オ、オ、オ、オ、オ。


 気合で自然と声が洩れた。


 声を出さないと無理だ。


 脳が焼き切れる。


 全て出す。


 何も考えられない。


 全て出す。


 沸騰しそうだ。


 相殺の距離がロレアムドの方に移動し出す。


 いつの間にか、ロレアムドは腕を追加していた。


 二本追加している。


 剣は四本。


 ロレアムドは相変わらず笑ったままだ。


 余裕が有る。


 徐々に、徐々に、相殺の位置がロレアムドに移動する。


 攻撃のペースで奴を上回っている。


 オオオオオオオ。


 耐える。


 耐える。


 相殺の位置が、ロレアムドの剣まで届いた!


 アルコル・レイセ「「『滅殺』(カウント・キリング)!!」」


 攻撃のペースを瞬間的に飛躍させ、相殺と相殺の合間に連撃を叩きこむ。


 俺達の存在感は燃え尽きそうだ。


 ありったけ叩き込む。


 喰らいやがれ!


 連撃が、ロレアムドの体に触れる。


 斬撃は、ロレアムドの体を切断した。


 何度も、何度も。


 一撃で即死する筈の攻撃。


 その筈だった。


 斬撃は一撃でロレアムドの命に致命傷を与えている。


 奴は一撃喰らうたびに存在感が消滅した。


 一撃喰らうたびに死んで、全回復する。


 結果的に死なない。


 死んでも生き返る。


 奴は数百の斬撃を受けた。


 死んでは、生き返り、生き返っては、死んだ。


 奴は立っていた。


 全てを喰らって、死んで、生き返った。


 奴は死ぬ。


 死ぬが、生き返る。


 攻撃は意味を成さない。


 俺達は攻撃を止めてしまった。


 信じられない。


 どうなっている?


 どうすればいい?


 存在感は確かに消滅していた。


 攻撃は効いていた筈だ。


 なぜだ?


 なぜ消滅しない?


 ロレアムド:「ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ」

 ロレアムド:「久々に痛みを感じた」

 ロレアムド:「それで終わりか?」


 無傷なのか?


 影響を受けていないのか?


 ロレアムド:「数千年前を思い出す」

 ロレアムド:「当時はシングライト・クルフェミュアと言ったな」

 ロレアムド:「バランサーもそんな顔をしていた」

 ロレアムド:「見た事のある表情だ」

 ロレアムド:「いいぞ」

 ロレアムド:「その表情をもっと見せてくれ」


 そうだ。


 バランサーもこいつと戦った。


 そして、勝った。


 こいつはその後、復活したが。


 それでも確かに倒したと聞いていた。


 何か、何か手がある筈だ。


 考えろ。


 考えろ、俺!


 その瞬間、ロレアムドが白い領域を展開し、俺達二人は白い光に包まれた。



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